File No.11:不思議なベルトと怪人大軍団

 ――ッ、眩しい……


 あたしまぶたの裏に、太陽の光にも似たような煌々しい刺激に襲われ、そっと眼を開いた。


 この光は――照明?

 ……いや違う。この丸く何個もの電球が重なる感じ、まるで手術でもするような――――ッッ!!?



 ――な、何なの!? あたしの周りに……人外の概念を越えたような、おどろおどろしいフェイスメイクをした白衣の医者が3、4人!


 うぇ~そんな面で近づかれると余計気持ち悪い!

 冗談じゃないわ、こんな所早く出て……


 ――ガチッ!!


 ッッ! 手足が、鎖で縛られて身動きが取れない! それに……あたしの姿がいつもと違う!?


 ピンクをベースにしたピッチリと体にフィットしたタイトなウェットスーツに、強硬そうなサイバーアーマー。


そして腰には……特撮ヒーローならではの、変身ベルト――――!?


 ちょっと待って……このシチュエーション、嘘、まさか……?!!



 ――――――改造手術……!!!??



「……ここは一体何処なの!? あたしを自由にしなさい……ッッ!!」

 ようやく声を発せられたあたしは、実験台に縛られた鎖を外そうと必死にもがく。


 そこに、丸い実験台から不気味な声が聞こえてきた。


『――――ハッハッハッハ……! 石ケ谷ヒロミ、よくぞ我が『ジャックス』の首領であるこの私と、数多くの悪の化身の封印を解いてくれた――!!』


 声はすれど姿の見えない野太い声と、その言葉の意味にあたしは疑問を持った。


「……『首領』、『悪の化身の封印』――? 一体何の事よ??」


 あたしは今まで起きたことを一生懸命記憶の中に探った。


 ――確か……あのエロ蜂女のアジトを突破して、英雄封印の遺跡に辿り着いたのよねあたし……そうだ!

 その封印を解く鍵としてトクサツールを使った途端に、虹色の光をあたしが浴びて……え、でも……


 悪の化身が復活するなんて、一言も聞いてないわよ――!?


『――我々の復活に求めていた人間は、イマジネーションが豊富、そしてその想像力を武器にする神器・トクサツールを持った人間。

 ……君は我々悪の化身の復活を成し遂げた栄光あるなのだ』



「じ……冗談言わないでよ! あたしが悪の救世主になったつもりなんてないわよ!!」


 あたしは正義の為に、トクサツールを使って悪と戦ってきた。それを主張するために必死で否定したが、その首領とやらは尚も話を続けた。



『フフフフ……遅いのだ石ケ谷。君がトクサツールを使って封印の遺跡を解放したことにより、この英雄都市ブレイドピアの各所から、悪の勢力となる組織が既に数多く蘇っているのだ!!』


 え……? ちょっと待って。

 それじゃ、あの英雄封印の遺跡に閉じ込められたのはヒーローだけじゃなくて……

を、あたしが解放しちゃったって言うの!?


『我々と共に復活した憎き英雄共も開放されたが、未だブレイドピアの何処かで眠りに付いている。

 ……だがその間に英雄の意志であるトクサツールが、持ち主の石ケ谷ヒロミに持てる英雄の力を、このベルトに姿を変えて授けられた。


 ――君は今や、ブレイドピアに託されたになったのだ……!!』


 …………どーゆー事???

 あたしがヒーローになってって、話が急すぎてワケわかんなくなっちゃったよ!!


『今の君はブレイドピアの最後の希望であり、災厄をもたらした根元だ。

 この後に降りかかる苦悩、苦痛が君に待ち構える前に……我々の手で君を葬ってやる。


 ――――その時こそ、世界は我々の意のままになるのだ!!』


 ――あたしがヒーロー?


 ――あたしが、最後の希望??


「……あーバカバカしい! 信じないわよ、そんな夢みたいな展開!!」


 これは夢なんだ。そう頭に思いっきり叩き込むようにあたしは思い切って啖呵を切った。しかし……



『……ならば信じざるを得ないように、現実に戻ってその残酷な運命を思い知るがいい――!!!』


 首領が勝ち誇った声で言い放った瞬間――!


 ドックン!!!!




 心臓麻痺でも起こすかのような強い発作に襲われたあたしは即座に意識を失い、闇の中にまた誘われた……





 ☆★☆★☆★


『…………さん、ねぇ起きて下さいよ! ヒロミさん!!』


 何処かで甘く優しい声であたしを呼んでいる。


「う……ん――?」


 あたしは眠い眼を擦りながら、現実の風景を見渡した。

 目の前には愛しのルリナちゃん♡︎ それにレトロな風貌にイージーリスニング。間違いない、ここはあたしの家『リリィ』の喫茶店だ!


