キャンプファイヤー

夏合宿の日は夏休みに入ってすぐだ。


私は「都市伝説はだよ! 」って強がっていた。


でも、夏合宿が近づくにしたがってフォークダンスの時『最後に手を繋いでいるのが修だったらイイナ』なんて思う様になった。


もしそうなったら修に『つきあってください』って私から言える。

私は不安と期待が入り交じった夏合宿を心待ちにした。


##

夏合宿の当日は天候にも恵まれ、私の心を映す様に突き抜ける様な空になった。

日光の湖の辺りは東京より5度くらい気温が低い。

夏の強烈な日射しもここでは我慢出来る範囲だ。


私は自然散策を選び日光の自然を楽しんだ。

というのは建前で本当のところはただブラブラしたかっただけだ。

龍の棲むと云われている瀧へ歩いて行ってみる。

そこは本当に糸が撚り合わさる様に水が流れている。


その瀧で私は都市伝説を信じていないと言っておきながらお祈りをした。

『どうか、フォークダンスの最後は修と迎える事が出来ます様に! 』

「私の願いは届くかな?」



夕飯はキャンプ定番のカレーをみんなで作り、気の合う人達と一緒に食べた。


日が暮れてくるとキャンプファイヤーの薪に火が着けられてレクリェーションが始まる。


こんな場所で『怪談話』をしてみんなを怖がらせる奴がいた。

湖畔から見た湖面には薪から上がる炎がユラユラ映っている。

私は怪談話は苦手なんだから、もうホントに止めて欲しい。

でも、昼間お祈りした龍の神様は私の事をちゃんと見ているだろうか?

それだけは信じたかった。


まもなくフォークダンスが始まる。

生徒がそれぞれキャンプファイヤーの周りに集まりだした。


「男子が若干少ない様だから俺が男子側に入ろうか?」

担任が入って来ようとしたので・・・

委員長の葵が止めに入った。


「先生はただ女子と手を繋ぎたいだけですよね? 」


「いや、人数合わせにと思っただけだ! 」


「先生? 生徒同士の交流の機会なんですから邪魔しないでください! 」


「分かったよ・・・ そんなに目くじらたたて怒らないでくれよ。」

委員長の葵は担任を追い出すと、男子女子の列をまとめていった。


ふっと私が葵の前に入ろうとしたら葵に止められた。

「茜は上手く踊れないでしょう? 私の後ろで私の事よく見て踊ってね! 」


「わかったわよ。どうせ私は下手ですよ。」


「ゴメン、ゴメン怒らないでよ。」

ぶすっとした私の頭を葵は軽く撫でて笑った。


「もう、始まるよ!」


オクラホマミキサーの音楽が鳴り始めた。

みんな大して練習してないから変な踊りだ。

「キャンプでのフォークダンスってが多いけど、男女で手を繋ぐ時間がの方が永いからこっちにしよう。」

そんな風に葵が変な気の利かせ方してたのを思い出した。


一週目、修と手を繋いだ。

修と手を繋ぐのなんて小学校低学年以来じゃないだろうか?

あの頃より修の手はゴツゴツとした男らしい手に変わっていた。

ちょっと懐かしい様な、恥ずかしい様な気持ちになったけど修と手を繋いでいる時間はあっという間に終わってしまった。

『まだ時間はある。もう一周回って来る。』

そんな気持ちで私は踊り続けた。

そしてフォークダンスの最後の瞬間、修は私の一つ手前の葵と手を繋いでいた。


私は・・・


私は亮と手を繋いでいる。

私は暫くの間呆然としていたら、担任が「終了だ! 修・亮、終了だっていってるだろ! 」って怒りだした。

私と亮、葵と修は20秒以上手を繋いでいたみたいだった。


私は修の顔をジッと見た。

修も私の顔を見て何か言いたそうだったが、みんながもう動きだしていてその流れに乗って行ってしまった。


「待って! 」


私は一歩踏み出したがその時足を捻ってしまって、その場にうずくまった。

「痛い! 足を捻っちゃったみたい! 」


隣に居た亮が私の事を心配して声をかけてくれた。

「管理事務所に湿布とかないか聞いてみよう? 」


亮は私の事をおんぶして歩き始めた。

突然だったので私は暫く何も言えなかったが、何故か涙が溢れ始めて亮の背中に落ちた。

亮はそれに気づいたのだろうか?


「足が痛むのか? ずっと付いててやるから心配すんな!」


亮の言葉は私の身体中にしみた気がした。

そして私は今日の事でなんだか全てが吹っ切れた気分になった。


「亮、ありがとう。私みたい娘で良かったらつきあってくたさい。」


亮はビックリしていたがとっても嬉しそうな顔で私に微笑んだ。

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