第40話 愚かな流れ。

小台 空が暴走してリーブス姫を傷つけて辱めていた頃。

三ノ輪 彦一郎と千代田 晴輝は牢獄ではなく監視付きで仲間と長年過ごした屋敷にいた。


「これは表世界の鎮痛剤だ。飲め」

プラセは千代田の右腕を縫って薬を勧めると「随分深く切ったな」と言った。


千代田 晴輝は薬を飲みながら「暗くてよくわからなくて」と言って申し訳なさそうにすると呆れ顔で「痛いだろ?だからコルポファの薬ではなく表世界の薬だ。きっとよく効く」と言う。


「まあ痛いですけど死ぬ気だったんでこれくらいなら」

そう返した千代田 晴輝を見てプラセは「…表世界…」と呟く。


「え?なんですか?」

「私にはわからないが表世界の医療なら治せるのかもしれないな」


「え?」

「普通、コルポファで加護があってもこんな炭みたいになったら痛みなんかないのに聞けば痛いと返した。痛いのなら治療の可能性はあるのかもと思ったんだ。脱出組に着いていけばよかったものを…」


千代田 晴輝は門の方を見て「まあ、確証無いですし足手まといはゴメンでした」と呟いてプラセが「彼らは帰れるといいな」と言ったところで屋敷の扉が勢いよく開いて兵士が青い顔でプラセを呼ぶと何処かに連れて行ってしまった。


残された千代田 晴輝が「慌ててましたね」と言うと三ノ輪 彦一郎が「そうですね。でも牢屋ではない理由もわかりませんし、困りましたね」と言って見張りの兵士も居なくなってしまい食堂に取り残されてしまう。


とは言え、逃げる気も無いので待っていると暫くしてデリーツが現れて三ノ輪 彦一郎を見て「まったく」と言う。


「はい?」

「またと言われて嫌な予感がしていた」

デリーツは着席をすると千代田 晴輝を見て「済まない、その腕のせいで残ったのか?」と聞く。


「いえ、良いんですよ。デリーツさん。僕達はどうなるんですか?皆を呼び戻す為の人質ですか?」

「最初はその目的で残されたが状況が変わっている。私は姫に信頼関係があるから説得を行うと言う名目で立候補をして来た」


デリーツが遠慮なく話す事に三ノ輪 彦一郎が「それ、そんなに話して良いんですか?」と聞き、千代田 晴輝も「確かに、兵士さんも居ますよ?」と続ける。


「安心してくれ、彼はモブヘイと言う。5回目の勇者達と会話を交わした事から我々寄りの考えを持つようになった男だ」


デリーツはここ数時間の話をしてくれた。三ノ輪 彦一郎の話に従ってユータレスから小台 空が出てこないようにする為に向かったリーブス姫が小台 空の手で斬られてから辱められた事なんかが説明される。


「おお、小台君ってやるもんですね」

「彼は中学校からの身上書に荒川君からイジメに見えてしまいかねない過度のじゃれあいを受けていたとあったのでいつかは救ってあげたい生徒の1人でした」


イジメと書くと中学校の怠慢になってしまうので過度のじゃれあいと書かれていたがそれがイジメなのは一目瞭然で、入学式の日もその後も注視していると荒川 大輝が示威行為の一貫として小台 空を貶めて辱めて自分の立場を確立しようとしていたのを三ノ輪 彦一郎は見ていた。


デリーツが話を戻して「姫に狼藉を行った事により、今は手足を縛ってユータレスに入れてあるが、罪が罪なので亜による処刑も考えられる。その際に勇者の代わりにユータレスに入ってもらえるように君達を説得するのが私の役目だ」と説明をする。


「成る程、納得です」

「お姫様は無事なんですか?」

「見てきた感じは元気そうだが、こればかりはプラセの診断待ちになる」


その後2時間して戻ったプラセに姫の状況を聞くと渋い表情をしたプラセは「判断に困る内容だ」と言った。


「何?姫は元気そうだったぞ?傷は軽いのではないか?」

「加護が生きている間だけだ…。臓器と太り血管が傷ついている。とりあえず止血はしたが、本来なら止血をしても危険な状況と言っていい怪我だ。血が止まるまでユータレスが保てばいいが万一ユータレスが消失して加護が消えたりしたら急に悪化もあり得る。デリーツなら五分五分、私なら死んでいる怪我だ。姫だから耐えられてる」


流石にリーブス姫の嬉々となればデリーツは顔色を変えて心配する。

聞いていて最悪を考えてしまうのだろう。


「姫はその事を…」

「伝えたがユータレスとエグスの加護が消えるはずがないと言うだけだった」


ここで千代田 晴輝が「あの…、一応聞きますけど、お姫様の代わりは?」と口を挟む。

「姫に子がいれば繰り上がったであろうが、姫は子を産んでいない。もう姫の父であった王も母君も亡くなられている。なので万が一の場合は頂上人から次のトップを決めることになる」


「それはどうするんですか?」

「加護の強さ、髪色だ」


話を聞き、デリーツとプラセ、モブヘイは真剣な表情をしているが三ノ輪 彦一郎は「成る程、ですがまあユータレスに小台君が居ればなんとかなる事でしょう。無駄遣いさえしなければですね」と意見を述べていた。


「そうなのか?」

「それは有益な情報だ。モブヘイ、すぐにそれを伝令するんだ」

すぐにモブヘイが城に向かって駆けていく。


だがそれは遅かった。

リーブス姫は怒り狂っていた。

三ノ輪 彦一郎から話を聞く前、プラセが部屋を後にするとすぐにストルトを呼び出して追走隊を編成させる。


「全滅でなければ構いません。数が半分まで減る事は見逃します。すぐにエグスと表世界の連中を連れ戻しなさい!連れ戻せば加護を与えましょう」


この言葉にストルトは目の色を変えて喜ぶ。

加護が外れてからは辛い日々だった。

ほんの少し動くだけで息切れを起こし、何もしていないのに風邪を引く。

元々の高圧的な態度が災いして誰もストルトに同情しないでこれでもかと笑った。


その苦しみで心が傷ついた。

心が傷つくと連動するように身体はボロボロになる。

そしてまた心が傷つく。


家族はそんなストルトを馬鹿にしていた。

その日々から脱せられるならストルトはなんでもする心づもりでいた。


「ストルト、行く前にユータレスに行ってあの痴れ者に仲間達の行き先を聞きなさい。そして逃げ出した連中に会ったら無理矢理表世界から1人でも人間を呼びつける。お前達だけで逃げるのかと言いなさい」

「はい!わかりました!」


ストルトが鼻息荒く部屋を飛び出したのを見てリーブス姫は人を呼ぶと「すぐに召喚を行います!準備をしなさい!」と言ってしまった。

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