ゾンビーポイント~終末は血煙と硝煙の薫り~

世も末

やだッ! 私の人生みじかすぎぃ!?

第1話ところにより脳漿が降るでしょう

――ゾンビーポイントを獲得しやがりました


 視界の隅に移るログが表示されていく。ゾンビを殺るたびに電子音が鳴るので非常に戦闘に集中しにくい。ゾンビを始末させたいのか、邪魔をしたいのかわかったものじゃない。


 ビルの屋上から背景に溶け込んだ外套を被り淡々とトリガーを引く。減音機サプレッサーを装備した、スナイパーライフルの銃口からマズルフラッシュの花が咲く度に徘徊するゾンビの後頭部から脳漿が炸裂する。


 スーツを着ている成人男性であっただろうゾンビは膝から崩れ落ち、ヒビ割れたアスファルトに黒く淀んだ血液をぶちまける。ビクリと数度痙攣し活動を停止する。


――キャアアァァァ


 ガラスを擦り合わせたような金切声が少し離れた位置から聞こえて来る。

 周囲を徘徊していたゾンビ共が反応を示し、全力で人間に群がっていく。


 ゾンビがかつて人間だった頃には出せないスピードで走っていく、恐らく脳内のリミッターなど当に機能していないのだろう。


 網膜に投影された射撃管制システムを起動し悲鳴をあげた人物を素早く探す。


 早く見つけないと間に合わない。


 額から冷たい汗を流しながら、瞳を右往左往させ焦る気持ちが指を震わせる。


「――見つけた」


 まだ叫びながら逃走している人物が生きている事に小さく安堵する。


 照準を襲い掛かるゾンビに合わせ震える指を無理やり押さえつけ素早くトリガーを引く。


 射殺されたゾンビの額から血液が噴き出し女性の顔面に降りかかる、そして尻もちを付いたまま動けない女性の足元にゾンビが倒れ込んだ。


「間に合って良かっ――」


――感染者を殺しやがれ下さい


 視界に警告音と共に冷酷無比な命令が表示された。


 自身の心臓の音がやけに大きく聞こえ、耳鳴りがする。


 先程救助した女性を網膜に投影された射撃管制システムで映像を拡大する。


 顔面に降り注いだ黒い血液が女性の震える口元に大量に付着している。


――感染者を殺しやがれ下さい


 甲高いビープ音と共に頭痛が激しくなっていき体が冷たくなっていく――――恐らく警告だろう。


――感染者を殺しやがれ下さい

――感染者を殺しやがれ下さい

――感染者を殺しやがれ下さい

――感染者を殺しやがれ下さい


――ヤレ


 冷えた指先でトリガーを引く。

 無情にも銃口から射出された弾頭が女性の側頭部をから侵入し生命を踏みにじる。


 恐らく怖かっただろう生きていたかっただろう。

 もちろん家族もいただろう、恋人がいたかもしれない、友人が心配しているかもしれない。


 綺麗な花が咲いた死の花が咲いた。

 アスファルトにパタリと糸の切れた人形が倒れ込む。


 じわりじわりと血の花が咲く。


「苦しまずに死んでくれ」


 空気に溶け込みそうな声で小さく呟く言葉は微かな願いを込めた心の悲鳴だろう。


 トリガーに掛けている冷たい指をゆっくりと離しながら女性の冥福を祈る――涙が流れないのは殺しすぎたからか? 


 慣れたくもない心の折り合いの付け方に心がささくれだす。


――ゾンビーポイント獲得しやがりました


 感情を逆撫でするやけに弾むような電子音と共にログが表示された。


 視界の隅にチカチカとNEWの文字が表示され思念操作で選択する。


[新しい装備がアンロックされやがりました]


 先程の感傷的になっていた気持ちと、新しい装備に期待する気持ち両方が湧きあがってくる。


 割り切れるように心の棚を作れるようになってしまったのか、ゲーム的な感覚で現実逃避するようになってしまったのか分からない――この終末を生きて行くには必要な感覚なのかもしれないが。


 装備を解除しスナイパーライフルを黒い霧の中に放り込む。


 汗をかき埃で汚れた身体を濡れたタオルで拭き取る。


 頬を撫でる風が湿った皮膚を程よく乾かしていく――この風は好きだ――ほんの少しだけ心が癒される。


 装備選択画面を改めて立ち上げゾンビーポイントで弾薬を購入する。

 補充が終わると次の狙撃ポイントに移動するべく屋上から階下に降りていく。


「――ゾンビをぶっ殺しに行きますか」


 何のためにゾンビーポイント集めるかって?


 強くなるためさ。

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