浮気の残り香『解決編』〜消えたその香り〜その7
母親の昔話を聞いた後、一日泊まった後次の日の帰りに爺ちゃんは母さんに会う顔がないと言い、手紙を一枚俺に渡した。
爺ちゃんが俺を可愛がる理由は母さんに優しくでき無かった後悔があるのだろう。
帰る前に母の初めての彼氏のことを聞いたらどうやらその浮気相手と中学卒業前に子供を卒業してパパになってしまった。
両親から縁を切られ、成長した子供の授業参観で子供が両親の特技が裸でプロレスだって言ってしまって、近所に噂が広まり居ずらくなって今ではどこに居るかは分からない。
母が帰ってくるまでの間、俺と父さんは弁護士の天沢という人に浮気のことを伝えたり、俺は爺ちゃんから貰ったアルバムで父と一緒に動画を作った。
動画作った理由は…元に戻りたい…から
◆
〜母親の帰国の夜〜
「ガチャ」
(ドアが開く音)
カサッカサッと足音をたてて母親はリビングに足を踏み入れる。
「たっだいま~!あなた〜!会いたかったわよー!」
「・・・ってこれはどういう状況?」
「ゆうきもなんか元気そうだし…」
母さんはテーブルについている俺と父さんを見て言う。
「母さん、浮気してるよね…」
そんな戸惑っている母親に俺は奏汰くんから貰った大丈夫と書かれたお守りを握りしめながら言う。
例え昔に何があろうと浮気は駄目だ…
「え?!ん?な、何を言ってるの?」
「へ?浮気?そんなんしてないよ!」
母さんは少し取り乱した状態だった。
「海ちゃん、もうやめてくれ」
「どうか自分の子供にだけは嘘なんかつかないでくれ…」
「え?なに?本当に私知らないよ!」
「母さん、もう証拠は揃ってるんだ」
俺はそう言い、浮気の証拠写真を母親に突きつける。
「あ、あ………」
「だったら何?仕方がないじゃない」
「え?」
もう言い逃れができないと知った母親の急な開き直りに俺や父親は驚く。
「そうよ浮気しているわよ!悪い?」
「海!お前いい加減にしろや!」
「何開き直ってんだよ!」
母親の開き直りに父さんは怒りを堪えきれず椅子から立ち上がり母親に怒鳴った。
そこからは修羅場だった。
俺がまるで居ないかのように二人で口喧嘩を始めた。
「お前なんで浮気なんかしたんだよ!?」
「そんなのあんたらに捨てられたに決まってんじゃん」
「は?」
「あんたら二人と居るより彼と居るほうが幸せだからよ!」
「お前それ本気で言ってんのか?!」
「本気よ!」
(パチンッ!)
父は母の頬を思いっきし叩く。
「お前それ親として恥ずかしくないのかよ」
「いつまで子供でいるつもりだ!」
二人の喧嘩に俺はこれが夢だったら…良かったなとそう思った。
「貴方やったわね!私今あなたのこと大っ嫌いになったわ!」
「私達の愛なんてもう冷めてるのよ!いや、始めっから愛なんて無かったのよ!」
「浮気する私はもう出てけばいいんでしょ!今すぐ出てってやるわ!」
「私と同じ気持ちになっておきなさい!」
「俺もお前なんて大っ嫌いだね!」
「あぁその通りだな、俺達の間に愛なんて初めから無かった!お前と結婚したのも間違いだ!」
「さっさと出てけ!もう二度と顔見せんな!」
「そんなこと言うな!!!!」
俺は我慢できなかった、もう見てられなかった。二人が喧嘩しているとこを見るのが嫌だった。
俺の声に二人はこっちを向く。
「二人ともそんなこと言うなよ…」
「言ってしまったら俺は一体何なんだよ!」
「二人の間に始めっから愛が無かったら、俺はなんなんだよ!」
「どうして俺は生まれたんだよ!」
「二人の間には愛が詰まっていないわけないよ!」
「だってその詰まった愛が今俺が元気に生きている証拠じゃないか!」
俺は目が溺れたようにとんでもない量の涙を流していた。
「俺はずっと……ずっと一緒がいい!これからもずっと一緒だ」
「ずっと毎日家族で笑いたい!」
「それだけで……いいんだ」
俺の言葉で二人共、口を半開きにしてしばらく静寂が走る。
「・・・・・・」
しばらくして我に返った母親が奇妙な目をして俺に言葉を返す。
「あんた本当に何言ってる?」
「浮気をした私にずっと一緒がいいって頭おかしいの?」
「もしかして寝取られ趣味?」
なんで?と聞かれればそれはわからない、今俺の気持ちを言葉でどう表せば良いのかわからない。
浮気をする母親なんて最低、消えてしまえなんて思っていた。
