したかったのは異世界転生であって転移じゃない2

さよ吉(詩森さよ)

第1話 エイモスを誘って


 やっぱりキラにちゃんと恋愛させてあげたいと思ったので、続き書かせていただきました。

 書いてみて判明したのですが、この作品は『錬金術科』の関連作品でした。


 全然前の話を説明していないので、お読みでない方はまずは1から読んでみてください。

 よろしくお願いいたします。


『したかったのは異世界転生であって転移じゃない1』

https://kakuyomu.jp/works/16816927863333521343

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 それからの私はちょくちょくエイモスと食事を取るようになった。

 彼と付き合うというより、誰かと一緒にいるということに慣れるためだった。


 魔族のエイモスは圧倒的な力を持っているので、特定の仲間を作っていなかった。

 私もどうしても危ないときは聖焔せいえんを使わなくてはならないので、基本的にソロになる。


 そうなると仲間を持っている冒険者を食事に誘いにくいので、必然的に彼を誘うようになってしまったのだ。



 それで面倒なのが、エイモスに好意を持つ女たちだった。

「ちょっとアンタ、抜け駆けするんじゃないよ!

 エイモスはみんなのものなんだから‼」


 ああ、こういう人たち向こうにもいたな。

 クラスのカッコいい子にちょっと話しかけられたら、突っかかってくるヤツ。



「森沢って、ハーフモデルの○○に似てるよな」

「そう? 初めていわれた」

「目がクリっとして大きいところとか、髪とか肌の色とかも似てる」

「ふーん、私もハーフだからかな」

「あっ、やっぱそうなんだ。手足の長さとかちげーもんな」


 この程度の話だ。

 私はそいつが人の事よく見てるなと思っただけだった。



 でも彼のことが好きな女の子のグループは違った。


「ちょっと森沢! アンタ勝手に遠山君と喋んないでよね」


「向こうから話しかけられたから、返事しただけなんだけど。

 彼氏だった?」


「違うけど、そんなの言わなくてもわかるでしょ!」


 そのグループともほとんど喋ったことがなかったし、言われるまで彼女たちが遠山君を好きなことに気が付かなかった。



「無視はできないから話しかけられたら返事するけど、こっちからは喋りかけない」


「無視しなさいよ。できるでしょ」

 そう言って肩を揺さぶられた。


「ちょっとまずいよ。

 森沢、先生たちに目をつけられてるんだから」

 別の子が突っかかってくる子を止めてくれる。



 どうやら私は不良でもないのに目立つ生徒だったらしい。

 問題児ってヤツ?


 明らかに外人顔のハーフで、茶髪にかなりのベリーショート。

 親と一緒に住んでなくて、金持ちでもない。

 異世界転生のために頑張ったから勉強も割とできたし、校則違反もなし。

 制服を着崩すこともないけど友達もなく、いつも図書室に一人でいる。

 お昼だって、ボッチ飯だ。



「とにかく遠山君はみんなのものなんだから。近寄らないで!」


 その論法だと遠山君は私のものでもあるんだが、別に欲しい訳じゃなかったのでその子たちの言う通りにしておいた。


 ちなみにその遠山君は一つ上の先輩と付き合い始めて、彼女たちは全員失恋したのだった。



 でもそんな甘ったるい対応は、平和な向こうの世界だったからだ。

 こちらは弱肉強食。

 その程度の脅しに屈すると思われたら、いろんなやつに目をつけられる。

 ましてや私はソロ冒険者なのだ。


「みんなのものなんだから、私が喋ってもいいでしょ。

 あんたも話しかければいいじゃない」


 そうはいったもののエイモスは美しすぎる魔族で、気軽に喋りかけやすいタイプではない。

 彼女たちではあいさつ程度しかできないだろう。



「何、生意気言ってんだよ! このクソガキが‼」


 相手が私の襟元を先に掴んだので、そいつの手首を身体強化で力を込めて握った。


「あんたたち一応同じ私とCランクだけど、ソロだとDでしょ?

