第23話 青柴織部

 その前に、話をスムーズにするために言わないといけないことがあります。

「ついでに言うと――私、強いですよ」

 腕まくりをして力こぶを作ってみせます。ムキッ。

 ちょっと腕が太く見えるの恥ずかしいんですよね。花も恥らう乙女なので。

「なので口封じなどはお考えなさらぬように」

 5回に1回はいるんですよ、バレたくないからと殺しにくる犯人。まあだいたい真っ先に狙われるのはモキョ先生で、だいたい死んでます。で、私がどうにかする羽目になるという。

 今回は先生は死んでますから仕事がひとつ減りましたね。

「ふ、太さが通常時と激しすぎませんか!? 2倍ぐらい筋肉量増えましたよね!? モリッて!!」

 ぎろっ!!

 魚囃子さんのデリカシーのない一言に私は再び睨みます。彼はヒェン……と口を抑えました。よし。

 私はスマホを取り出して見せます。

「ご覧のとおり、私のスマホの電波は問題ありません」

 最悪イリジウム携帯がありますからどこにいても私は問題ないのですが。

 日本においてスマホ及び通信機器を持ち歩いていない人はよっぽどの事情がない限りいないはず。役所のような公共施設だって今やスマホユーザー向けの案内が増えていますし。

 さておき。

「皆さんは――なにを隠しているのですか?」

「……」

「……」

「……」

 おっと? これは本当に全員が隠し事をしていますか。

 皆さん真面目ですね。『自分はなにもしていない、知らない』と白を切ればいいものを。

 所詮探偵など逮捕権を持たないんですから重苦しい空気など出さず、気楽にしていただいていいんですよ? モキョ先生が死んでいるので現在の私には若干の余裕がありますしね。心にいつもTNTを。

 長い長い沈黙。どこぞの国ではこの状態を『天使が通る』と言うそうです。

 天使どもが大渋滞を起こす中、私は待つことに飽きてイタリア製のメモ帳を適当に開きそこに書かれた文字らしきなにかを眺めます。えーと、これは住所かな? ……なんでギザのピラミッドの住所なんてメモしてるんですかね?

 邪気さんが数度生唾を飲み込みました。そろそろ話し出しますかね。

 私は静かに彼へ顔向けます。

「……ッ、解体(バラ)したのは、私だ」

 喉の奥から絞り出された言葉は、苦さを伴っていました。脂汗がすっごいですよ。

「もうすでに血抜きはしてあって、そこまで苦ではなかった」

「なぜ解体したのですか?」

「――ひとつは、死んでもなおあいつが許せなかったから嫌がらせだ。もうひとつは……」

 ずいぶん小学生みたいな理由でやるものですね。

 誰も得をしない嫌がらせです。そもそも嫌がらせなんて誰の得にもなりませんでした。解散。

「犯人がびっくりするかなあって」

「お、おバカ!!!!!!!!!!」

 幼稚園児みたいな理由で死体を損壊するな!!

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