プロローグ 6

 空母ラビロン内 統合管制室ブリッジ


  綾香は、耳に流れるノイズ音を聞いた。砂嵐のような音だ。少しずつ大きくなっている。


 「こちらHQ、リキッド隊応答せよ」

 

 『こちら、...リ..........ッ...1、敵.....す....る、ザッ』


  通信が途切れた? 綾香は再度応答を試みる。


 「こちらHQ、リキッド隊応答せよ」


 しかし、帰ってくるのは砂嵐の音だ。他の部隊にも応答を求めるも、全く返答がない。


 「地上の各部隊と通史途絶しました」

 

 「解析を急いでください!」

 

 ノイズ質は徐々に大きくなっていき最後には、全く聞こえなくなってしまった。突然の出来事に、ブリッジ内のオペレーターも各々がサポートIAと共に解析を急ぐ。


 「解析結果が上がりました。地上からのジャミングノイズです」


 「発進まで残り90秒を切りました!」

 

 「通信は非常用の圧縮通信で送信しろ!急げ!」

 

 上の状況が分からない以上、彼らを信じるしかない。泰彦は、湿った手を強く握った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 『僕が何体か引き受けます』


 マクマードは、そう言うとスラスターを吹かしてN-10サイクロプスに向かっていった。


 『了解した。エコー4とエコー6は二人で編隊エレメントを組め。クシフォスを何としてもリフトから引き離せ。エコー2は俺と奴らを迎え撃つ。発射まで何としても守り切れよ!』


『『了解』』』



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 マクマードは雷のような光線を躱しながら背部のレーザー砲で迎撃する。当たりもすれば、即死だ。

 こんな状況な中、彼はヘルメット越しにやけた。奴らが怖い、死にたくない、逃げたいなど、今まではそういう思考が頭の中を駆け巡っていた。だが、今は違う。自分の中で覚悟が決まった。今更かよ、そう自分に対して思う。しかしあの時、死に直面した時、何かが外れたのだ。そして変わったのだ。どうせ死ぬなら思い思いきってやって死のうと。そう思うと不思議と体が軽く感じた。ボロボロでいつ死んでも可笑しくないはずなのに。スラスターを全開に吹かし、加速する。


 ...もっと、こっちにこい!...


 『警告。後方からN-10サイクロプスが7体接近中』

 

  7体が背後に着くと、マクマードはさらに加速した。


 『警告。制限速度Mマッハ3を超えます。マクマード、どうしますか?』


 「制限解放!」

 

 『了解。制限速度を解放します』


 制限速度を解放した途端に、体に尋常じゃない負荷がかかった。



 「ぐぅ!」


 余りの圧力に唸り声が出た。飛びそうになる意識をこらえながら感覚が薄くなっている体に力を入れて踏ん張る。彼は一直線に加速する。地平線の向こう側に行かんとばかりに。徐々に皆から遠ざかっていくのを感じた。


...これだけ引きはがせれば...


 N-10サイクロプスは、まだこっちを追っている。


...もう少し、もう少しなんだ...


 しかし、傷の影響なのか体力の限界か、ついに光線がマクマードの体をかすめた。システムはダウンし地面に向かって、落下していく。


 マクマードは、ヘルメットを強引に剥ぎ取ると最後の力を振り絞り、右腰から手のひらサイズの筒状の物を取り出す。


 ...まさか、ここで使うと思わなかったな...


 そう思いつつ側面についている赤いスイッチを押すと前に放り投げた。


 ...あぁ、もっと皆と居たかったな....


