プロローグ 2


 自然とは、とても壮大な存在ではないだろうか。自然は、自分たちが生きる上で必要な物をすべてそろえている。水や空気は、動植物問わず大切だ。もちろん太陽も。これら以外にも、木や石、土などがあり、これらのおかげで、自分達は生活を築いてこれたのである。しかもこれらすべて、無料奉仕である。

 

  人間のように見返りを求めること、いわば人間のエゴも自然には存在しないのだ。そして自然は時に心を奪われるかのような景観を見せることもある。


 しかし、このような自然が人類に牙を向いたらどうだろうか。自然の法則のままに、大きな地震を起こすこともあれば、大雨を降らせ大洪水も起こすことも可能で時に我々人類の脅威となり、奪っていくことができるのが自然である。それぐらい壮大で偉大なのだ。


 一昔前までの人類はこのような考えが一般的であったが、技術が発達するとになるとこれもすべて技術で操ることが可能となった。一見素晴らしいことに聞こえるが、これを力と唱えるなら、それはまた新たなる脅威となりえるだろう。こんな力を人類が、手にできたら人類そのものが脅威なのではないかと考えてしまう。


 今目の前で、暴風と共に風のうめき声と雷鳴から、自分達の保有しているものがいかに、驚異的であるさながら実感してしまう。


 山岳がからおよそ約700mの高さに小型艦が停泊している。

 これは、大規模な台風の影響で統合管制室のレーダーに誤差が生じてしまうのと、衛星で観測できない部分を補う役割を果たしている。また敵が出現した場合の迅速な対応が可能という利点もある。


 「こちら上空管制艇フラッド1よりH.Qヘッドクォーター、提示報告。異常なし、オーバー」


 『H.Qヘッドクォーター了解。引き続き監視を続行されたし。オーバー』


 通信を終えると後ろから気配を感じ取る。振り向くとそこには、藍色の戦闘用強化スーツに身を包んだ二人の男性が立っていた。二人とも雄々しい体格をしていて違いと言えば金髪と黒髪だということだけである。


 「マクマード。交代だ」


 「了解です」

  銀色の髪にグリーンアイそして、端正な顔立ちは、如何にも全盛期の義体者特有の顔立ちである。


 椅子から立ち上がると凝っている腰をひねりほぐす。三時間以上も座っているとやっぱり凝ってしまう。


 「そんなに緊張するか?」


 話しかけてきたのは、木下 宗一郎きのした そういちろう。研究機関サイネリア戦術強化兵、エコー隊中隊長である。体付はいかにも歴戦の猛者を思わせるかのような屈強な肉体で、左目は眼帯のような戦闘用義眼になっている。片手には水の入ったコップが握られていた。

 

 「分かりますか?」

 

 「しぐさでわかる。水飲むか?」

  

 「ありがとうございます」


 そう言って、コップを受け取るとすぐに、水を喉に流し込む。

 この船は、全長300mの小型艦であり全盛期は大気圏内における連合国軍の高速輸送艇であった。しかし、先の戦争でほとんどが消失し偶然海底に沈んでいたものを改装したものである。なので光学迷彩ステルスを搭載していることもあり、現在のような隠密行動に適している。しかし、見つかればすぐに敵に撃ち落とされかつ味方の場所を敵に捕捉されかねないのだ。


 「隊長は、緊張しないのですか?」


 「俺はもう、とっくに慣れちまったよ」


 「そうですか」


 管制室から出ると、目の前に男性が壁に寄り掛かっていた。

ブロンドの髪で、顔には右眉毛から左下唇まで大きな傷跡がある。


「ライモンさん。お疲れ様です」


「おう、お疲れさん」

 ライモン・サムス エコー隊隊員にて部隊のポイントマンだ。

 

三人揃うとそのまま、階段で1階に降りて休憩室に向かう。


 休憩室はクラシックなデザインで、比較的広い設計で中心の樹木を囲うように椅子が2列に配置されている。天井を見上げれば、太陽を模した球体が浮かんでおり、明かりの役割を果たしている。壁には海中の映像が流れていた。休憩室に着くと人数は少なくマクマード達を含め数人しかいなかった。

