第3話 おばさんには負けない

 大方の予想通り、決勝は呂琳 vs 孫尚香の組み合わせとなった。

 しばし休憩した後、トーナメントは再開される。


「さすが琳だな。人前なのに緊張せず落ち着いている」

「えっへん! 戦場に比べたら朝飯前なのです!」


 向こうから女の子が走ってきた。


 孫尚香である。

 対戦前の挨拶に来たらしい。


「呂琳さんですよね! 今日は胸を借りるつもりで行きます!」

「とっても若いのね。あなた、何歳?」

「今年で十五です!」

「そっか。でも真剣勝負だから。私も本気で行かせてもらうよ」

「はい! お願いします!」


 一度去りかけた孫尚香はすぐに振り返り、


「私だって、おばさんには負けませんから!」


 と言い残した。


「おば⁉︎」

「怒るな、琳」

「だっておばさんって!」

「向こうは十代なんだ。琳だって洛陽に来たばかりの頃、二十代の女性はおばさんに見えただろう」

「でもでもでも〜!」


 ふくれっ面である。

 人生初のおばさん呼ばわりが大ダメージらしい。


「怒りは心をかき乱す。競技に影響するぞ」

「分かっていますよ、兄上」


 兵士から姫様扱いされてきたからな……。

 意外な弱点を見つけた気がした。


「あの子、弓腰姫だっけ。私も三文字の二つ名が欲しい!」

「う〜ん、琳の二つ名か」


 大食い。

 怒りん坊。

 ジャジャ馬。

 たくさん笑う。

 あまり姫っぽい要素が見つからないが……。


「こういうのは白に決めてもらったらいい」


 観客席の呂白のところへ向かった。


「琳姉上の二つ名ですか?」

「白なら良いやつを思いつくだろう」

「そうですね」


 ワクワクしながら見守る呂琳。


「どうかな?」

「………………」

「女らしさと強さを兼ね備えたやつがいい」

「………………………………」

「あれ? 白?」

「姫…………」

「姫?」

「姫! 将! 軍!」

「それだ!」


 呂琳は手を鳴らした。


「今日から私は姫将軍だぁ!」


 案外、こういう一幕が歴史に記録されちゃうんだよな。

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