 ピッピ、と電子音がなる。少しずつ、感覚が早くなっていく。


 しかしマクマードは、世界がゆっくりになっていくのを感じた。まるで電子音が時を刻むかのようにゆっくりと鳴り響いている。そんな中、彼は目の前に光を見た。それはとても暖かな光を放っておりあまりの美しさに魅居てしまった。目が少しぼやけるのを感じるとマクマードはゆっくりと目を閉じると彼は光の中に包まれていった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 リュウとアナスタシアは、入港口ゲートに向かった。レーダーに記された座標を頼りに現地に到着すると、アナスタシアは再度複合センサーによる対ステルス用スキャンを実行した。先ほど確認した座標にはもう反応はなく、むしろ座標は入港口ゲートの端に位置していた。歪みの反応に、ピンを指すとレーダーにXN-1Hクシフォスの位置情報が更新された。これで、奴の動きを随時追跡できる。アナスタシアは、XN-1Hクシフォスが動いたのを見た。 XN-1Hクシフォスは、地面に両手を当てると腕から四本の杭が展開され、それぞれ深々と地面に突き刺さる。解析結果から特殊な周波数を、地面に放っている。よくわからないが何かする気なのは分かる。


 アナスタシアは、大型レールガンを構えた。照準を頭部に定め引き金を引いた。弾頭が直撃する、その直前にXN-1Hクシフォスのドーム状の力場によって焼失した。


「「!?」」


 二人は驚愕した。前の戦闘で解析されていた情報と異なっていたからだ。再度何発か打ち込むも、全弾すべて力場で防がれてしまう。


 『エコー6、援護してちょうだい』

 

 『了解です』


 アナスタシアは、炸裂弾から徹甲弾のマガジンに交換するとXN-1Hクシフォスに向けて再度発射した。すると、今度は直撃した。しかし、装甲に弾かれただけで損傷には至らなかった。XN-1Hクシフォスは、まったく避けるそぶりもせず体勢を維持したままだ。


 爆発物だけなのね..


『警告。上方から熱源接近』


 上から光線の雨が降り注いだ。二人は、すぐに回避行動とった。


『上方よりN-10サイクロプス 7体が接近中』


 この時アナスタシアは、一瞬だけ焦った。N-10サイクロプス7体に対してして、1人で挑むのは余りにも無謀だ。かと言って2人で相手すればXN-1Hクシフォスを疎かにしてしまう。それだけはまずい。


『私が食い止めます。姉様は行ってください』


『リュウちゃん...』


『姉様、私はまだあなたに何も返せていないんです。姉さまがあの時、あの地獄から救ってくれた事は、私にとって感謝以外の何ものでもないんです。だから、せめて最後はあなたの役に立ちたいんです』


 アナスタシアはリュウと出会った時のことを思い出した。


 7年前、地獄のような戦場で出会ったときのことを。IAイクスアームズとの開戦して間もない頃。当時アナスタシアは、戦線から撤退する味方の殿しんがりを任されていた。撤退の途中に、付近の瓦礫の中から微弱な心拍数を検知し、向かってみるとそこには瓦礫の隙間から小さな女の子が横たわっていた。建物が倒壊する際に、瓦礫と瓦礫の間に空洞が出来て奇跡的に下敷きならずに済んだのだろう。わずかながら息をしていることも確認できた。戦場で民間人が生きてるだけでも奇跡のようなものだ。傷つけないように体にかぶっている石や砂を払いながら持ち上げ抱きかかえた。顔もほこりと砂で真っ黒なのでそっと手で払う。体つきからしてまだ小学生ぐらいだろう。彼女は女の子と共に本体と合流すると無事撤退することができた。女の子は避難施設で治療を受け、徐々に回復していった。回復後は、親がすでに不在なこと、アナスタシアにべったりなことから彼女に引き取られ共に行動するようになり今に至る。


