第2話…現在①

「美樹さん、これも試作しておいてください。予算のことなら加藤に話して」


「はい、次の来社日までにやっておきます」


「では、よろしく」


はぁ、やれやれと打ち合わせが終わる。


この大きなプロジェクトの取引先の責任者が榊原さかきばらさんだった。

定例の打ち合わせが終わった後、私はこの人と待ち合わせている。

誰にも内緒のお付き合い。



ぴこん🎶


『今日は予定通りでいいですか?』


「はい、名駅の時計の所で、18時」


それだけ送信して、急いで追いかける。

久しぶりのデートにワクワクが止まらない。

何を話そうか。





榊原さかきばらさんが予約してくれたイタリアンのお店で、赤ワインを飲みながらのおしゃべり。


「その頃出会っていれば、僕はまだ独身だったので美樹さんのことを略奪していたかもしれません」


「ホントに?」


「そうです。僕の恋愛や結婚には、そんなドラマチックなことは何一つなかったので、そこで出会っていればおそらく…」


ワインの飲み過ぎだろうか。

そんな夢のような想像話が榊原さんから出るなんて。


「タイムマシンがあったら、戻ってみたいですね、そして、榊原さんと出会う」


「おもしろそうですね」


「でも、その場合、今こうしているという記憶がないと出会ってもすれ違うかも?」


「じゃあ、こうしましょう。おぼえておきましょう、今こうしていることを。そうすれば出会った時に、感情が湧き上がって…」


「略奪してくれるんですか?」


「今のこの気持ちのまま、戻ることができたら、ですがね」


そんな話。


好きだなぁ。

好きで好きで好きで好きで好きで好きで

好き過ぎてたまらない。


もっと早く出会っていたら?

どこかに落ちてないかなぁ?タイムマシン。


ほろ酔い気分でタクシーで帰った。



◇◇◇◇◇



次の日。

書留で私宛に郵便が届いた。


差出人はなく、中にはQRコードが印刷されたカードだけ。


なんだろ?

何かの詐欺?

QRコードを読み取る。


【BOXたられば】使用説明書。

なんだ?やっぱり詐欺?



①このアプリを起動させたまま地図アプリを起動する

②地図にある場所へ行き、鍵で中へ入る

③椅子に腰掛け、行きたい場所行きたい時代会いたい人を思い浮かべる

④会いたい人に会えたら話せるのは5分だけ


※使えるのは2回まで。3回やると、現在の全ての人の記憶からあなたに関する記憶が全て消去されます。



何が2回できるのか?

行きたい時代?もしかしてタイムマシン?


やった!

これはもう、仕事なんかしてられない。

私はアプリを起動させて、地図に記された場所へ向かった。


ていうか。

会社のすぐ近くの駅の駐車場に、その箱(?)はあった。

汚い字で【BOXたられば】と表札みたいなものがかけてある。

見た目はコンテナ。

鍵は表札にテープで留められていた。

無用心じゃないの?

中に入ると真ん中に古びたロッキングチェアが置いてあった。


えーと、

椅子に腰掛け、行きたい時代と場所と会いたい人…と。


バタンと扉が閉まった。

え?嘘!

閉じ込められた?ドッキリか?

このまま出られないとか?えーーーっ!

1人パニック。

真っ暗闇の中、固いはずのコンテナが、ぐにゃりと歪んだ気がして、今度はゆっくりと扉が開いた。


懐かしい空気感。

街全体がどこか浮かれたように、騒ぎ立てている。

行き交う人たちの服装と、話している言葉で理解した。

時を戻してる、私。


あっ!あの後ろ姿は。

見つけた!


がしっと羽交い締めにし、どこか2人きりで話せる所へと引っ張って行く。


そして、最初のページへ戻る。






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