第八話 『王座の間』

 須弥山(しゅみせん)を囲む四大陸の一つ、閻浮提(人間界)の地下、五百由旬にあるその王庁は、まるで巨大な実験施設のようだった。

 モルモットさながら、無数の檻に入れられたあらゆる動物たちの鳴き声が、何百メートルもある吹き抜けに響き渡っている。

 その中には、K-Pg境界以前に大量絶滅したはずの「恐竜様類」も生きた状態で飼われていた。

 トリケラトプスやプテラノドン、そして獰猛な牙をもつ肉食恐竜ティラノサウルスなどが、種別ごとに大きな檻に入れられている。


 そこで行われていたのは「異種交配」という名の実験だった。  

「王」の好奇心だけで出来上がった新しい生物たちは、産み落とされると地獄のどこかに野放しにされた。

 ようは、飽きたのだ。


 王は結果ではなく、そのプロセスに価値を見出していた。変わり映えのない日々のルーチンの中で、唯一生きがいを感じられるもの。それは「学び」だった。

 そこに目的はなかった。新たな刺激が得られるものであれば、何でも良かったのかもしれない。

 生に対する執着や欲、あるいは地獄を維持する事さえもどうでも良いと思っていた。


 

 

       ・・・



「ミツメ?」



「はい。お、お、おしょらく、しょうでしょう」


「おい、じいさん。ついにボケたか?」


「い、い、いや、あれは、本物ですじゃ。

 丹田の奥底で感じた、しぇんてん(先天)の、しぇ〜き(精気)。あ、あれは、ましゃしく、ミツメの気ですじゃ」


「ミツメ族は、大昔に滅びただろ? 俺でさえ会った事はない。そいつが人間界にいたっていうのか? 俄に信じられんね。やっぱ、あんたボケが来てんじゃねぇか? 霊鬼のじいさんよ」


「ま、ま、まだ、かくしぇ〜(覚醒)は、しておらんようでしゅが、か、か、かくしぇ〜したら、え、えらい事でしゅぞ! じ、じ、地獄が滅びましゅ!」


「それほどのものか?」


「お、おしょらく、一匹でも」


「へぇ‥‥‥」


「大王しゃま?」


「面白そうだな」


「な、何をお考えか! い、い、いけません!」


「落ち着きなよ。何もしないよ。まあでも、ちょっと調べてみるか。‥‥‥で、そいつの名前は?」



 アイ



 「アイという名の、少女でしゅ」



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