 そんな懐かしい思い出が頭にかすかによぎる中で彼女は今、目の前の少女を見る。あれから7年、あの少女がここまで逞しく成長し、そして今は共に戦う戦友として横にいる。アナスタシアは嬉しかった。だが、同時に成長した彼女を道ずれにしてしまう事が、彼女にとって一番辛かった。人はいつか死ぬ。それが早いか遅いか、それだけのはずなのに。彼女にはもっと生きてほしかった。何度説得しても、ついてきて自分がしぶしぶ了承してしまった。思えばしなければ良かったと心の中で後悔した。そして今自分がその決断をしなければいけない。覚悟は決まっていた筈なのに、たった一言だけなのに言葉が出ない。だけど、言わなければならない。アナスタシアは、震える声を抑えつつ彼女に言った。


 『リュウちゃん、頼むわね』


 『はい!任せてください!』


 リュウは元気よく返事をすると方向を変えN-10サイクロプスに方に向かっていった。目がにじむのを堪え、自分も任務遂行ためにと無理やり気持ちを切り替える。そして、目の前の黒い悪魔に向けて、レールガンを構えた。


「さぁ、始めましょうか」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 リュウは、N-10サイクロプスに向かってAG5を構えた。発砲したところで通用しないことは、分かっている。しかし、彼女はそれでも引き金を引いた。当たっても装甲には、掠り傷一つない。しかしそれでいいんだ。自分の役割ぐらいわかってる。姉様が、クシフォスを仕留めるまで死ぬわけにはいかない。

 

 N-10サイクロプスは、リュウを見つけると、すぐにも、こちら向かってきた。しかし、向かってきたのは1体だけ。残りの6体はアナスタシアの方へ向かった。奴らからしてみれば、最善で対抗できる戦力を分析した結果がこれであるのだろうが、こちらかしてみれば屈辱である。お前たちはハエ同然でありいつでも殺せる、そんなことを言われたような感じがして、リュウはその悔さを奥歯で堪えた。N-10サイクロプスは、エレクトロライフルをマシンガンの如く発射した。


「くっ!」 

 

 回避しつつ、N-10サイクロプスに接近する。スーツ越しで感じるその熱量から当たれば蒸発するのが予想できる。懐まで接近すると、腰部から専用EMPグレネードを取り出し首元に向けて投げつけた。グレネードは、途中から空中でロケット推進になりN-10サイクロプスの首にぶつかると、バン!という音とともに、N-10サイクロプスを沈黙に沈めた。力尽きるがごとく落下していくのを確認するとリュウは、すぐに方向を変え残りの6体の後を追った。


 「行かせない!」


 AG5付属グレネードランチャーを丁度真ん中にいる奴に向けて発射。弾頭は弧を描き頭部に着弾。そして、AG5の引き金をめいっぱい引いた。仕舞に、背部に搭載されているミサイルポッドを展開し、頭部に照準ロックオン、発射した。ミサイルは、縦横無尽に飛ぶように舞い見事着弾した。被弾場所からモノアイのセンサー部分がむき出しになっていた。N-10サイクロプスは、やっとこっちに振り向いた。しかもなんと好都合なことか、6体ともこちらを向いたのだ。だが同時にに全身がゾワッと痛いぐらいに鳥肌が立った。まるで刺されるような感覚、殺気だ。リュウは全力で後ろに下がると、反転して奴らとの距離を開けた。


『警告。後方から粒子反応確認』


 振り向くとN-10サイクロプスが後ろから追ってきていた。しかも、ビームの嵐のおまけつき。回避行動をとりつつ一定の距離を保つが、なんとか避けるだけで精一杯だ。N-10サイクロプスの内の1体が急加速をかけて一気に距離を詰めてきた。カメラで確認すると頭部が損傷している奴だ。リュウは、背部ミサイルポッドを展開する。しかし、


『ミサイル残弾0です』


 モニター表示からも、赤く表示された部分に目を移すと”残弾0”と表示がされていた。


 「こんな時に!」


 リュウは、ミサイルポッドを切り離し、AG5を右の背部ウェポンアームに持たせると、左腕からコンバットヒートソードを、右腕のシールドを展開すると、脚のスラスターを逆噴射し反転、フラップをしてN-10サイクロプスと対峙する形となった。リュウは、AG5を発射しながら、シールドを構えるとN-10サイクロプスに突っ込んで行った。N-10サイクロプスは、片方の拳を握るとそれを勢いよく前に突き出す。


