File No.17:二人のフィーリア

「アイツらめ~! 何処行った!!」


 ひぇえ、怖い怖い!!

 フィーリアったら、ちょっとあたしとルリナちゃんでタケルが好きなのおちょくっただけなのに、顔を真っ赤にして本気で追いかけてくるんだもん!


 何とかあたし達は彼女から逃れたは良いけど、基地の入り口でフィーリアがキョロキョロあたしを見つけようと躍起になってる。どうしたもんか……あ!!


 フィーリアちゃん、後ろ後ろーー!! ジャックスの戦闘員がーー!!!


「え?」


 ――ガスッ!!


 戦闘員がフィーリアの延髄をチョップで強打させて失神させ――――


「痛いじゃないのよ!! 何後ろからチョップかましてんのよアンタら!!!」


 ――あれ? アイツ効いてないの??

 これを目の当たりにした戦闘員達は切り直して……


 ――ドスッ!!


 戦闘員、渾身の腹パン!! フィーリアとは言えども女の子に暴行するとは何たる外道! しかし……


「……んもぉ~~!!! 私が何したって言うのよ、いい加減にしなさいよ!!!!」


 延髄打っても腹パンしても倒れないフィーリアって何者なのよ!?

 これには戦闘員達も調子が狂うと言うかなんと言うか……痺れを切らして一斉に襲いかかった!!


「「ニィイイイイイ!!!!」」


 仮にもあたしと同じ二十歳の女の子一人相手に大の戦闘員達がボッコボコ!!


「でぇやあああああ!!!!!」

 それをフィーリアは取り囲んだ全戦闘員に、虚空風を斬る烈脚が炸裂!!


「甘く見ないで頂戴! 幼い頃から数十の拳法、必殺法を叩き込まれた私が勝てると思って!? ジャックスの戦闘員!!」


 ……通りでサブロー司令官に召集が掛かるわけだ。男どもをも圧倒する戦闘力、下手するとトクサツ戦士のあたしでも……いやいや! そこを認めちゃったら主役譲るのと一緒だわ!!

 フィーリアは戦闘員の胸ぐらを掴み上げて、脅迫を仕掛ける。怖ぇ……


「……さぁ白状しなさい! 一体何が目的なの!?」

「フン! 我々の役目はもう終わった。の潜入が済んだ今、お前を始末するまでだ!!」


「何ですって!?」


 ★☆★☆★☆


「ふぅ、何とか逃げ切ったみたいね」

「でもヒロミさんも幾らなんでもフィーリアさんをからかいすぎですよ!」

「ちょっとした冗談じゃないの! ジョークも通じないんだから……」


 長い基地の廊下であたしとルリナちゃんがブツブツと呟くなか、あたしは向こう側から人影が見えるのを確認した。キラキラのプラチナポニーテールと言えば……


「げっ!? フィーリア……!」


 あたしに目が合った瞬間やられると思ったが……事もあろうかあたしやルリナちゃんを素通りしていった。


「……?」

 不審に思ったあたしは思いきってアイツに言い放った。


「やーい、タケル専用の三毛猫ちゃん!!」

「ヒロミさん?!」

 命知らずと言うべきか、思いきったおちょくりにも、彼女はスルー。何なのかしら?


「ちょっとー! あたしがこーしてからかってんだから反応しなさいよ、自分が虚しいだけじゃないのよ!!」

 我ながらいじめっ子の言動をしてしまった。それでようやく彼女も反応した。


「うるさいわね! 今お取り込み中なの、ほっといて頂戴!!」

「そんな事言わないで……ん?」


 この時あたしは彼女に近づいた時に、違和感のある匂いに気付いた。

 初めてフィーリアに会ったときは、彼女からミカンのような柑橘類のオーデコロンが印象的に香ったのに対し、今は強烈に甘ったるい。

 言うなればのようなカスタード感が強い。


 そこであたしはある話題を持ちかけた。


「ねぇそーいえばさ、この前貴方と食事に行った時にツケで払わされた100ブレイブ(約10000円)、あれ早く返してよ!」

「……分かったわよ、ほら100ブレイブ!!」


 少し躊躇いながらもフィーリアは手元からポンと100ブレイブを出してくれた。


 ……皆は分かってるだろうけど、この話は真っ赤な嘘! フィーリアとは今日会ったばかりだし。偽物なら金せびってやろうと思ったが……やっぱり、アイツフィーリアに似せた偽物だな!!

