【外伝】父ちゃん無双

ゆで魂

第1話 弓技大会

《前書き》


 外伝(後日談)を何個か書きます。

 本編と違って牧歌的です。


 ……。

 …………。


 弓技大会が開かれた。

 全国から弓の名手を集めて交流の場にするのである。


(呂布は主催者なので参加していない……)


 準決勝にて。

 ここまで勝ち上がってきたのは揚州の太史慈である。


「サクッと優勝しちまえ、太史慈! お前の弓が天下一だ!」


 ギャラリーの孫策たちから声援が飛ぶ。


 一方、対戦相手は元曹操軍の夏侯淵だった。

 これから入場という時、誰かが肩をつかむ。


「おい、淵」

「どうした、惇兄⁉︎ そんな怖い顔して⁉︎」

「あいつ、俺の右目を射抜いた奴だ」

「お……おうよ」


 夏侯惇は眼帯に手を添える。


「もし負けたらお前の左目をえぐる」

「……さすがに冗談だよな?」

「勝つのか? 勝たないのか? どっちだ?」

「はい……勝ちます」


 十四歳の時、夏侯惇はムカついた衝動で人を斬殺しており、怒らせた時のヤバさは折り紙付きである。


「よし、行ってこい」


 ガチガチに緊張した夏侯淵が入場してくる。

 太史慈と目が合うなり、


「お前のせいだからな!」


 と意味の分からない発言をした。


「試合開始!」


 とはいえ夏侯淵も死線を潜ってきた男である。

 いったん集中すると持ち前の精密射撃を繰り出す。


 両者のポイントは途中まで互角だった。

 終盤、太史慈にミスが出たので、かろうじて夏侯淵の左目は救われた。


 そして決勝戦。

 夏侯淵の前に立ちはだかったのは荊州からやってきた刺客、黄忠こうちゅうその人である。


 黄忠は髪も髭も雪のように白かった。

 眼光だけが異様に若々しい。


「ケッ……老いぼれジジイが相手かよ。決勝まで勝ち上がるなんて運が良かったな、無名の老兵さんよ」


 これを耳にした黄忠は大激怒した。


「お前と五歳くらいしか変わらんだろうが⁉︎」


 実は黄忠、実年齢より十五歳くらい老けて見えるのだ。


「おいおい、六十の手前じゃねえのか⁉︎」

「失敬な! 四十四じゃわい!」

「そうかい、そうかい。だったら手加減は要らねえな」


 夏侯淵と黄忠の勝負はまったくの互角だった。

 同点のまま延長戦へ突入し、とうとう夏侯淵の手元が狂う。


「夏侯淵の奴め、相手を挑発したせいで負けおった。猪武者なのは昔から変わらないな」


 観客席の曹操はご機嫌そうに笑っていた。

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