「……あぁーーん!!! 心配したんですよヒロミさん!! ずーっと起きないでいたんで、私心配で、じん゛ばい゛で……」


 大声で泣きつくルリナちゃんにむぎゅーと抱き付かれて嬉しいのやらまた昇天するのやら……


 しかしルリナちゃんのマシュマロ巨乳に埋もれるなら昇天しても本望だ。


「……そうだルリナちゃん、あたしが気絶してから何日経った!?」

「え? えーと、かれこれ2日? ですかね……」



「2日!! どーりで変な夢見ると思った! あたしがベルト付けられて、改造手術される夢なん……て………………」


 あたしが腰周りを黙視した途端に、血の気が凍り、硬直した。


 夢で見たのと全く同じデザインの、クリスタル製のっぽいのが付けられていたからだ。


「――――ルリナちゃんッッ!! トクサツールは!!? ブレイドピアはどうなったッッッ!!?」


「ふぇえっ!?? 何ですか急にマジな形相になって……

 ブレイドピアは相変わらずですし、トクサツールは封印を解いた途端にして

、代わりにそのベルトが……」


「消滅…………」

 あたしは愕然とした。


 恐らく夢での推測が正しければ、トクサツールが消滅した代わりに生まれたのがこのベルトで、近いうちにこのブレイドピアにジャックス以外の悪の勢力が襲ってくる――!!


 早いうちに対策を立てないと……!!


 ―――ピリリリリリ!!


 あ、こっちから着信が掛かってきた。

 ……タケルからだわ!


「もしもし?」

『ヒロミか! 急いでこっちに来てくれないか!!』


 かなり焦っている様子だ! まさか既に奴等が……!?


『お前に頼まれた戦闘ちゃん、だっけか? とにかくその女戦闘員達の再就職にお前の入れ知恵が欲しいんだ!! 早く来てくれぇ!!!』


「………………」


 ったくこいつは……人が切羽詰まってるときに。でも頼んだのはあたしだし仕方ないか。


「……今行くから待ってて。でもトクサツール使えないから遅くなる」


 あたしは若干イラつきながら淡々と返した。


『頼む~!! こんなん俺の手に追えない!!!』

『『ウフフフフ……』』

『だからウフフじゃねぇっての!!』

『『ですからぁ、これ吐息感覚で――――』』


 ――――ガチャ!!


 ……あたしの思い過ごしだったのかしら。こんな平和ボケた茶番で悪の連中が来るわけ無いもの。


「ルリナちゃん、タケルがお呼びだから行こ。キューティクル号使えないから徒歩で行きましょ」

「はーい、ヒロミさんと一緒にウォーキング♡︎」


 ルリナちゃんは無邪気で良いなぁ。可愛いし、あたしみたいに変なことで悩んだりしないし……


 ☆★☆★☆★


 あたしの喫茶店がある『マウンペア』の町からW.I.N.Dの本部までは、徒歩でも20分で行ける。


 でも行くには砂漠や、巨大な崖を登らなきゃ行けないから大変!

 暫くして本部まであと僅かの所の砂利が散らばる大きな崖、『ウォーキャニオン』に差し掛かった所。



 言うなれば、特撮の大掛かりな撮影の聖地みたいな崖の場所で……が待ち構えることになる。


 ――――ゾワッッ!!!


 突如あたしに襲った威圧感が、その前兆を知らせていた。


「……どうしたんですか? ヒロミさん」


「………………ルリナちゃん、あたしの側を離れないで。

 ――――奴等が来るッッ!!!!」



 次の瞬間、崖の上から埋め尽くしていくような人数の怪人が、あたしとルリナちゃんの辺り一面を覆い尽くした!!


 未確認生命体や、ファンタジーに出てくる化け物のような怪人がいると思えば、逆に和風の妖怪や全身タイツのチープなものまでジャンルを問わずあたしを待ち伏せていていた。


 そして中には倒したはずの『ジャックス』の怪人も……!


「「「待っていたぞ、トクサツ少女!!」」」


 怪人一斉にあたしの名で呼び掛けた。


「あんた達、もしかして英雄と共に蘇った悪の勢力の怪人達でしょ!!」

「え!?」


 これを聞いたルリナちゃんは驚いていた。あたし以上にこの事実を知らなかったのだから当然だ。


「見たか、我が悪の怪人は死なず! 光があれば闇があるように、英雄と共に悪も必ず蘇る!!

 ――貴様らの心に悪意が消えぬ限りはな!!!」

「その通りだ!!!」


 不敵に笑う怪人につられ、他の怪人も喚き叫んでいる。


「トクサツ少女はここで指を加えて見てるがいい! 我々の手で、このブレイドピアを制圧する!! ――――かかれーーー!!!」


「ダメ………ッ、止めてーーーーーッッ!!!!!」



 あたしの叫びも虚しく、一人の怪人の号令から、続々と四方八方に怪人達が散らばり、襲撃が始まった。


「そんな……英雄が復活した筈なのに……」


 あたしとルリナちゃんが茫然と立ち尽くすなか……


 ピリリリリリ!!


 またあたしのスマホからタケルへ着信が入った。



『――――ヒロミ、今何処をほっつき歩いてんだ!! ブレイドピアが大変な事になってるんだぞ!!!』


 憤るタケルの声が、あたしの全身の血の気を一気に凍らせていく。

 絶望しきったあたしに伝えられることは、もうこれしかなかった。




「……………タケル、早く皆を連れて逃げて。


 ――――ブレイドピアが、支配されちゃう!!!!」

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