 アイツ、W.I.N.Dの極秘資料を保管している倉庫を開けて何してるんだろ?


 ★☆★☆★☆


「フフフ、これがW.I.N.Dの戦闘用兵器が書かれた設計図……これをジャックスに転送させれば、転じて我が組織の戦力になる――!!」

 偽フィーリアが設計図を手に不敵に笑う。


 ……でも一人じゃないんだなー!


「どうすか? 何か特売バーゲンしてるスーパー見つけました?」

「そうだ丁度近くのマーケットで卵が1ブレイブポッキリ……って、わ゛ああああああ!!!!!!」


 閉まりきった倉庫にあたしとルリナちゃんが忍び込んでるとは思っては無かっただろーなー☆

 そしてルリナちゃんが非常ベルを押して、タケルや皆を呼び寄せた。


「何をやってるんだヒロミに……フィーリア?! 何でお前がそこにいるんだ!!」


 タケルもその目を疑うように偽フィーリアに疑いをかけた。それに被せてあたしが事情を説明した。


「タケル! こいつは偽物。多分ジャックスがフィーリアに似せてこの極秘資料を盗もうとしてたの!!」

「そんなバカな!!」

 当然タケルはこの状況を信じるはずは無い。それはあたしも分かっていた。けれどその真実は、3秒後に明らかになった。


「ニィイ!!」

「うぉあたぁーー!!!」


 空手の掛け声を発てながら本物のフィーリアがまだ戦闘員と殺陣をしていて、それがあたし達の元まで駆け寄ってきた。何というご都合展開。


「えぇ!? フィーリアが二人!!?」

 西に東にフィーリアが瓜二つに並ぶのを見たタケルはようやく状況を把握した。


 それに応じて偽フィーリアも本物との取っ組み合いに紛れて突っ込んでいく。

 戦闘員とフィーリア二人でごちゃごちゃやって……って、もう小説だから余計に分かんないわよ!!


「オイヒロミ! 何とか出来ないのか!?」とタケルも急かす。分かってますよ! 例のあれでしょ!?


「こうなったら……変身よ!!」


 ――さぁ、読者の皆様もご一緒にどうぞ!!


「クルックル~♪シャキーン!!」


 ――とう!――ニィイ!!――バシッ!!


「巻~き毛クルクル!」


 ――せぃやぁぁぁッッ!!――ニィイイイ!!!


「……何か騒がしいけど、わ~たあめクルクル~♪」


 ――プラチナ流背負い投げ!――ニィイイイ!!――ドサッ!


「クルリと回って……」


 ――たぁッ!!――あ、パンツみえぐほぉお!!!


「トクサツへ~んし――」



「終わったよ」


「…………へ???」


 あたしが変身ポーズをしている間にもフィーリアは両手の埃を振り払いながら、戦闘員達を全て一掃しちゃった!! こんなの特撮でも無い展開よ!?


「ちょっと! 変身の最中に片付けること無いでしょフィーリア!?」

「貴方がモタモタしてるのがいけないんでしょ!? 私は気長に待つのは嫌いなの!」


 え、そっちが本物のフィーリア?


「待たせてあげなさいよ! ヒロミの出番の事もあるでしょう?」

 いや両方喋んな! 余計分かんなくなるだろうが!!


「貴方は黙りなさい私の偽物!」

「何よ!そっちが偽物でしょ!?」

「いーや私が本物!!」

「勝手に主張しないでよ私が本物!!!」


 そこであたしが『本物はあたし!』つったら『どうぞどうぞ』って言うのかな……とか下らんこと言ってる場合じゃない!!


「焦れったい! ならば俺がどっちが本物のフィーリアか白黒付けてやる!!」

 勇んで名乗りを上げたタケルは腰の携帯銃を二人のフィーリアに向けた。


「本物ならこの銃も対処も分かっている筈だ、行くぞ!!」

 え、嘘、ホントに撃っちゃ


 ――ズドォォォォン!!


 刹那に撃ち放たれた銃。左のフィーリアは避けたのに対し、もう片方は……


「……嘘ん」


 撃った弾丸を指先の間に素手で受け止めた!! ホントフィーリアアンタ何者なの!!?


