第1話 まずは基礎から!②





授業が終わって放課後、帰る準備をしていると陽真が声をかけてきた。


このタイミングで声をかけてくるってことはおそらく遊びの誘いだろう。


主にゲーム以外の誘いだ。



「翔!この後予定ないならクラスの皆と遊びに行くんだけど一緒にどうだ?」


またかと思いつつ少しだけ考える。


確かに予定といえば陽真も知ってはいることだが、僕はゲーム以外やることがない。


というか他にやる気が起きない。


家に帰っても母さんは小さい頃に他界して

いて僕には母親はいない。


父さんは単身赴任で実家にはいない状態だ。


高校の通学の負担を減らすために父が実家と高校のちょうど間くらいの通学路に、アパートを借りて僕に1人暮らしをさせてくれているので本当にやることがない。


それに父から仕送りもしてもらっている。


あまり使わないように心がけているが、余裕もあるし、陽真の誘いを断る理由はない。


いつも誘ってもらいつつも、やんわりと断っているから陽真には申し訳ないと思う気持ちもあった。


ここは陽真の顔を立てる意味でも誘いに応じるべきだろうなと感じてしまった。


「…ああ、いつも断ってて悪いし、今日は

行くよ」


「あぁ、別に気にしてはいねーよ、まあでも来てくれんならよかったよ」


明るい口調で陽真は僕にそう言って遊びに行くメンバーに声をかけに行った。


そういえば駅前に本屋があったはずだ。


《行く前にあの雑誌買わなきゃ__》


手を止めていた帰り支度を早めに済ませる

ように筆記用具や教科書をカバンの中に入れて、教室を出た。


______


移動すること20分、着いた場所は駅前の5階建ての2階にあるカラオケだった。


道中、皆と話し合った結果カラオケに行くという事になった。


1階にはカラオケのフロントとゲーセンが一緒になっていて、ゲーセンだけでも遊べる空間になっている。


僕達は先に、フロントでカラオケの受付を済ませてから部屋に向かった。


(カラオケかぁ…歌は正直苦手なんだけど)


歌が苦手なのでゲーセンに行きたかったが、

カラオケ多数派の中に意見をいれる勇気は

なかったのでこの結果になった。


「悪いな」と申し訳なさそうに言う陽真に気を使い、承諾してしまったのだ。


渋々ではあるが案内された部屋に着いて、

ドリンクやお菓子の注文して歌い始める。


陽真は僕が歌うのは苦手ことを知っている

ため、僕にマイクが回らないよう配慮してくれているようだった。


また変に気を使わせてしまうのはお互い様だが、陽真は気を使うことに関してはそれを

進んでやりたがるのだから頭が上がらない。


いつかちゃんとお礼をしておかないとバチが当たりそうだな。


今日集まった人数は男子である僕を含め4人と女子が4人の合計8人のメンバーが揃っていた。


クラスメイトなので面識はあるけど、まだ名前と顔を覚えていないので自分からはあまり話を振らないようにしていた。


その辺のもの覚えが、僕はあまりよくない。


その中に明日見さんも来ていて、女子同士で雑談を始めたり順番が来たら歌っていた。


自分も盛り上げるために手拍子をうったり

していたが、やはりだんだんと手持ち無沙汰に感じて出された飲み物とお菓子だけが進んでいた。


仕方ないのでカラオケに来る前に買っていたゲーム雑誌をペラペラと流し見していた。


あまり誰かにツッコまれるのは本意ではないが、雑誌の場合はどうしても目につく物ではあるので僕は諦めて中身を見ていた。


すると僕の様子に気づいた最初の人物は、意外にも明日見さんだった。


「何見てるの?」


「ん?あぁ……ゲーム雑誌だよ」


自分の隣に座った明日見さんは僕が開いているページを一緒に見始める。


女子特有のふわっと甘い匂いがして一瞬、

ドキッとしてしまう。


平常心を保つために、僕もそのページに目を向けて視線を逸らした。


ちょうどモンクエの情報が載ってるページを開いていたので、少し食い入るように見ていた。


「……天河君ってさ」


突然隣にいる明日見さんに声をかけられたので振り向くと、少し真剣な目で僕を見ていた。


「このゲームやってるの?」


「……え?あぁ、うん、やってるよ」


「ふーん、そっか……うん!ごめんね邪魔しちゃって!」


そう言って彼女は俺から視線を外して女子メンバーの中に戻っていった。


いつもの流れるような冗談が出ず、そのまま答えてしまった。


何か不快に思わせてしまったかと様子を伺ったが、反応を見る限り悪い印象を与えた様子はなかった。


(なんだったんだろう?)


彼女の意図が読めず返事が出来なかった。


よく分からなかったが、とりあえずこのまま雑誌を広げていてもまた明日見さんのように声をかけてくるかもしれないと思い、仕方なく雑誌をカバンにしまい込んだ。


やがて一通り歌い終わった陽真達は時間を見てそろそろお開きという話になり、お店を出た。


現地解散ということで陽真達と別れ、俺も

帰路に着こうとした時だった。


「天河君!」


「……あれ?明日見さんどうしたの?」


また明日見さんが声をかけてきた。確か女子メンバー達と駅に向かったと思ったんだけどどうしたのだろう?


さっきのカラオケで忘れ物でもしたのかな?


「えっ……と、その……天河君に……伝えたいことが……」


「僕に?」


「うん……ちょっと、恥ずかしくて、言いづらいんだけど……」


手をモジモジさせ、俯いて話す明日見さん。


本当に恥ずかしそうに僕とは視線を合わせてはくれない。


なんだろう、これってなんかドラマとかで見た好きな相手に告白するシチュエーションに見えなくもないんだが……。


彼女が何を考えているのか全く分からないのでその場で固まってしまう。


もしかしたらさっきのカラオケでのことなのだろうか?


何か気分を害してしまったのなら素直に謝ろうと思い、彼女の言葉を待つ。


「私と……」


「……はい」


「私と!……狩りにいってほしいの!」


「――……はい?」


まじで何を言っているのか疑いたくなるような台詞が飛んできた。


俺はその場で立ち尽くしたまま、思考を停止していた。



___________ now loading……

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