ただテレビを見ていただけなのに、推しのアイドルが俺に向かって告白してきた。

あおき りゅうま

第1話 公開告白

此花このはな高校2年1組出席番号19番‼ 椿鶴来つばきつるぎくん! あなたのことがずっと好きでした! 付き合ってください!』


 生れて始めて—――告白された。


「お兄……音量上げて……」


 俺の妹、椿つばきくるみ十四歳が箸でテレビ画面を指す。

 平面の画面の向こうのキラキラした衣装を身にまとう彼女の言葉が信じられないと言った様子で、茫然と口を開けていた。

 俺は、妹の言葉通り、リモコンをとり、音量を上げた。


『椿鶴来くん!!!! この放送を見ていたら!!!!!!!! 私の事務所にお返事を下さい!!!!!! メールでもお手紙でも何でもいいです!!!!!!』


「うるっっっっっさい!! 鼓膜張り裂けるかと思ったわ!!」

「お前が音量上げろって言ったんだろうが!」


 音量を下げ、ちゃんと聞こえる音量にする。


「ねぇ……聞き間違いじゃなかったよね? あの子、お兄に告白してたよね?」

「き、き、き、聞き間違いじゃないのかなぁ……?」

「いやめちゃくちゃ聞こえただろ。耳が張り裂けそうな音量で。しり込みするってチキンかよ」


 画面の向こうでは大変なことになっている。

 スタジオの他の出演者たちが、彼女の前に、隠すように立ち、先ほどのことが何事もなかったかのようにトークを始め、進行しようとしている。


『さ、生放送って怖いですね。それじゃあ、TNG38の次は、「オオブクロ」の「ブルーばあさん」です。スタンバイはできたかな?』


 グラサンの司会者がマイク片手にハンカチで汗をぬぐっている。

 その後ろであわただしくスタッフが動き、やがて、画面が男二人のバンドの画面に切り替わる


「ねぇ、お兄……」


 妹は、まだ茫然としている。


「何だよ……」

「お兄知り合いだったの?」

「いや……TNG38の中で推してはいたけど……サイドテールで元気っ娘で可愛らしかったから、グループの中では一番好きだったけど。俺はライブに行ったこともない」

「実名出されたよ。全国放送、生放送で……」


 『ミュージックトレイン・今年のヒットソング大放出、3時間スペシャル』


 福岡を中心に活動するアイドルグループTGN38。

 彼女たちの今年のヒットソング「サイドテールとシュラン」を披露し、拍手喝さいが巻き起こっている中、事件はいきなり起こった。


「何で、TNG38センターの愛海初女あいみはじめちゃんが全国の電波使ってお兄に告白してきたの?」

「俺が聞きたいぃぃ……」


 俺はただテレビを見ていただけなのに。俺はただ、見ているだけで良かったのに。

 この日から俺の人生は、一変した。


「……妹よ」

「何だい、お兄?」

「俺、返事するべき?」

「…………」


 妹は無言で俺のすねを蹴った。

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