ダンジョン攻略を辞めたい男(21歳)、なぜか美少女達から攻略対象とされてしまう

脇岡こなつ(旧)ダブリューオーシー

第1話 ダンジョン攻略をやめたい男

 ダンジョン。

 それは、数多ある階層に分かれる大迷宮。おぞましい魔物が住まう巣窟のことである。

 冒険者は富、名声を求め命を懸けてダンジョンに挑んでいく。ギルドに名前を登録し、武具を揃えて。

 かくいう、アレン(21歳)もそんなしがない冒険者の一人であるのだが。


「やっと辞められる……。ダンジョン攻略なんていう命が何個あっても足りないミッションを」


 貯金箱が金で満たされているのを確認するとアレンはテンションを上げた。

 冒険者を初めて2年と少し。

 田舎出の金無しはそれなりの小金持ちになれたようだ。


 長かった。いや、ホント長かった。

 ゴブリン、犬人コボルド、スライムなどの低級モンスター、時に中級モンスターを狩ることでようやく貯めることの出来た金だ。


 これだけの金があればもう冒険者なんてやめてもいいはず。あんな化け物達と血の流し合いなんてしなくていいはずだ。


 ふっ、我ながらよくこれまで頑張った。

 これだけの金さえあれば、いつ死ぬかも分からん冒険者なんてとっとと辞めて、商人あたりに転職すればまぁどうにかなるだろう。

 贅沢は出来ずとも、凡人程度のつつがない生活は送れるはずだ。


 さっ、そうと決まればとっとと冒険者登録解除の申請を出して、冒険者を辞めてこよう。

 ちょいと冒険者は俺には荷が重いのだ。


♦︎♢♦︎


 迷宮都市——クラシス。

 それは、ダンジョンである地下大迷宮の真上に作られた大都市である。この都市は【冒険者ギルド】の町として発展しているため、様々な種族の者たちが生活を営んでいる。

 アレンをはじめとした人族、獣の耳や尻尾をもつ獣人族、長い耳をもち長寿とされるエルフ族などだ。

 

 余談にはなるが異なる種族どうしでは争いが絶えないらしい。俺からすれば心底どうでもいいのだがな。


 まぁそんな背景もあってか、血気盛んな町としても、この迷宮都市は名高い。


 まだ二年とちょっとしかクラシスで生活していない俺から言える知識はこのくらいだろう。


 ちなみに、俺はクラシスからは離れた辺境の田舎育ち。


『冒険者なら、一攫千金を狙える!』

『冒険者なら、女にモテまくる!』


 田舎の友人にもてはやされた言葉を間に受けた当時の俺はどうにも馬鹿らしいが、当時の俺はその言葉を信じて、なけなしの金だけもって二年前——この迷宮都市にやってきたのだ。


 しかし、結果はまぁ散々。言うまでもない。

 現に俺は非モテを極めた21歳童貞であるし、冒険者で豪遊生活なんて夢のまた夢の話だった。


 冒険者という職に目を輝かせ、ダンジョンに潜ること二年。『この職業やめてぇ』欲しか、もはや出なくなった。夢をみていた自分にはっと醒めたのだ。


 それからは、淡々と転職できる分だけの金を貯めるために辛抱強く冒険者を続けた。

 そして、今に至ると言うわけである。


(お前ら。モテたいなら。金持ちになりたいなら、冒険者にはなるなよ? 俺みたいになるからな)


 そんな反面教師づらをして、大通りを通っていると、冒険者ギルドへとたどり着いた。


 くくくっ。あっ、いかん。いかん。冒険者をやめれるからか、今から笑みが溢れてくる。

 俺はパチンッと頬を叩き、気合いを入れ直してからギルド内へと足を運んだ。


♦︎♢♦︎


 冒険者ギルド。

 それは、ダンジョンの運営管理を任された組織のこと。多種族の者たちがギルドに名前を登録しては、冒険者として、いざダンジョンへと出陣していく。その際、冒険者には必ず助言なりサポートをしてくれる人物が一人つくのだ。


 そう。その存在こそが受付嬢。

 ダンジョン、冒険者絡みの話であれば、必ず自身を担当してくれる受付嬢に話を通さなければならない。


(冒険者を辞めるといったら、はどんな反応をするだろうか)


「あっ、アレンさん! 今日はどんなご用件で」

「…………」

「アレンさん? もしもーし」


 ……うん、きっと彼女なら俺が冒険者を辞めると言っても盛大に寛大に祝ってくれるだろう。


「ア〜レ〜ンさ〜ん。無視ですか? 怒りますよ?」


 考え込んでいると、むぅと頬を膨らませた可愛らしい女性が俺の視界に映り込んだ。


 艶のある白銀の髪につぶらな紫紺の双眸そうぼう。間違いない。この女性は俺の担当受付嬢……アンナさんだ。


(今日も相変わらず、すごい。いや、ほんとにすごい、うん。明らかに服に胸がおさまってない)


 すらりとした体躯とたわわに実った豊満な胸を、ぎゅっと締め付ける彼女のスーツ姿。

 受付嬢専用のスーツだろうが、間違いなくサイズあってない。うん。胸はち切れそうじゃないか……。視線を胸に向けずとも、が分かってしまう。


「あっ、アンナさん。こんにちは」

「はい。こんにちは、どうしたんですか? さっきから心ここにあらずでしたけど」

「すみません。考え事をしてました」

「アレンさんが、考え事なんて珍しいですね」


 ふふっと、手を唇に当てて微笑むアンナさん。長居するのもあれだから、さっさと要件だけ言って終わらせよう。


「あ——」

「それはそうと、聞いてくださいアレンさん!低級モンスターのクエストの案件が今日はたくさん入ってるんです。3階層、スライム20体の攻略なんて今日はいかがでしょう」

「あの、すみませんが」

「でしたら、ゴブリンの攻略にしますか?」

「その」

「ふふっ、わ・た・しの攻略にしてみますか?」

「……………」


 またでた。アンナさんのからかい癖だ。これで顔を赤らめたりすれば、『本気にしました? アレンさん可愛いです』とか言って笑われるのだ。はぁ、ほんと勘弁してほしい。

 俺は間に受ける男じゃないって分かってるはずだろう。


「そういうことやってると、いつか痛い目に遭いますよ。本気まじになって勘違いするやからだっていますから」

「ふふっ。こんなこと言えるの、アレンさんだけですよ」

「またまたそんなこと言って」

「…………………


 アンナさんが小声でボソッと何かを呟いた様な気がしたが、俺はそれを無視。掘り返してもまた揶揄われるだけだ。今度こそ要件を伝えてとっとと冒険者を終わらせることにしよう。


「あの、冒険者辞めにきたんですけど」

「…………………………………え?」


 アンナさんは紫紺の瞳を大きく見開かせると、やがて悲しげな表情を浮かべた。


 ん? なんでそんな顔をするんだ?

 俺みたいなやつは、そのへんにいるだろ。それに実力も全然ないのに。なのになんで??

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