第2話 もしかして、俺勇者?
異世界転移、それは浪漫だ。
ラノベを散々読み漁っていた俺はその辺の知識には詳しい。
異世界転移した人間はチートを持っていて、チートを使って無双するんだ。
大抵この場合、地位は勇者だろう。つまり美少女を助けようとして川に落ちたら勇者として異世界に転生していた件ってことだ。
「違います」
俺の期待はふわふわ美少女こと、リディア皇女によって打ち砕かれた。
勇者ってことですか?っておどおど呟いたことに対する返事だけど、はっきりばっさり言われた。
それから話が長くなりますからまずはちゃんとお召し上がりになって下さいと言われ、とりあえずスープを食べる。
食欲ないかもと思ったけど意外と食べれた。
食べ終わったのをリディア皇女は見届けると改めて話をしてくれた。
「まず、お名前をお聞きしても?」
「あ、…は、
「カイト様、ですわね」
リディア皇女がそう言ってニッコリ笑った。
美少女に自分の名前を様付けで呼ばれるのはなんというかへんな気分だ。
「カイト様、カイト様は勇者ではなく、神子様ですわ。神子、は神の子という意味です。そして、神子様はこの世界を形作った双子の女神様片割れ、セラフィム様の生まれ変わりになりますわ」
「え、女神の生まれ変わり?」
リディア皇女がこくりと頷く。
俺異世界の人間なんだけど何だってそんな俺がコッチの世界の女神の生まれ変わりになるんだ?
そもそもそんなのあったとしても、聖女とかだったりするのでは?
俺男なのに、女神の生まれ変わり??
「神子様とは魔王を倒すため、人間に自ら生まれ変わった女神様です。魔王が新たに生まれるたびに新しく生まれ変わり現世に降臨されます。唯一魔王を完全に倒せる存在なのですわ」
「へ、へえ………」
情報量が多すぎてついていけないけど、なんていうかとにかく、勇者じゃ駄目だったのか。
「神子様は唯一神聖力という癒しの力をお持ちの方です。神聖力は人間なら癒し、魔物や魔王なら浄化することができますわ」
なんか、攻撃力なさそう。
「勇者は基本的には別にいらっしゃいます。勇者が倒した魔物、そして果てには魔王を最後に復活しないよう、浄化するのが神子様のお役目ですわ。勇者だけでは封印するのが精一杯で、神子様の浄化があれば消し去れるので当分は平和になります」
なんか相手が魔王とはいえ消し去るとかいう物騒な単語が聞こえた。
神聖力とやらをえいやーとぶつけて魔物とかを倒せる訳ではなく、倒すのは攻撃力がある勇者にやらせて倒れたやつが復活しないようにするのが神子様らしい。思わず遠い目をした。
つまりやっぱり攻撃力は皆無………。
「実はカイト様は聖堂に倒れておりました。びしょ濡れで呼吸も浅い状態で、見つけたのは教会の司祭。…、このところ魔王が封印から蘇り悪さをしておりましたので、状況から神子様だろうとこの王城にお連れいたしました」
あ、やっぱりやけに豪華だと思ったらお城か。
びしょ濡れで倒れていたらしいとのことでやっぱり川に飛び込んだ直後その状態で転移したらしい。
「……、あの、女の子は居なかった?」
「?カイト様お一人でしたわ」
リディア皇女が首を傾げて不思議そうな顔をする。
意図のわからない質問に混乱したのかな。あの子も一緒に異世界に来てるんじゃないかと思ったんだけど、違ったらしい。
俺は女神の生まれ変わり?らしいからもしかしてその繋がりで?
と、いうことはあの子はあのまま死んでしまったんだろうか。
「実は何の因果か長らく神子様は生まれていませんでした。…、異世界に生まれてしまっていては当たり前でしたわね」
リディア皇女がしゅんとする。
というか、つまり本来ならこの世界のどこかに生まれ変わるものなのか?人違いだったらどうしよう。
何もしてないのに虚偽罪とかで処刑されたりしない?
とりあえずとぼけたフリしてたら魔王んとこ行かされて殺されるとかもやだぞ。
「きっと双子神の片割れ…、ケルビム様のお導きでしょう。セラフィム様の魂、カイト様をこの世界に引き戻して下さったのですわ」
リディア皇女は今度はそれはそれは綺麗な笑顔で微笑んだ。
ウッ、眩しい、誰かサングラスくれ。
「…、お、俺、本当にミコサマなんですか?じ、自覚無いですけど」
「間違いありませんわ!カイト様から溢れ出るこの神聖力!間違いなく神子様ですわ!」
リディア皇女がぎゅっと俺の手を握るので思わずヒェッ…と声が出た。
きらきらした眼差しをこちらに向けてくるので更に眩しくて目が潰れそうだ。
神聖力とやらって見えるもんなの?
「あ、失礼致しました…」
自分が多少興奮気味なのに気付いたのか、リディア皇女は少し顔を赤らめて照れながら俺の手を離した。かわいい。
リディア皇女はこほんとこれまた可愛く咳払いをする。
「私は皇女でありながら国1番の魔術師になります」
なんと魔女っ子だったのか。
「魔術師は魔力や神聖力に敏感ですわ。多い相手ならオーラとして見えます。もっとも、神聖力を持つのは神子様だけですので神聖力をみたのは初めてですが……、はい、すっごくキラキラして見えますわ。魔力ではあり得ない。間違いなく神聖力ですわ」
「そっ、そう、なんですかあ……」
「これから訓練すれば上手に扱えるようになれますわ」
にこにこするリディア皇女を前に、とりあえず拒否権はなさそうだと思った。
召喚ではなく俺が勝手に転移してきたみたいだし、帰る方法も無いだろう。
いや、帰ったところで居場所もないし、必要とされるならこっちの方がましか。
「体調も安定していないようですし、しばらくは世界に慣れるためにもゆっくりして下さい。カイト様の護衛はここにいるアルマが務めますわ。それから、先程も紹介した執事のシエラ、彼女も元は暗殺者なのでカイト様をお守りできます。安心して過ごして下さい」
えっ!??彼女!??女の子だったの!???
びっくりしてばっとシエラを見るとにっこりと微笑みかけてくれた。でもなんか、目が死んでる。
しかも元暗殺者って言ったような????
「あ、暗殺者って」
「私を殺しに来たのですが返り討ちにしたら忠誠を誓ってくれたのですわ」
リディア皇女はふわふわした見た目なのに暗殺者より強いらしい。こわい。
国一番の魔術師ってさっき言ってたもんな…。
「アルマさん、は…」
「僕は生まれてからずっと騎士の家系だから騎士だよ。これでもエルフ族だから魔力は多いし剣術についても優秀な方だと自負している。神子様のことは絶対に守るから安心してくれたまえ」
アルマさんは胸をどんと叩いて俺に微笑む。
そして長い耳の謎は解けた。まさか実物のエルフ族を拝める日が来るとは思わなかった。
「あ、あの、じゃあみなさん、宜しくお願いします…?」
とりあえず転移した以上はここで生きていくため、俺はこの状況を受け入れることにした。
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