世界樹に仇なすキミへ、

竜馬

プロローグ

 白い花びらが舞い散る。

 桜ではなく梅の花。

 長い上り坂の道沿いに立ち並ぶ梅木は魔豊学校の校門まで続いていた。

 花びらは僕の服に付くと同時に、ゆっくりと光となって霧散する。

 この梅花の名は確か『六ノ花』。

 六輪の花弁は雪の結晶を見立て、舞い落ちると自然エネルギーの一部として消える。

 だから道の上に花びらの絨毯はない。

 僕は光に煌めく道を歩く。

「ハァ……、ハァ」

 結構急だなこの坂

 息を整えながら、やっとのことで心臓破りの坂を終えようとしたところで、入口前に誰かが校舎を見上げていた。

 女の子だった。

 彼女は一歩踏み出せば学校に入れるのにジッと立ち止まっている。

 僕と同じ新入生だろうか? どうしよう。このまま通り過ぎるべきか、声を掛けるべきか。

 と、そんな事を考えていたら、僕に気づいたのかこちらに振り向いた。

 彼女は僕と目が合った瞬間、ニコッと笑みを浮かべる。少しの暖かい春の季節に防寒バッチリのダボっとした服を着ていた。

 こう言うのも失礼だが、とてもじゃないけど女性らしい服装では無いと思う。

 だけど僕に近づいて、もう一度浮かべるその笑顔はとても可愛らしかった。

「こんにちは」

 彼女は少し訛りのある言葉で続けた。

「もしかして、わえと一緒の新入生?」

『わえ』とはおそらく『私』と意味だろう。知り合いにこの女の子と同じ訛りのある人がいるから特に気にした事ではない。

「はい。そうですけど」

 僕は、ちょっとそっけないかなと思いながら一言だけ答えた。

 それでも彼女は表情をほころばせた後、何故か頬を赤らめてモジモジしていた。

 感情豊かな人だな。

「その……、よかったら……」

 彼女は意を決したように、こう告白した。

 

「わえと友達になってください‼︎」

 

「………………………………………………………はい?」

 流石にこれは気にした。

 友達? いきなりそんな叫ぶことなのか?

 遅れて、彼女は我に返ったように慌てて、

「ご、ごめん。同年代の友達っていなかったから。村から外に出るのも初めてやし、緊張するんよ」

 どうやら外の人と話すのはなかったらしい。

 そんなワタワタと落ち着きのない様子を見て、思わず笑みをこぼれてしまう。

「やっぱり、いきなり友達ゆうのはおかしいん?」

「いや、健気だなぁと思って」

 どスレートに『友達になってください』なんてそうはないだろ。この人なりの想いを伝えているだろうけど。

 いや、彼女の場合、違うな。

「でも、そうですね。僕も友達になりたいです」

 不安を隠す彼女が、誰かにうち明かすのに勇気が必要だ。その望んだ選択が、自分を傷ついたとしても、誰かに突き放されたとしても、僕は居場所を作ってやりたい。

 そんなふうに心の奥から訴え掛けられたようだった。

 だから、『友達』って言うのも悪くはない。

 彼女は、今この瞬間を望んでいるから。

「ホンマ! はぁ〜、良かったー! おおきによ」

 大袈裟なリアクションで感謝をする彼女は、手を差し出して、

「わえ、梅咲初名ゆうんよ! よろしゅうね!」

 まさに、花が咲いたような笑顔だった。

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