第21話 青柴織部
ど、ど、どうするんですかお前これェーッ!!
見えざる者の手を感じますよここまで来ると!!
アダム・スミスもびっくりだよ!! 個々の利己的な集積が社会全体の利益になるどころか、個々の利己的な集積がとんでもない問題を巻き起こしているんですけど!?
うそでしょ自称吸血鬼ならもうちょっと強くあってくださいよ。モキョ先生なんて死ぬだけで六時間後には生き返るんですからね!?
……落ち着け……。……落ち着け……。
なにか手立てはあるはず。このままでは私まで殺人犯ですよ。くそっ、私が何をしたって言うんですか。わりと優し目に顔面殴っただけですよ。パンチングマシーンなら150キロぐらい。
「え、し、死んでません……?」
魚囃子さんが青白い顔をして聞いてきました。
「大丈夫です。脳震盪を起こして気絶しているだけです」
「それよく映画とかで聞くけれど、脳震盪起こしている時点で特に大丈夫ではないと思うのよね」
喪符松さんがなんか言っていますが聞かないふりをします。
「それ本当に気絶しているだけか? 死んでないか……?」
邪気さんまで。疑い深い方々ですねもう。
ちょっと生命活動が停止しているだけですよ。ええ。
「それより、誰が殺して誰がバラしたかなんですけど」
「話を強引に戻してるっ!」
ぎろっと魚囃子さんをにらみつけると、彼はピャアと邪気さんの影に隠れました。
この部屋、私が作成した死体がふたつ転がっていることになるんですね。最悪だ。
「それはその子が誤魔化しているだけじゃないの? 罪を軽めに見せているとか……」
「その可能性もありますが。でもなにか引っかかるんですよね。殺していないということよりも――『色んな場所に置いていない』と言ったのは不思議なんです」
どういう罪の判断をしたのかは不明ですけど。
まるで、『殺人犯』と『置いて行った犯人』を自分は分かっているぞと言わんばかりのようで。
「……」
一瞬、邪気さんの目が私から逸らされました
私はそのことに気付かないふりをします。
「音猫さんが殺された理由は、言い方は悪いですがありがちな理由でしょう。復讐、憎悪、口封じ、排除――ですから、このことは一旦保留しておきます」
人が人を殺す理由は、そう複雑なものではありません。
コップから水が溢れ出すのと同じように、抱えている感情が漏れ出すとそれは殺意と変わります。
溢れた事象は見れば分かります。
では、それにわざわざ手を加えたのは何故?
「憶測でモノを言います。まあ、ずっと憶測ですけど――いろんなところに置いたのは、意地悪でしょう」
「意地悪?」
「『分かっているぞ』と。殺人犯に向けたメッセージです」
モキョ先生のメモ帳には、死体が置いてあった場所が記されています。
大広間、キッチン、玄関、風呂場、空き部屋の前。
なんらかのメッセージが含まれているのではないでしょうか? 知らないけど。含まれてなくても私には関係ありませんが。
本気でびっくりさせたかっただけとか宝探し体験会をさせたかったのならもう何も言いません。勝手にやってください。
あくまで私は探偵助手。推理こそすれ、本題を突き止めるのはそこで死んでるモキョ先生の役割です。
静まり返った一同を横目に、とりあえず等々等期さんの姿勢を元に戻すことにします。
どうしようほんとに……。
ふと半開きの口から鋭い八重歯が覗いていることに気が付きます。ご飯食べるの大変そうですね。イミテーション? インプラント?
吸血鬼を名乗る為にここまでしますかね……。ぐいっと唇を横にひこうとして、思ったよりも鋭い八重歯に親指があたり皮膚が裂けました。
「あっ」
さっくりいった傷口から血がしみ出し、等々等期さんの口内にダイレクトシュートします。
やばっ――と思った矢先です。
「湿った場所に一か月以上放置したボロ雑巾で床掃除をしたあとに絞った汚水みたいな味がする……」
キャアアアア!! シャベッタアアアアア!!
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