第3話 こ、声が漏れてたっ!?

 私が銀髪の歌姫コトリでいられるのは、家に1人でいる間だけ。

 親の帰宅と同時に魔法は解け、いつもの地味で目立たない小鳥遊琴音に戻ってしまう。

 もちろん学校でも、私がコトリであると知っているのは私だけ。


(昨日アップした動画、コメントどんな様子かな?)


 休み時間は、動画のコメントをチェックするのが日課になっている。

 どうせ空気である私に関心を示すような人はいないし、私が何をしていようが誰にも見えていない。


 コメントは、数件のアンチコメントの除けば高評価なものが多い。

 正直自分が素人であることは自覚しているし、「下手」とか「素人だな」とか、そういうアンチの意見ももっともだなとしか思わない。

 私は案外、神経が図太いのかもしれない。


 コメントはざっくりしたものが多いが、中には「この曲のこのフレーズにすごくグッときた」とか「ここの歌い方が好きだ」とか、とても具体的なものもある。

 そう言われると、自分はどう歌っていたっけなと聞き返してみたくなる。

 私はイヤホンを取り出し、褒められていた部分を聞き直すため、自分の「歌ってみた」を再生する。


 イヤホンから自分の声が聞こえてくるのにもだいぶ慣れた。

 プロ級ということはないにしても、そんなに悪くもない――と思う。多分。


(ああ、ここね。うん。ここは我ながらうまく気持ちが入ったな。)


 そんなことを考えていたその時。


「あれ、小鳥遊さんコトリちゃん好きなの?」

「!?」


 声をかけてきたのは、なんとイツキ君だった。

 普段から挨拶はしてくれるけど、それ以外で話したのは初めてかもしれない。


「えっ!? あっ、何――」

「あ、邪魔してごめん。音が聞こえて……。コトリちゃんいいよな。オレも最近めっちゃ好きでさ」

「!?」


 こ、声が漏れてたああああああああ!

 恥ずか死ぬ。


「コトリちゃんの歌、なんか胸が締め付けられるっていうかさ。綺麗で澄んだ歌声なのに切なくて、不思議なくらい心を掴まれるんだよ」


 いったい何が起こってるのか。

 イツキ君が……イツキ君がコトリを知っている!?

 しかもこれ、かなりファンでは……。


「え、あ、は……そうなの? へえ。わ、私はたまたま聞いてただけで」

「そうなんだ? よかったらオススメ教えるからほかのも聞いてみてよ! 今友達にも拡散中なんだ」

「お、オススメ……」


 それは知りたい気がする。


「LIME教えてくれたら動画のURL送るよ!」

「あ、はい……」


 えええええ。

 何だこれ何だこれ何だこれえええ!!!

 い、イツキ君がコトリのファンでLIMEゲットしちゃったとか何それ私明日死ぬのかな!?


 想像すらしない事態に鼓動が早まり、周囲に熱気をばらまきそうなレベルに顔が熱い。


「イツキー! 何してんの?」

「あ、ごめん。小鳥遊さんが聞いてた歌い手さんがオレの推しでさ。あ、ユキも聞く? めっちゃいいよ!」

「ええー。それってこの間言ってたVTuberってやつ? 私はいいわー」

「なんでだよ! ――じゃあ小鳥遊さん、あとで送るから! 聞いてね!」


 イツキ君はそれだけ言い残して、いつものカースト上位組の元へ戻っていった。

 私の鼓動は、その後しばらく暴れるのをやめてくれなかった。

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