 それもそのはず、今は拠点移動中の真っ最中でほとんどの人員そっち側に回っている。

 戦闘員は、クライム隊、リキッド隊が地上付近をステルス兵装での警護に当たっている。なので、今この艦にいるのは、必要最低限の人員と管制を行う第2小隊しかいないのだ。

「しかし、隊長。ま~た例の被害者が出ましたよ」


「ん? あ~彼女のことか。いつものことだろ」


「いやそれが今回は、田中が撃沈しました」


「ついにあのイケメンが撃沈したのか~。なだめるの大変だったろ」


 宗一郎は苦笑した。


「コーヒーをがぶ飲みして机に突っ伏したときは、こっちもヒヤヒヤしましたよ」


 ...そういえば、この間コーヒーメーカーの豆不足はそれが原因だったのか...


 内心納得すると同時に心配にもなった。この世界では、たばこ、アルコール、カフェインなどは、法律上薬物認定されており基本的には市場に出回らないものになっている。また、コーヒーなどもそこに片足突っ込んでいる状態。いくら、カフェインの影響を受けにくい人工肉体と言えど、最近まで義体であったためか、未経験な事に対して恐怖を感じてしまうのである。


 「ま、マクマードの場合はすぐにでもガールフレンドでもできるだろよ」


 ライモンが、肩をポンと叩く。


 「一つ言うぞ”撃墜王”には手を出すなよ。痛い目見るぞ」


 「それは、あなただけですよ」


 「言ってくれるね~」

  やられたといわんばかりに返答する。


そんなたわいない話をしつつも3人で一息ついていると、女性二人が近づいてきた。


「3人とも今お暇?」

 白髪のショートカットに碧眼にしてはあまりに透き通ったセルリアンブルーの瞳にとてもきめ細やかな肌をしている。戦闘用強化スーツを着ているのも関わらずどこか妖艶な雰囲気を醸し出している女性だ。


 「アナスタシアさんも休憩ですか?」


 「ええ、そうよ」


 「てことは、後ろに引っ付いているのは嬢ちゃんか?」

 

  アナスタシアの背後からもう一人、背の低い女性が現れた。

  黒髪に高め縛ったポニーテール、右腕が戦闘用の強化義手になっている。

  

  彼女は頬を膨らませながら、木下の前に立つと。

 「嬢ちゃんじゃないです!もう20歳です!木下隊長!」

 

 「そうよね~。リュウちゃんも、もう立派な大人よね~」


 「はい!私も、もう自立した立派な大人ですから!」

  そう言うと、こぶしをドンと胸に当てる。

 

 「ガハハハ!そうか、悪かった!」

  

  笑い終えると宗一郎は、リュウの義手に視線を移す。

 

 「には慣れたか?」

 

 「はい!大丈夫です。違和感もありません。良好です!」

  

 第三世代型をベースとして製造されているためかなり古いが、現存する中では、一番安全性が高く拡張性の高い仕様になっている。また初心者でも扱いやすいことから、全盛期では世界中に広く親しまれたものである。

 リュウが身に着けているのは、これに強化措置を施し、増加装甲と折畳式シールドを取り付けたものである。彼女の見た目に反して、ごつい感じが何とも印象深い。


 「そうか。良かった」


 「それより隊長。聞いてください!」


 「どうした?」

 

 「ライモンさんが、この前またアナスタシア姉様のこと”撃墜王”って言ってバカにしてたんですよ!」

 

 「ちょ、おまバカ!」

 

 アナスタシアに視線を向けるとが腕を組んでこちらを笑顔でを見ていた。瞼の間からほっそりとうかがえる瞳は、太陽光が届かない深海のように深く暗かった。マクマードは思わず「ひ!」と声を上げてしまった。


 「うふふ、大丈夫よ。そんなことで怒ったりしないから」

 

 「おいおい。はしゃぐのもそこまでにしておけ」

 

 すると、唐突に宗一郎の耳元のデバイスに通信が入る。


「どうした?」


 その通信内容を聞いた瞬間に宗一郎の表情が緊迫た。そして、それを聞いたマクマード達も一斉に顔から表情が消えた。

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