22. やる気出します

22. やる気出します




 あれからレイダーさんたちは山に登りあの湖から村まで川を掘ってくれている。私は川の水を循環させる水車を作ることにした。


 別に水車がなくても問題はないのだけど、この村の人たちのために何かしてあげたいし。そんなことを考えながら今日も誰も来ないお店でいつも通り窓を拭いている。


「ねぇアイリーン。」


「なにルーシー?というか起きてるのね。珍しい。」


「失礼ね。私はアイリーンがいない時は極力起きているわよ。」


 いや極力じゃなくて絶対起きていてね。一応ここには商品も置いてあるんだから。そう思いつつも口には出さない。この人に何を言っても無駄だろうし。


 ルーシーは私の隣で箒を持ち店内の掃除を始めた。その横顔を見ながらふと疑問に思ったことを聞いてみる。どうして私のところにずっといるのかしら?


「なに?私に何か用事?」


「あー用事って程じゃないんだけどさ。宮廷魔法士って、普段どんな生活してるの?王宮に住めるんだもん華やかで楽しそうよね。」


「楽しい?あのね一応働いているからね?基本は魔法訓練をするか、研究するかのどちらしかしてないけど。」


 そうだ。世間からはそういうイメージを持たれているが実際は違う。仕事量も多いし、何より常に誰かに見られている状態だ。しかも王族と会う機会だって多い。気を使うことも多いのだ。まぁその分給料はいいんだけど。


「あとはイケメンの王族との恋とかもありそうだし!」


「そんなのは一部の話よ。そんなことしてる暇なんてないし」


「そんなことないでしょ?まぁアイリーンとか堅物そうでモテなそうね!」


「うるさい。余計なお世話よ。そういうルーシーは今まで何してたの?ずっとこの『なんでも屋』じゃないでしょ?」


「私?私はね………内緒。さて昼寝でもしようかな。」


 ルーシーはそう言うとカウンターの奥にある部屋に消えていった。なんだったんだろう……? それにしても宮廷魔法士の生活か。興味本位で聞いてみただけなのかしら?あと私はモテないんじゃなくて時間がないだけだから!勘違いしないでほしい。


 私はとりあえず水車の設計をしてみることにした。まずはこの設計図を書いてみることにする。設計図なんて何が書いてあるかわからないし、書いたこともないけど、原理は分かるからなんとかなるだろう。あと必要なのは木材と道具くらいか。材料は木こりのおじさんたちにお願いすればすぐに集まるだろう。


「よし!やるか。」


 私はやる気を出して、誰も来ない店で水車の設計図を書くことにした。私が設計している間に日が落ち始め、店内が暗くなってきた。もうこんな時間なんだ。集中すると時間が経つのを忘れてしまう。そろそろ帰らないと。今日の分の作業を終え、結局昼寝をしていたルーシーを起こして店の鍵をかけて帰る準備をする。扉を開けると外にはレイダーさんがいた。


「あっレイダーさん。」


「おう。アイリーンこっちは順調にすすんでいるぞ。そっちはどうだ?」


「難航してますね。やはり慣れないことは出来ないなって感じです。」


 そんな私の言葉を聞いてレイダーさんがある事を言ってくる。


「ん?設計図はルーシーに頼めばいいだろ?ルーシーは昔、設計士だったんだから。この前の先生の家だってルーシーが設計したはずだろ?」


「はい?」


 確かにあの時私はお手伝いしてただけだから気にしていなかったけど、サイラス先生の家をみんなに指示して作ってたな…。私は勢い良くルーシーを見る。するととぼけた笑顔をしている。この人、私の反応を見て楽しんでいるな。


「ちょっとルーシー?」


「もうレイダー言っちゃダメじゃない。私がやることになるでしょ?私はゆっくり昼寝をしていたかったのに。」


 やっぱりこの女……。この恨み絶対に忘れないからね。今日の時間を返せ。そして家に帰り、夕食を食べてお風呂に入り寝る準備をしていると部屋にルーシーが訪ねてくる。どうせまたしょうもない話だろうけど。


「あの……アイリーン?……怒ってる?」


「別に怒ってないわよ。ルーシーにだって言いたくないことはあると思うし。気にしていないわよ。どうせ今日も誰もお店に来なかったし、いい暇潰しが出来たと思えば問題ないわ。」


「優しいのねアイリーンは!もし良かったらだけど、書いた設計図を見せてくれない?」


 元・設計士にただの素人の私が書いた設計図を見せるのか。恥ずかしいんだけどな。でもプロに見てもらったほうが絶対いいに決まっているし、村の為だしね。私は自分が書いた設計図をルーシーに見せる。


「ふむふむ。アイリーン初めて書いたのよね?すごい出来だわ。少し手直しは必要だけど、ほとんど出来上がってる。あなた天才?」


「え?そりゃ水の循環効率と水車の回転速度とかを計算すればこのくらい……」


「それが出来るのが天才なんでしょ?まぁいいわ。明日からこれを実際に作っていきましょうか。これ借りるわね。明日までに手直ししておくわ。まずは材料集めからね。仕方ないから私も手伝うわ。お店はエイミーやミリーナ、ロイドに任せればいいしね。」


 なんかあっさりルーシーから褒められたせいで調子狂うわね。まぁいいか。これでみんなのために何か出来るなら嬉しいし。


 翌日から私たちは早速、水汲み用の水車作りを始めることにした。まずは材料を集めないといけない。木材はルーシーと相談して山の上の方の森に行くことになった。


「標高が高い樹木のほうが頑丈だから腐りにくいし、もう少し上に行きましょうか。魔物が出てきたらお願いねアイリーン。」


 そして山を登り目的の森の中に入り、私たち二人は材料になりそうなものを探し始める。ルーシーはさすがに経験豊富らしく、木の伐採や加工の仕方を知っているようだ。


「うん。あの木にしましょう。大きさも太さも丁度いいしね。」


「でかい……」


 目の前には樹齢何百年もありそうな大きな巨木があった。この森には大きな樹が多いみたいだ。


「じゃあアイリーン風魔法でよろしく!あっ。ちゃんと枝も切り落とすのよ?」


 ルーシーが斧を持ちながらそう言う。風魔法か。こんな巨木を切るのは初めてだが大丈夫だろうか。でもやるしかないな。私は深呼吸をして集中する。そして魔法を発動させる。すると風の刃が飛んで行き、木を切り倒すことに成功した。そのあとは私が風魔法で巨木を浮かして村まで運んでいった。


「さて、やりましょうかね。アイリーンは魔法でお手伝いお願いね。」


「はいはい。よろしくお願いしますね元設計士さん?」


「もう!それは言わないでよ。」


 そう私に膨れながら答えるルーシー。私は普段と違うルーシーに戸惑いつつも、一生懸命な姿を見て嬉しくなるのだった。

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