 「甘いよ!」


 リュウは空中を蹴るように横っ飛びで回避し、即前進。腕部装甲を足場にして跳躍し接近する。狙うは頭部のセンサーだ。コンバットヒートソードを構え瞬間的に急加速をかける。


一閃。


 腕に確かな感触を感じるとともにカメラで確認すると、モノアイは両断され挙動不審になっていた。もう一撃与えようとコンバットヒートソードを構え、加速をかけようとした瞬間、真横からとてつもない衝撃がリュウを襲った。


 「がはっ!」


 肺から空気が一気に抜けるのと一緒に吐血した。一瞬世界がスローモーションに見える。衝撃を受けた方向に目が移った。そこには、もう一体のN-10サイクロプスがいた。何が起こったかわからなかったが、姿勢制御システムによって何とか体勢を整える。

 

 『警告。追撃来ます』


 リュウは、シールドを展開し防御姿勢に入った。しかし、この判断が間違いだった。何故なら、彼女を襲ったのは鉛の塊、そう銃弾だ。いや、奴らから見れば、銃弾だがこちらからすれば砲弾だ。鉛玉の雨が降り注いだのだ。自分の状況を感覚的に察知すると即座に体が動いた。体を左に傾けすぐに避けようとするも時すでに遅かった。弾は、シールドと共にリュウの義手ごと薙ぎ払った。その勢いと共に姿勢が大きく崩れる。


 「あ゛ぁぁぁぁぁーーーーーー!!」


 義手の感覚遮断が出来ていなかったせいか、神経との接続が無理やり切れたため、激痛が走った。冷や汗が全身から吹き出し、涙目になりつつも呼吸に意識を集中することで、傷みを何とか和らげる。


 『身体の異常を検知。細胞の修復を開始します』


 スーツの治療システムのにより、細胞の修復が始まった。損傷した部分からほんのわずかだが傷みが柔いで行く感じがして、少し心地ここち良い感じがする。

 しかし、そんな気持ちに浸るのもつかの間に、N-10サイクロプスが加速してこちらに接近してきた。右腕には、黄色に光る柱のようなものが伸びていた。

 

 ...光粒子長剣フォトンソード!! いや、あれはまだ未完成だったはず。完成していたの?!...



 N-10サイクロプスは、リュウに接近すると光粒子長刀フォトンソードを勢いよく振り下した。リュウは、飛ぶように避ける。AG5で迎撃しつつ、距離を取ろうとするがその都度接近され連撃の嵐が彼女を襲う。



 『警告。リアクター並びにフライユニット出力低下』


 「!?」


 戦闘の損傷で出力が大幅に低下したのだろう。急激に速度が低下した。リュウは、すぐにフライトユニットをパージした。

 

 「きゃあ!」


 パージと同時にフライトユニットは、光粒子長剣フォトンソードによって両断され爆発した。爆発の勢いをなんとか堪えるが、N-10サイクロプスが目の前まで接近していた。すぐさま回避行動をとろうとし加速体勢に入るも、リアクターの損傷でほとんど加速することはなかった。リュウは振り向くと目の前に、光粒子長剣フォトンソードがそこにあった。自分に襲い掛からんとするその光は自分の目に一杯広がっていたのだ。


 そして光を背に一瞬だけ最愛の人であるアナスタシアの姿が目の前に現れた。とても暖かい表情でこちらを見つめるとともに、リュウに向けて手を伸ばした。


 ...姉さま...ああ、やっと会えるんだ...


 リュウは、アナスタシアの手を握らんと手を伸ばす。瞬間、彼女の身体は振り下ろされた光粒子長剣フォトンソードによって、蒸発した。





 

 

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