第3話:義理の母
ショッピングモールのスーパーで今晩と明日の朝の食材を買う前に、ぶらぶらとテナントに入り商品を見る。
買う気はないが、見ているだけで楽しい。
春の新作、今年のトレンドだというチュニックを手に取ると映し鏡に向かって合わせてみる。
「あら?
「あっ、はい。今晩のおかずを買いにきました。お義母さんもお買い物ですか?」
私に声を掛けてきたのは、夫である
お義母さんは私の問いに答えることもれなく、私が持っていたチュニックを凝視する。
「おしゃれもけっこうだけど、康孝のご飯はちゃんと作っているのかしら?」
久しぶりに出会ったと思えばこれだ。チクチク&ネチネチと息子が可哀想だと責めてくる。
初めはストレスしか溜まらなかったけど、今では「そう来たかっ」とお義母さんの攻め方を感心できるくらいの余裕はできた。
こういうのはまともに聞いても仕方ないし、自分のためには一切ならないと割り切り、無知な嫁のフリをして聴くに限る。
チュニックを戻し、肩に掛けていたショルダーバッグの位置を直し聴く姿勢をとる。
「そうそう、この間おでんをおかずに出したんですってね?」
信じられなーいと言うお義母さんに、夫めチクリやがったなと感情が湧くと同時に、そんなことまで話しているのかと嫌悪感も湧き出てくる。
よくもまあ、親子揃っておかずになったおでんについてここまで憎しみが持てるものだと感心してしまう。おでん協会から
「と・こ・ろ・でっ」
話を切って、最後のシメがくる。
「子どもはまだかしら? そんな服を買って何をするのか知らないけど、康孝とうまくいってるの?」
そこで言葉を切って私の体をじろじろと見る。
「魅力がないならないなりにやれることもあるでしょ。それとも生めないのかしら?」
出会って必ず言われることは、
「子供はまだか」
「お前に魅力がないんだろう」
「お前は生めない体じゃないか?」
この三セット。
出会ったら大体この話題でシメるのだが、言われると分かっていても傷付く。
言いたいことをいい終えて、スッキリしたのかクールダウンしたお義母さんは、わざとらしく大きなため息をつく。
「あらやだっ! もうこんな時間! 茉莉さんも油売ってないで、早くお買い物済ませて晩御飯作りなさい。そうそう、安いお肉とか買わないのよ。康孝に美味しいものを食べさせるのよ」
最後まで一方的に喋って、締めまで嫌みを忘れない律儀なお義母さんは帰っていく。
小さくため息をついて顔を上げると、店員さんと目が合う。私が苦笑すると店員さんは苦笑いをしながらも丁寧にお辞儀をしてくる。
私も会釈してお店を出る。
「さっきのチュニック可愛いなぁ。落ち着いたら今度買おっかな」
そう呟く私の顔はきっと未来を向いていて、希望に満ちている。
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