第2話 未知との遭遇

どうしてこんなことになったのだろう?


ほんの15分前まで、明るい春の日差しが差し込む学園の中庭で、俺は最近新しくできた彼女雪下紗理奈(17)=ゆるふわな美人、胸は推定Eカップ と楽しく語らっていた。


「君に借りた恋愛小説を読んでみたよ。」


「どうだった?」


「うん、よかったよ。二人の出会いが印象的だった。ああいうの、運命っていうのかな?

僕と君がこうしてここにいるのも、小さな偶然が重なり合ったある意味運命みたいなものじゃないかと思うんだよね。」


俺はキメ顔で雪下紗理奈にウインクした。


「浩史郎くん…。」


雪下紗理奈はポーッとした表情で俺を見つめる。


「あの時図書室でダ○エル・キイスの本を探そうとしていなかったら、君と知り合うこともなかったと思うと、僕はあの本、君が図書委員だったこと、僕が偶然図書室に居合わせたこと、全てに感謝したい気持ちだよ。」


自分でもよく言うなぁと感心しながら俺は大嘘をついた。


一つ年上の彼女、兵藤明日美(18)=華やかな美人で胸はFカップ とは、半年前からの付き合いだが、少々嫉妬深く最近一緒にいるのに疲れてきたところだった。


そんな時、移動教室で時々見かける

雪下紗理奈(17)の兵藤明日美とはまた違ったゆるふわな巨乳もとい雰囲気に惹かれ、図書委員だった彼女に本好きを装って近づいたのが、新学期始まって間もない頃。

それから何度か交流を重ね、今日の中庭デートまでこぎ着けたのだった。


「私も浩史郎くんと出会えた全ての偶然に感謝したい気持ちだよ。」


雪下紗理奈はポッと顔を赤らめたが、次の瞬間表情を曇らせて言った。


「でもね。私の友達にちょっと気になる事を言われて…。」


「気になる事?」


「浩史郎くんは、女性関係が派手だとか、年上の彼女がいるとか、そういう噂があるって…。」


一瞬の動揺を悟られぬよう、俺はすぐに爽やかな笑顔で切り返す。


「僕、外見がこんなだから、チャラいとか遊んでそうとか、よくそんな風に見られるんだけど、そんな事ないよ。紗理奈さんと今こうして話している間も緊張してるぐらいなんだから。」


俺は雪下紗理奈の手を掴み、自分の胸に押し当てた。


「ホラ、ね…?ドキドキしてるでしょ?」


雪下紗理奈は顔を紅潮させて謝った。


ホラな、女なんてチョロいもんだ!


「いや、分かってくれればいいん…!?」


俺は移動教室のある北校舎の方から、兵藤明日美が歩いてくるのに気が付いた。


何故ここに彼女が…!?

今日は委員会の用事があると聞いていたのに…!


「ごめん、紗理奈さん。ちょっとお手洗い行ってきていいかな?ここで少し待っていてくれる?」


「あ…うん。」


俺は兵藤明日美に見つからないよう、急いでその場を離れ、近くの柱の陰に隠れた。


まぁ、後は前述の通り。

ゆるふわ美人の雪下紗理奈も、華やかな美人の兵藤明日美も、俺に見せていた可愛い姿はどこへやら。

今は醜い女の本性をむき出しにして女同士の闘いに身を投じている。


俺は考えた。今できる最善手をー。

ここから脱出する方法をー。


その時、各学年のクラスの教室がある南校舎から、一人の女生徒がこちらに歩いて来た。

制服に青いリボンがあるところを見ると、一年生だな。


ふわっとしたショートヘアに、猫のように大きな目、すらっとした手足、小柄で華奢な外見は可愛らしいと言えなくもないが、

まだ、中学生っぽさの残るあどけない顔立ち、胸推定Bカップ以下、色気なし、俺の好みではない=モブだな。


俺は以上の事をコンマ0.5秒で瞬時に判断した。


女生徒は中庭に差し掛かると、ベンチで繰り広げられている女の争いを見て気圧されつつ、次いで柱の陰に隠れている俺を見ると、声をかけてきた。


「あの…何してるんですか?」

「シーッ。静かに!」


俺が人差し指を口に当てると、女生徒は状況が伝わったのか、コクコクと頷いて、声を落としてヒソヒソ話をしてきた。


「あの、二人のお知り合いですか?」


「そうだ。」


俺は額に皺を寄せて肯定した。


「なんか、揉めてるみたいですけど、止めなくていいんですか?」


正論だが、彼女の意見は俺にとって何の助けにもならなかった。


「君はバカなのか?俺が原因で揉めてるんだ。俺が行ったらもっとひどい事になるのが分からないのか?」


「ああ…。二股なんですね。」

女生徒は半眼になって、蔑むような視線で俺を見た。


「仕方ないだろう?2年の里見浩史郎といったら、有名だろう?」


「いや、知らないですけど…。」


半眼のまま女生徒は答えた。


「俺を知らないなんて、さては君、途中入学か?まぁ、いい。この顔に、成績優秀、スポーツ万能だろ?女達が放っておかないんだよ。ちょっと断り損ねただけで、二股、三股になっちゃうんだ。」


