その中ボス、取り扱い危険につき!

夏歌 沙流

第1話【急募】中ボスである俺が勇者パーティーを壊滅させてしまったんだがどうすればいい?

 みんなはRPGを知ってるだろうか?そうそう、ドラ〇ンクエストとかファイ〇ルファンタジーとか。


 特に自分が勇者となって世界を護るー、とか世界の神秘を探るー、とか王道なストーリーを展開する剣と魔法のファンタジーなロールプレイングゲームは耳にしたり実際に遊んだことがあるんじゃないか?俺も子供の頃そういったゲームをプレイしてたし。


 まあ俺のことはさて置いて、だ。そういうゲームのストーリー中には主人公の前に立ちはだかる壁として様々な敵ボスが登場するのが鉄板だろう?


 強そうな見た目、大きな体。いかにもボスです!って感じの出で立ち。そいつらを倒していって主人公が強くなりながら最後のボスである、魔王だったり悪神だったりを主人公が倒す!みたいなテンプレストーリーは分かっていてもワクワクしたもんだ。


 あー、つまり何が言いたいかというとだな……


「くっ、勇者として俺は……倒れるわけには……!ぐふっ」

「勇者様……っ!」

「体が……もう、限界だ……」

「魔力が……切れる……っ!」


 【急募】中ボスである俺が勇者パーティーを壊滅させてしまったんだがどうすればいい?


(えええええええ!勇者よっわ!?フェイントに釣られるし真面まともな剣技もねぇ……こんな奴にやられていったのかウチの奴ら!大丈夫魔王軍!?)


 勇者が持っていた聖剣は、確かに俺ら魔族には天敵とも言える武器である……んだが、当たらなければどうとでもなるし。つーかもう俺、途中から聖剣の間合いで躱すゲームしてたし。舐めすぎて前髪焦げたけど。


「勇者と言えど、こんなものか……」

「なんだと!……うっ」

「あまりわめくな。傷口が広がるぞ」


 何かペラペラ喋ってゲハゲハ血反吐を吐いてる勇者に、思わず慈悲の心を向けてしまう。

 威勢だけは良いんだよなぁこの勇者。あと顔。なんで俺は転生しても普通の顔なんだろうね……


「ひっ……!」


 おっと殺気が。イケメンは駆逐しなければならないという義務感が出てしまったようだ。スマイルスマイル~


「なんと邪悪な笑み……!」

「俺らはもう、ここまでなのか……」

「お母さまぁ……」


 ……グスン。な、泣いてなんかないんだからね!ちょっと笑顔で少しは戦闘後の雰囲気を和やか~にしたかっただけで勇者パーティーの僧侶さんと魔法使いさんが可愛かったからアピールしたかったわけじゃないんだからね!


 まあ冗談はさておき。マジでどうしよう?俺が頭を悩ませているのはこの今壊滅した勇者パーティーの皆さんの処遇。


 前世の人間だった記憶が残ったまま転生した俺は、人間を滅ぼそう!とか人間は劣等種!とか思ってる一般魔族とは


 言ってしまえば俺は、世間魔族界隈からは人間好きの変人魔族だと思われているのだ。ちなみに魔族の一般常識を知らない時に人間好きを明かしてしまって、幹部になった今でも部下が一人も居ません。ぴえん……


 俺にだって可愛い魔族の部下とか頼れる相棒とか欲しかったよ!なんで一人で勇者パーティーと戦わないといけなかったの!?魔王様からの命令来たとき

(死んでこいって事ッスよねぇ~)

って真面目に辞世の句読みそうだったわ!


 ごほん。それは置いといて。勇者パーティーをこのまま殺してしまえば人間は対魔王の希望を失うことになり、魔王はこれ幸いにと人間を襲い始めるだろう。

 それは俺としては美味しくない。魔族とはいえ人間の前世を持っている身として人間が滅ぶのは困る。


 かといってこのまま帰す、もしくは俺が倒されるのもまた魔族として美味しくない。魔族にも良い奴はたくさん居るし、魔王が滅びれば人間は逆にこちらを蹂躙じゅうりんするだろう。


(うーん、中ボスの俺が出来ることは、時間稼ぎってところかねぇ……)


 俺は勇者パーティーに向かって4本の指を立てる。笑顔はキープ!少しでも可愛い子に優しいアピールをするんだ!ちなみにこの4本の指を立てるジェスチャーだが何の意味もない。勝手に怯えたり考えたりしてたら時間稼げんだろ。


 そして俺は満身創痍の勇者パーティーを近くの村に転送する。その際に勇者パーティーの所持金の半分をいただいておこう、全滅したときのペナルティーと言えば所持金減額だよね。


 こうして、俺ことアインス・フォールの長いながーい戦いが始まったのであった。

 ……そういやこの立場、中間管理職に似てるな。疲れたサラリーマンみたいにならないように今日は早めに寝るか。


 俺が時間稼ぎをしようと立てた4本の指が、予想外に彼らをビビらせていたとは俺はこの時みじんも思っていなかったのである。

 なんで俺はこの時に指を4本立ててしまったのか……それを後悔することになったのは、もう少し後のことだ。


――――

【後書き】

 お読みいただきありがとうございます。

 こちらは「現実でダンジョンを攻略するのはハードモード過ぎないか?」の書き溜めの合間に書いた気ままな小説です。

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