20. 村を回ります

20. 村を回ります





 心地よい朝。私は微睡みの中にいる。今日は仕事は休み。1日自由だ。もちろん自分の好きにしてもいいし、ルーシーのように昼寝をして過ごしてもいい。なんて幸せなんだ。そんな事を思っていたのかもしれない。あの野菜娘がくるまでは。そして大きな音を立てて私の部屋のドアが開く。


「ふあ?」


「アイリーン!どうしたの!?病気!?」


「え?病気?」


「起きてこないから心配してきたんだよ!大丈夫!?」


 え……。私は今日休みなんだけどさ。というか『なんでも屋』の代表とは?なんでエイミーは私たちのシフトを知らないのか?まさか……聞いていない?いや、それはないはず。私もルーシーもちゃんと言っているはずだ。しかも昨日私は念を押して言ったような気もするが。あれは幻?いや、ただ聞いてないだけなんだこの野菜娘は。


 しかし、エイミーに言われてみると体調が悪いような気もする。でも熱があるわけでもない。風邪をひいた覚えもない。ただ少しだけダルい感じはあるけど……。なわけない。ただ眠いだけだ。


 とりあえず私は仕方なくベッドから出て朝食を食べる事にした。まだ完全に頭が覚醒していない状態で食べても味がわからないだろうけどね。


 そして案の定味がわからなかった。いつもなら美味しいはずのトーストなのにね。まぁ仕方ないか。


 私はゆっくりと支度を整えていく。今日の予定は特にない。とりあえず村を見て回ろうかな。よく考えれば私はこの農村ピースフルに来てからきちんと村を見たことがない。せっかくの機会だから今日はそうしよう。


「あっ!アイリーン!待って!朝はごめんね!勘違いしちゃって。どこか行くの?」


「いや村を見て回ろうかなって思って。私ここに来てから村を全部見てないし」


「おお!それなら私が案内してあげる!行こう!」


 いや誰も頼んでないけど。エイミーはあの馬鹿力で私の腕を掴み歩き始める。だから痛いんだってば。私たちはそのまま村の大通りと呼んでいいかわからないが一番大きな通りを歩く。相変わらず賑わっているな。一応ね。


 そこには店の準備をしている人や買い物をする人などたくさんの人が行き来している。


 うん、平和そのものって感じだね。そんなことを考えながら歩く。ただひとつ気になることがあった。それはエイミーがカゴを背負っているからだ、その中にはもちろんあの裏の畑で収穫した野菜や果物がある。私はエイミーに聞いてみる。


「ねぇエイミー?なんでカゴ背負ってきたの?置いてくれば良かったのに。」


「え?買い物するかと思って?あっそっか!言ってなかったよね。ここは基本物々交換だから。金貨とか銀貨とかはほとんど使えないんだ。私ってばブロッコリーみたいなことしちゃった。ごめんね。」


 聞いてないよ。ブロッコリーみたいなことしちゃったは、もう放っておくことにする。確かにお金が使えるところは少ないかも。それにしても物々交換か。面白いシステムだと思う。私は少し興味が出てきた。


「まぁエイミーとミリーナは何となく普段どうしてるか分かった。他のみんなはどうしてるの?」


「レイダーは薪割りをしたり、村の建物を直したり、あとは山の魔物を狩ってお肉にしたり。ロイドは魔法錬金で作った魔法糸やアクセサリーに使う魔法石を作ったり。ルーシーはなんかよく分かんないけど、お話相手になって何かもらってるよ。」


 それぞれ色々なことをしてる。確かにそう聞くとみんな得意なことをしてるんだな。まさしく『なんでも屋』なのかもしれない。となると私は何をしたら?私は魔法しか出来ない…何かに挑戦するのもありかもな。


「アイリーンは水魔法で美味しい水でも作ってみたら?」


「ここにはもう美味しい飲み水があるわよ。それにその水路を復活させたのは私だし。」


 やはりレイダーさんと同じ魔物討伐とか山狩りとかしかないかなぁ。でもあまり目立つことはしたくない。そもそも戦闘向きじゃないし。周りの意見は知らない、私はそう思っている。本当にそう思っている。結局何も決まらないまま村を一回りしてしまった。でもこれでだいたいわかった。まずは村をもう少し整備する必要がある。


 その中でもこの村の一番の問題は水源だ。このピースフルには川がないのだ。だから雨が降らないとすぐ水不足になる。都度私の魔法で水を作り出してもいいけど、それじゃこの村の根本的な解決にはならない。食料としての魚を取るには山を下って行くしかないし不便ではある。


 よし決めた!私は妙な責任感に駆られる。これは私の使命だと。それと同時に自分の中で、もうこのピースフルの一員になれていると実感もしたのだ。


「エイミー。あのさ、笑わないで聞いてくれない?私ねこの村に川を作ろうと思うんだけど。」


「ええ!?川!?ピースフルに川作れるの!?すごいすごい!作ってよアイリーン!それなら早速村長の許可取らなくちゃ!」


 この野菜娘はまた私の腕を強引に掴んで歩きだす。まぁ今回はいいけどね。私はこの村の村長に許可を取りに行くことにした。私たちは今、村長の家に向かって歩いている。一応エイミーにも同行してもらう。別に一人でも問題はないけどね。でもこれから作る川の件について、ちゃんと説明をしないといけないから。


「ここが村長さんちだよー。ってきたことあるか。さっ入ろ!」


 私たちが家のドアをノックすると中からは若い女性の声が聞こえてきた。


「はい。どなた?」


 出てきたのは金髪ロングヘアーの女性だった。歳は20代後半くらいだろうか。綺麗な女性だ。私は挨拶をする。ちなみにエイミーは隣にいるだけで、全く会話に入ってこようとしない。おい野菜娘。お前が連れてきてくれたんだからしっかりしろ。


「初めまして。私はアイリーンと言います。実は折り入ってお願いがありまして、本日は伺いました。」


「知ってます。凄い宮廷魔法士さんですよね?私は村長の娘ミリアナよ。よろしくね。」


 私たちは家の中に案内される。お茶まで出してくれた。どうやら歓迎されているみたいだ。そして私は改めて事情を説明する。


 ①今この村では水が不足していて困っていること

 ②魚をいちいち山を下り取りに行っていること

 ③それを解決するために私が川を作れないかと思っていること。


 私がその説明をしていると村長も戻って来て一緒に聞いてくれた。そしてそれを聞き終えた村長は笑顔で答える。


「なるほど。話はわかりました。それならぜひあなたにお願いしたい。村の人手ならいくらでも使ってください。」


「やったね!アイリーン!」


「まだ作れるか分からないけどね。」


 話が早くて助かる。やっぱりこういう時は年配の人が頼もしいな。こうして私はピースフルに川を作ることにしたのだった。

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