でも………なんだろう…この虚しさ。
会いたくないのに…もう二度と会えないって思うと胸が痛い。
母親の浮気を知ってあんなに辛かった。母親に会わなければこの気持ちが軽くなるだろう。そう思っていたのに…
いざ母と離れ離れになると想像すると浮気を知った時以上に胸が苦しい…
少し前までは分からなかったが、今母になんでって聞かれた時、不思議とすぐに分かった。
あぁ…そうか…
俺は…母さんのこと…
「ああ、大っ嫌いだよ!母さんのことなんて大っ嫌い!浮気しているのなんて許せない!大っ嫌い!」
「でも……」
「嫌い以上に…お母さんが…」
涙ながらプルプルと震えた唇で俺は言葉を続ける。俺の小学校までの母さんとの記憶が脳裏に浮ぶ。
「やっぱり…『大好き』なんだ…」
これが俺が出した答えだった。
母親は俺の大好きの言葉を聞いて少しピクッと動く。それ程母にとって大好きと言う言葉が大事だった。
「母さん、これ…見てよ…」
俺は家族の思い出の写真を繋げて動画に編集し、福山雅治さんの『家族になろうよ』の音楽を入れたやつをタブレットで母親に見せる。
音楽と同時に動画が流れる。今までの家族写真が5秒ごとに一枚一枚と変わっていく。
赤ちゃんの時の俺が母の頬にキスして照れた顔をした母
俺が初めて歩けるようになった時すっごく喜んでくれていた母
俺がうんこを漏らした時少し嫌な顔をしながらも「しょうがない」と言いちゃんと介抱してくれた母
俺が幼稚園で人を叩いたことを知り思いっきり叱ってくれた母
俺が初めて料理した時、怪我しないように隣で見てくれていた母
他にも沢山の写真が流れていく…
いつの間にか母は泣いていた。多分一生分は泣いただろう。最初はどうして泣いているのがわからなかった様子だったが次第にその理由を理解した様子だった。
時間は過ぎ最後の写真が流れる。
最後は俺が産まれたとき俺を幸せそうに抱っこしている母の写真だった。手には『
それが流れ終わり音楽もほぼ同時に終わる。俺は爺ちゃんから預かった手紙を母親に見せる。
母は涙ながらも手紙を開いて見る。
『海ともう一度家族になりたい、不出来な両親ですまん…会いに行けなくて…すまん…幸せにさせれなくて………すまん…』
短い、でも深く重たい言葉だった。
「ごめん…ごめんね…私ずっと二人に捨てられたと思っていた…でも実際はただ私が二人を捨てたんだ…」
母は膝を地面についた状態で泣きながら俺に抱きついてくる。
「なんで、忘れちゃったんだろ…」
「今胸がすごく苦しい…」
「こんなに苦しいと知ってたら浮気なんてしたくないよ…」
「ごめんね、こんな最低なお母さんで…」
俺は泣いている母の頭を優しく撫でる。俺の肩は涙で濡れていた。
「俺こそごめんねママ、あんな悪口言っちゃって、大嫌いなんてもう言わない…これからずっと大好きだよ…」
「今までずっと育ててくれてありがとう…」
「本当にありがとう!」
(ギュッ)
「ちょっ父さん?!」
俺が喋り終わり突然父が俺と母を抱き締める。そして口を開く。
「昔にどんな事があっても、してしまったからにはそれ相応の罰を与える」
「・・・・・・」
「だがもしお前が心から過ちを反省しこれから家族全員で幸せになると誓えるのなら離婚届だけは取り下げる」
「少しずつ一生の家族になろう」
父さんのその言葉はただ重かった。父の両親は共に亡くなっている。二人共交通事故で亡くなってしまっていた。
父は小さい頃から親に言われた言葉がある。
それは「広い心を持った強い男になりなさい」だった。
父さんの重い言葉を聞いた母は泣きながらも「うん」と頷いて答えた。
それ以降無言のまましばらくの間俺と母は父に抱き締められた。
安心なのだろうか。とてもそれが温かく感じた。懐かしい気持ち。これが家族の温もりなんだ。そう思いながら不思議と周りが明るく見えた。
◆
夜も更けてベットで寝ていると、両親の部屋から今後の話について話していた。そして途中一つハッキリ聞こえた母の言葉がある。
「明日、
母の言葉に俺はなんだか寒気がした。世の中というのはこうも狭いものだと理解した。
〜翌日〜
どうして元カノの家に来たって?
そりゃ…
浮気相手は・・・元カノの父親だから。
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