「ハァ、人生バラ色で羨ましい限りですね。心底どうでもいいんで私もう行きます。」


女生徒がため息をついて立ち上がりかけたところを俺は慌てて腕を掴んで引き留めた。


「ちょっと、待てよ。頼む!ここから立ち去るのを手伝ってくれ。君が歩くとき俺を隠すようにして一緒に連れてってくれ!」


「?! 逃げるつもりですか?あなたが原因で喧嘩している女子達を放って?」

「シーッ。大きな声を出すな!」


驚いて声を上げる女生徒に必死に人差し指を立てるポーズをとると、切羽詰まっている俺は懇願した。


「頼むよ。俺を助けてくれ!

ああ、そうだ!助けてくれたら一回デートしてあげるよ。こんなイケメンとデート出来るなんて嬉しいだろ?何でも好きなものを買ってやる。だから、頼む!」


女生徒は俺の言葉を呆れたような表情で聞いていた。


「ここから逃げて、この先どうするつもりなんですか?もうあの二人には二股バレているんでしょう?」


「ああ、それなら大丈夫。女性というのはね。自分が信じたいものを信じる生き物なんだ。今はヒートアップしてるが、後で落ち着いた頃に一人ずつ話せば、案外どちらもうまく丸め込む事が出来るんだよ。」


女生徒はポカンとした表情を浮かべていた。


「そうなんだ…。ヒートアップしている時は放置して落ち着いた頃に丸め込む。

そっか。そっか。だからだったんだ…。」


噛み締めるように俺の言葉を繰り返していた彼女だったが、やがてにっこり笑ってこう言った。


「ふふっ。先輩はとっても賢い人なんですね…。おかげで長年疑問に思っていた謎が今解けましたよ。」


だが、次の瞬間激しい憎悪の宿る瞳で彼女は俺を睨みつけてきた。


「でも、あなた嫌な人ですね。」


言うなり、驚く俺が抵抗する暇もないうちに、渾身の力を込めて俺を柱の外へ突き飛ばした。


「うわっ!何を…!?」


「そこでケンカしてる先輩方〜っ!

渦中の里見先輩がこちらにいらっしゃいますよーっ!ご事情を直接伺ってみたらどうですかーっ?」


女生徒は遮るものなく女子達の前に姿を現した俺を指差し、大声で叫んだ。


「浩史郎くん?」

「浩くん?」


二人の女子達のいざこざは更にエスカレートし、髪の毛を引っ掴んだり、押し合ったりの

取っ組み合いの大喧嘩になっていたが、俺を見ると、怒りを滲ませてジリジリとにじり寄ってきた。


「浩史郎くん、説明して?私があなたの彼女よね?」


「いーえ、浩くん。この女が妄想で言ってるだけよね?彼女は私だって言ってやって?」


女生徒は楽しげに更に煽った。


「ちなみにー、里見先輩は私にもデートしてくれるって言いましたぁ。これって三股ですかぁ?」


「何ですって!?」


「浩くん!あの女は一体何なの!?」


今や二人の怒れる女子達に掴みかかられタジタジの俺だった。


「いや…、それは…。」


「それでは里見先輩、さようなら。

ちゃんとお相手と向き合って下さいね。

あなたは賢いのですもの。この位の逆境、余裕で乗り越えられますよね?頑張って下さいねー。」


女生徒は明るい笑顔で手を振り、遠ざかっていく。


俺は女子達にもみくちゃにされる中、必死に叫んだ。


「おい、そこの女子!俺にこんな事してただで済むと思うなよ?卑怯者!名を名乗れよ!」


「卑怯者じゃありません!

1−B森野林檎です。逃げも隠れもしませんよー。」


そう言って生意気な後輩は舌を出すと、中庭を、颯爽と駆け抜けていった。





✱プチ情報✱


私立碧亜学園の制服はブレザーで、

学年毎に制服のリボン(男子はネクタイ)

の色が違います。


一年生は青、二年生は緑、三年生赤となっています。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る