Case.1 探偵なのに盗むんだゆ ⑯

 地震とは雰囲気の違うみょうに細かいそれは、身体全身に細かい振動を与える。

 つまり、どういう感じかというと、


「やややややややまままままま田田田田田田田ここここここれれれれれははははは」

「ヨシナリ、扇風機を前にした子供みたいに愉快な感じになってるゆ」


 やま田の言う通り、俺はインフロントオブ扇風機状態なのだ。


「なななななんんんんととととととととととかかかかししししし」

「まったく、ヨシナリは仕方ないやつゆ」


 やま田は少しだけ宙に浮き俺の頭を両手でつかむと。


「んー、むあっ」


 少しだけ浮かせる。

 

「これで大丈夫ゆ」

「おおおお、さすがやま田」


 やま田が手を放しても、俺はちょっとだけ地面から浮いたままだ。

 ためしに一歩進んでみるが、やはり少しだけ浮いた形で静止する。

 大いなる宇宙のパワーは、実に便利なのだ。


「それにしても、ヨーグルさん。この震えは何なんでしょうか」

「ヨーグルはいないゆ」

「あれ、いつの間に」


 左右見渡しても、あの老紳士の姿はどこにも見当たらない。

 俺は直感した。

 つまり、この流れは――。

 その時、台座の目の前の大地が切り取られたように左右に割れ、そこからせり上がって来たのは。


「……ヤド、カリ?」


 全長10メートル以上はありそうな、青いヤドカリだった。

 前にせり出した巨大なハサミはギザギザがついていて、実に凶悪だ。

 そんな怪物の肩に乗っているのは、片眼鏡モノクルをかけたどこかで見たことがある老紳士風の男だった――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る