 私はソロでCなんだよね。

 そっちこそ、人を見くびるのもいい加減にして」


 そう突き放すとすごすごと去っていった。



 冒険者は年齢ではない。

 強さが重要だ。

 経験がモノを言うこともあるけど、パーティーでCランクなら大して差がない。

 たぶん私のほうが、魔法を入れなくても実力は上だ。

 生活かかってるからね。



 人数が多いことは大いにメリットがある。 

 パーティーだと安全で実入りのいい仕事がしやすい。


 例えば護衛だ。

 護衛は強いことも重要だけど、たくさんいるってだけで結構威嚇になる。

 だからソロ冒険者には余程の能力がないと依頼がない。


 私は後ろ盾になってくれたカントしかやったことがない。

 しかもホントの護衛は別にいて、Cランク昇格のための依頼だった。


 実際は飯炊きとか、雑用とかやらされた。

「キラ、お前帳簿つけられるから店員できるぞ。

 怪我でもしたら店に来い」


 冒険者を辞めるほどの怪我したくないけどね。

 でも内政のために簿記1級まで勉強してたんだ。

 同時にファイナンシャルプランナーも勉強した。

 試験のお金がなかったから、資格は取ってないけど。



 みんなで住めば広い部屋の家賃だって安い。


 私は1人暮らしだから、狭くて割高だ。

 でも内政のためにフライパンや鍋でも、どんな料理やお菓子でもをいろいろ作れるように頑張った。


 だからこっちでも結構食生活は充実してる。

 天然酵母パンもお手の物だ。

 こうじさえ何とかなれば、味噌もしょうゆも作れる。


 料理の腕のおかげで、たまに攻略の人手が足りない時に呼んでもらえることもあり、仕事の幅を増やしている。



 複数人いたら、役割分担や連携を取って戦うことができる。


 これは……悪いけど聖女チートで乗り超えている。

 ラノベで魔法はイメージ力だって書いてあったけど、本当にそうだった。

 すぐは無理だったけど、時間停止の無限収納も、各種攻撃魔法も、生活魔法もできるようになった。


 ただどんなにイメージしても、治癒魔法と防御魔法はできない。

 でも内政のために応急手当やマッサージ、テーピングなんかも勉強したんだよね。

 高校まで行けたら、奨学金取って医大に行きたかったな。

 祖母が死ななかったら、まだ可能性あったけど。



 防御の方は敵と距離を取ることで、何とかしている。

 武道の本も読んだけど、こればっかりはちゃんと教わらないとダメだった。

 こっちで習って才能なしって言われてる。


 でも物理しか効かないやつのために、短剣と杖の代わりのメイスを持っている。

 ちなみに動かすときは魔法で動かしている。

 その方が早くて強い。

 最悪、聖焔使えば何とかなるからね。



 人が多いとポーションや薬代も節約できる。

 古くなる前に、仲間内で使いまわせるのがいい。


 私は治癒魔法が使えないし、1人だから多めに持ってないといけない。

 異世界転生したら薬師やるんだと思って、化学の実験の時ものすごく真剣にやって器具の扱いに慣れるようにした。


 だからこっちに来てお金がたまったとき、薬師に初級ポーションの作り方習った。

 その後は冒険者ギルドの図書コーナーの本を片っ端から読んで、上級ポーションまで作れるようになった。

 でも最近はあんまり怪我しないから、無限収納の肥やしだ。

 


 魔力ポーションも作れるけど、聖女チートで結構魔力量が多い。

 魔王をたおすための魔力だ。

 この辺の魔獣討伐やダンジョン攻略ぐらいじゃなくならない。

 でも持ってないとおかしいから、これも無限収納の中にずっと入れている。


 だけどせっかくの薬師の技術を使いたいから、時々作ってギルドに卸して小金を稼いでいる。

 


 でもさすがにソロだと攻略が頭打ちになってきた。

 パーティー、いいなぁ。

 あの女たちのこと、優しくしておくべきだったかな?


 それを悩んでいる時に、エイモスが話しかけてきた。



「なんか俺のせいで絡まれたそうだね?」


「あんなの、虫にさされた方がダメージあるよ」


「お詫びに飯でもいく?」



 それでダメ元で言ってみた。


「ご飯は私がご馳走するから、一度攻略に付き合ってくれないかな?

 格上のところに行きたいんだ」


「おっと、思ったより高くつくな。

 でもまぁ1度くらいならいいか」


「やったね!」


「で、どこにいきたいわけ?」


「ガーリン鉱山」


「なるほど、ロックゴーレムか。

 腕力が不可欠だね」


「そう、だから一人じゃ不安でね」


「かしこまりました。聖女様」


「全く聖女って柄じゃないんだけど」



 そんなきわどいセリフ使わないで欲しいな。

 とはいえ、それを真に受けるヤツなんていない。


 隣国に現れた聖女様は、いまや冒険者たちの憧れのお姫様だ。


 エイモスがふざけて言ったように聞こえただろう。


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キラはベリーショートでも、化粧っ気がなくても、色気のない格好でも人目を惹くハンサム美少女です(この話の頃は髪は長くなっています)。


それでおばあちゃんは抑圧しているし、クラスのイケメンは声をかけて来て、女子たちは嫉妬してきます。


本人は男の子みたいだと思って、その自覚はありません。

だからどんな美形が来ても、ちゃんとした女として見られていないと思って緊張しません。

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