「やっぱりお前が本物か」


 えぇ分かるの!? 弾丸止めたら本物って分かるカップルってアンタらだけだと思うよ!!?


「懐かしいわね、タケル君と実戦練習で実弾止めを習得した時の事……今でも覚えてくれてたのね」

「当たり前だろう。互いにW.I.N.Dのエリートを目指すための初歩だぜ、忘れるもんか」


 いや多分それをやってるのアンタらだけだと思うよ。


「くっ……おのれぇ!!」


 バレた偽フィーリアは手持ちの小型銃で抵抗するが……もうあたしの出番は奪わせないわ!!


「トクサツール……『元の姿にお戻りなさい光線』!!」


 トクサツールベルトの中央コアから発射された虹色の光線が、コピー人間のフィーリアに直撃!

 そのまま姿・形を変えて、行き着いた元の姿は……


「……プリン!!!?」


 あ、そっか。ジャックスの奴らプリンの材料でコピー人間作ったから、その邪念が消えて純粋なプリンになったって事か。……いや分かるかそんな理論!!


「わぁ美味しそうなプリンいただきま~す☆」


「「「いや、食うなよ!!!!!」」」


 結果、ジャックス製のコピー人間は食いしんぼのルリナちゃんによっておいしく頂きましたとさ。


 ★☆★☆★☆


 何とかフィーリアの活躍により、W.I.N.Dの兵器が書かれた極秘の設計図は守られた。


 とはいえ、殆ど彼女にカッコいい所持ってこられたし……あたしはと言えばコピー人間をプリンに変えただけ。それにトクサツ戦士HIROMIヒロミにも変身出来なかった。


 ぜ~~んぶフィーリアに取られちゃったよ!!!(でも100ブレイブはちゃんと頂きました)


「ねぇ、ヒロミ?」

「……何よ?」

 不貞腐れているあたしにフィーリア自らが歩み寄って話した。


「ちょっときつく言ってしまったけど、ホントは貴方に凄く感謝してるの。タケル君を何度も守ってくれたから、それで……

 今度は私にも『トクサツ戦士』を見せて頂戴。やってること無茶苦茶だけど、これからも頼りにしてるわヒロミ」


 ……それ、今言うこと無いじゃない。悔しいけど何から何までフィーリアにしてやられたな。

 彼女から差し伸べられた握手を交わす手をあたしは握って、一応は協力をしていく決意を示した。


「……でも今度あたしの出番取ったら、あんたらバカップルの恋路邪魔してやるからね!」


 一個は彼女に弱味を握ったあたしはこれでイーブンと考えた。のだが……


「ヒロミ、言うの忘れてたけど、俺とフィーリアはもうの間だからな」


「……………………は??」


 タケル、今なんつった!?


「この二人は数年前から婚約者フィアンセの間柄なんだ。情勢的に異動せざるを得なかったが……ヒロミが来たお陰でようやく結婚の機会が得られると私が判断したんだ」


 サブロー司令官、貴方まで何てことを……


「私があの時怒ったのは、私のタケル君を取ろうなんて考えさせないため! タケル君は私のものなんだからねっ!!」


「「いや、誰も取りませんよ彼のことは」」


 あたしもルリナちゃんも熱い百合道の前ではタケルは正直脈などは無かった。


「でも! こうして貴方と出会ってまたタケル君と結ばれたのは何かの縁かも知れないわね。改めてありがとうヒロミ! これからも宜しくね♪」


「え、えぇ、こちらこそ……」


 フィーリア・ジョーカー・プラチナム、彼女は生真面目で超強くて、タケルにめちゃんこ『惚』の字で、そして……




「リア充めええええええええええ!!!!!!」




(ナレさん)こうして、新しい仲間フィーリアが加わって今回私のシフトがオフになり、トクサツ戦士HIROMIの出番が無かった事にヒロミは、

『どーにか彼女やタケルをおちょくって出番を確保させないと!』と思いながら、次なる戦いへ突き進むのだった!!



 そして今度私の出番が無いときは、有給休暇にしてください!!

 行け、トクサツ戦士! 戦え、トクサツ転生少女ヒロミ!!



―おまけ―

ヒロミ「全国の良い子の皆!あたしを応援するのは勿論だけど、ちゃんと新しい仲間のフィーリアも応援してあげてね☆」

――クルン♡︎

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