第16話

「レディー・エリザベス。いくつだ?

そうか、お前ももう9歳。」

ヘンリー8世は成長した娘に上機嫌だ。


上機嫌?素直に受け取ってはいけない。

見よ、ヘンリーの目線の先を!

エリザベスの下半身に注がれてるではないか!

(エリザベスは立派な子が産めそうだ!)


舞台はグリニッジ宮殿から20㎞北東の「ロムフォード」の狩猟場に設けられた食堂。

1542年9月 エリザベスは突然ヘンリー8世から姉メアリーと共に夕食を招待された一幕だ。


エドワード王子は呼ばれてない。何故?

庶子である娘2人だけを呼んでの夕食。

ヘンリー王にどんな意図が?


さあ食事中

エリザベスは好感が保てる程度に相槌を打ち言葉数を控える。


何故って?

言動を間違えると処刑されるから、ん?いや、それもあるが、父王ヘンリーを観察する為だ。


(何故ヘンリー王は上機嫌なの?)

・素直に私の成長を喜び

・庶子から王位継承者に復帰させてくれる?


そんな都合が良い訳無い。


・・

2年前から話を追ってみよう

1540年ヘンリー8世が19歳の侍女キャサリン・ハワードと結婚したネ


しかし

新王妃との結婚生活は2年も続かず

複数男子との不貞したとでっち上げられ離婚され処刑されたのはつい数ヶ月前。

あゝ、アン・プーリンと同じパターンだ。


これでトマス・ハワードが王妃として送り込んだ二人の姪は共に断頭台に。トマスの権勢は衰える。


と言うくだらない事件があって、今は父王ヘンリーは独身だ。

・・

違う。

エリザベスの関心はそんな女狂いの話ではない。

・・

1538年 スコットランド王ジェームス5世は

仏の有力貴族ギース侯の娘を王妃に迎えた。


これは大変!

仏がスコットランドと同盟すると、南北2正面から攻撃されるリスクに英国は晒されるからだ。


ジェームス5世の母はヘンリー8世の姉マーガレットだが、1541年に崩御。52歳。

毒殺された可能性も高い。


これでスコットランドでは英国色が薄まる。


「母の母国?朕には関係無いわ!」

ジェームスは仏との密約通り英国を、つまり叔父のヘンリー8世を攻撃した。


これは仏フランソワ1世の思う壺であった。


スコットランドに攻撃させれば、英国が仏を脅すリスクは無い。


「安心してハプスブルグ家に戦争を挑める!」

仏フランソワ1世は、今回の戦に賭けていた。世界最強国オスマン帝国と同盟したのだ。


地中海からオスマン海軍と共に徹底的にハプスブルク家カール5世を叩きのめすチャンス到来。


なのでこんな所で英国から攻撃されるなどのつまらない躓きは絶対避けたい。


これがスコットランドとの密約の理由だ。

・・

そういう事情を知ってるからエリザベスは夕食時父の話を楽しんでいる風を装い、父を観察する事に徹してる。


(父は私を必要としていると確信したわ)

・エドワードはまだ6歳

・成人する前に英国を安泰にする事が課題ネ


・スコットランド制圧後、私をスコットランドに嫁がせるつもりでしょう。


・いや、メアリー姉さんかな?姉さんは26歳。私はまだ9歳。

・スコットランドに差し出すのはどちらかだわ


・スコットランドはカトリック。

・メアリー姉さんだと、スペインとスコットランドが結びついてしまうリスクがあるわね。


・やっぱり私ね。

・ヘンリー王はメアリー姉さんよりも私を見ているもの。••••私の下半身を••••


エリザベスは、カトリックに染まらず、かと言ってプロテスタントにも傾注しないよう言動には日ごろから細心の注意を払っている。

しかしヘンリー王がどう判断するか?は分からない。


言っておくが、夕食の席上では処刑されたキャサリンの事も、スコットランドとの戦争の話題も一切ない。

ヘンリー王は馬に乗るのも難儀なほど太ってしまった50歳。

部下の獲物をさぞ自分が獲ったと、酔って自慢するくだらない話に終始していたのみ。

・・

さて、スコットランドとの戦争だが、

「ロムフォード」での夕食会の2か月後の

1542年11月英国の勝利に終わった


更にスコットランド王ジェームス5世は失意の内に12月に崩御した。まだ30歳で。


その時、エリザベスの運命の敵が誕生していた。


その名は

「メアリー・スチュアート」

スコットランド王ジェームス5世の娘だ。


メアリー・スチュアートは父王の死を受け、生後7日でスコットランド女王を継承した。














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