第31話 2人の勇者。

脱出に向けての方向性が決まった。だが問題は小台 空だった。

他の勇者達は全員がエグスを目指して殉死していた。


4年前、小台 空は意気揚々とユータレスには入ったが奥に行く勇気もなく、後から来た多摩 剛にも追い抜かれる事になる。

小台 空曰く姫に泣きつかれて男を見せる気になったが目の前で多摩 剛が死ぬところを見てしまうと怖気付いたそうだ。


この説明に大塚 直人が「え?お前あんだけドヤ顔でユータレスに攻め込んだからてっきり俺たちは姫さんとやる事やったんだと思っていたんだけど…」と言って4年前の小台 空の姿を思い出す。

小台 空は照れ臭そうに「…一緒のお風呂で清めてくれたし…キスもしてくれたけど…その先はフェルタイしたらって言われた」と話をする。


この説明に大塚 直人が「…あ…、なんとなく勇者の条件読めた気がする」と言って豊島 一樹が「マジっすね、多摩の奴も多分同じ系列ですよ」と言った。


そして一瞬の間の後で大塚 直人が「え?それだと群馬さんも?」と言って群馬 豪を見る。

ザ・男気、任侠映画に出られそうな雰囲気の群馬 豪が姫の色香に惑わされて「うひゃー!姫にいい所見せるぜ!」とか言いながらユータレスに突入していく姿はとても想像できない。


視線を感じて言いたい事がわかった群馬 豪は「……私たちは違う。どう見ても非力な富山という奴に行かせると言うから代わった。大宮 太郎にも聞いたが、姫が上尾というヒョロヒョロを推薦してきたから代わったと言っていた。非力な富山に任せたらフェルタイまで何年かかるかわからない、だから代わった。女子共を早く帰してやりたかったしな」と言う。


この言い振りこそ会って数時間だったが群馬 豪その人であると思った豊島 一樹が「おお、漢っすね」と言って尊敬の眼差しで見ていると三ノ輪 彦一郎が「ふふ。君達も少しは見習うといいかもね」と言った。



話を戻すが、コルポファに来て4日しか経っていない小台 空はとにかく頭の中がファンタジー一色のお花畑満開で「まさか彼女が?」と言って聞かない。それなのに亡くなったメンバーの話になると「異世界だから仕方ないよ」で済ませてこようとする。


荒川さくら高校の生徒達はどうしても人となりを知っているだけに小台 空の現実を見ていない態度が許せない。


梶原 祐一が「お前!よく見ろ!これは俺と宮ノ前の息子だ!お前には4日でも俺達はもう4年もここに居るんだ!」と言うと小台 空は「不思議だね、流石は異世界。でもだからこそ話し合いで何とかなるんじゃないかな?」と言って話にならない。


これにより緊急の会議が始まる。


「なあ戦場、この場合アイツを京成学院の奴らのように始末しても許されないか?」

梶原 祐一の言葉に戦場 闘一郎は「許されるが良いのか?」と確認をする。


「致し方ないだろ?三ノ輪先生には悪いけど、アイツが生きていると間違いなく全バラシして大変な事になる」

この言葉に三ノ輪 彦一郎も困った顔で「…うん。僕もそう思ってるよ」と言った。


これでほぼ満場一致になり、群馬 豪にはエグスを迎えに行くついでにユータレスの中で始末ははばかれるから小台 空を気絶させてきてほしいと頼む事にする。


「確かにあの男は足手まといだな。一応行くまでの間に説得は試みる。無理だと判断した時は任された。

私はユータレスで四ツ谷 一輝の介錯もした。彼は中々の気合の持ち主だったがエグスに来た時には助からない傷だった。それでも同級生の皆を日本に帰す為に来たと息も絶え絶えで言うだけ言うと倒れた。

そして介錯が必要かと聞いたら彼は頼むと言っていた」


群馬 豪は40年前の人間と決めて大人扱いをしてしまっているが、この場の中では、桔梗と勝利をぬかせば最年少の部類になる。

それなのに戦力として期待をして、命を奪う事を頼んでしまい、群馬 豪自身ユータレスの中で苦しまないように四ツ谷 一輝を介錯してくれている。

席を立って「済まない」と謝った戦場 闘一郎は着席すると「エグスまではどのくらいで着く?」と聞いた。


「1日だ、エグスの許可をもらっているから直通で行ける」

「往復2日か…。エグスに着いたらスタークを普段通り出せないか聞いてくれ。これではすぐにバレる」


「わかった」と言った群馬 豪は立ちあがると玄関で待つ小台 空に「とりあえずエグスを連れてくるのは今の姫も望んでいる。迎えに行くぞ」と声をかける。

小台 空はそれに見事に釣られて群馬 豪の後をついていく。



群馬 豪は向かいながら熱心に小台 空の説得を行うが何を言っても、周りがリーブス姫の人となりを誤解している。群馬 豪の時は酷い姫だったのだろうがリーブス姫はそんな人ではないといい続けて譲らない。そもそも聞く気がない。


話にならない。

だが諦めたくない。


あの死んでいった四ツ谷 一輝は生きたかったはずだ。まさか外では何年もの時が過ぎていて師や友を失ってしまったとは夢にも思うまい。

会った時には既に事切れていた鐘ヶ淵 匠も生きたかったはずだ。日本に帰りたかったはずだ。


そう信じて説得を試みるがやはり話にならない。

群馬 豪は気づいていないが小台 空はリーブスを…フェルタイを成し遂げた後のリーブス姫との性交渉の約束だけを信じていた。


ユータレスから戻って来て、自分を虐めてきていた荒川 大輝らが死んでいて比較的まともな連中が残っていたが、それでも彼らの言葉を信じてしまうと自分は何だったのかという話になる。

異世界美女の色仕掛けに引っかかり、ドヤ顔で格好つけて死地に赴いたが、すぐに腰を抜かして群馬 豪に救われた。

このまま日本に帰っても笑いものになる。


小台 空はそんな気持ちで居て、冷静な損切りが出来ない状態にいる。

実際今なら「お前は騙されていたんだ」「仕方ないって」と皆が優しく迎えてくれるのに異世界美女との初体験に釣られた情けない男にだけはなりたくない。だから群馬 豪達の言葉には従わないと意固地になっていた。

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