第4話 永遠少女、試験を受ける

 茶会が開かれてから数日後、私は王宮に連れられていた。どうやら王様がまた用があるらしい。

「あの、何かようですか?」

「いや……副団長と仲が良くなったと耳にしてな」

「あの茶会であったんですよ。それでちょっと」

「なるほど……まぁ、それだけだ。試験頑張ってくれ」

「言われなくともですよ……」

 そう。今日は魔法師団への入学試験。一応筆記もあるらしいがそれは免除させてもらった。いかんせん私はこの時代の文字が書けない。正直私にとってはささっと覚えようと思っていたが読んだり聞いたりはまだ理解ができたのだが、書きはどうしても前時代の癖が残って間違える可能性があり、私は前日に口頭試験で受けさせてもらった。

 そこでの点数は知らないが免除になったと言うことは多分合格点には達していたのだろう。

 そして今日私が呼ばれたのは他でもなく実技試験が今日あるからだった。国王から『この時代の基準を覚えろ』と言われてしまっては私も強くは出られない。大人しく受けることにしたのだが……

(この人達本当に魔術師?)

 失礼かもしれないが私の心の中ではそう言う疑念が湧いていた。

 全員の魔力量をざっと見ても私の魔法の中で一番魔力消費が少ないものと比べても私の魔法の方が大きいというよくわからない結果だった。

 と言うか私にはどうもわからないことでとりあえず試験官に質問してみることにした。

「あ、あの……」

「ふむ。何用か?」

「い、いえ……彼らは本当に魔術師なのでしょうか……魔力量が圧倒的に少ない気がするのですが……」

「何を言っているんだ?今年は文句なしのいい魔法師の種が多くいるではないか。それに比べてお前は……まぁ、せいぜい努力することだな」

 どうやら私のことは雑魚とでも思ったらしい。一応隣についてきているクラテルの様子を見ると、

「オリヴィアさん、あいつの首を落としてきていいですか?」

「うん普通にやめてくれない?ただただ恐怖だから」

「貴方が言うのならやめますが……」

 私は大きくため息をつく。そして私が定位置に戻ると試験が開始された。

 試験内容は至って簡単で大きく分けると2つ。1つがある一定の的に対し指定された条件を極めて放つものだ。

「私の指定は……連射か。あまり私の得意分野ではないんだけどな……」

 私の時代の魔法は主にコントロールと魔力の密度、そして技自体の強さであってあまり連射力には誰も気にしないような時代で私もあまり連射力は鍛えたことはなかった。

 とは言うものの一度その慢心で少々負傷を負ってしまったことがあったからそれ以来ある程度昔よりはマシにはなっているとは思うが……。

「それではオリヴィア、指定は……連射か。早くやれ」

「はいはいわかりましたよ……魔法の指定はないんですよね?」

「災害級でなければな。あとこの敷地は壊すなよ?」

「あー……それは無理かもしれませんが、始めます」

 私の今の発言が試験官たちにはハッタリや戯言に聞こえたのだろう。しかし私がいざ魔法を打ち出してみるとその赤く笑みを浮かべた顔はサーっと青く染まっていった。

 『ライトニングバレット・M』。私の魔法の中であまり魔力消費が少なく、かつ魔法の構築から発射、再構築という一連の動作のスピードが圧倒的に速い自作魔法だ。

 本気を出せば正直本当に1のだがそれがバレたらただただ私は畏怖の対象となるだけだろうから私は試験者の魔法の数%分早いくらいのスピードで魔法を打ち出した。

 勿論リロードは私が脳内で詠唱しながらやるから本来の性能とは格段に落ちるが、変に恐れられて入団拒否されてはあまり私の望むようなことではない。

(はぁ……もっとちゃんと魔法を打ち込みたいな……)

 そんなことを思いつつ私が無心に魔法を打っている時だった。

 みんなが私のことを驚愕した目線で見てくる。私が何かしただろうか……と不思議に思って的の方を見てみると……。

「……あー……やっちゃったな」

 的は木っ端微塵……どころか残骸が一つも残らず、奥の壁さえも今や蜂の巣状態だった。

「お、オリヴィアさん……これはどういう原理ですか……?」

「あ、うん。ちょっと調整し忘れた」

「調整し忘れたあぁっ!?!?」

「待って待って大声で叫ばないで頂戴!?」

 私は焦った。しかし私が恐れていた事態とは裏腹に、

「お前……こんな実力があって、しかもこれは調整したのか……是非、我々の魔法師団に入ってはくれないか?」

「え、え、えぇ?」

 突然の勧誘に私は困惑していた。

「で、でも私手合わせしてないですよ……?」

「あのな……調整をちょっと失敗してあの威力になった魔法を俺たちが受けたいというとでも思ったか?」

 私は納得した。したくなかったがしてしまった。確かに私もあまり受けたいとは思わない。確かに今回は塀が穴だらけになっただけだからまだしも、対人戦では自分の体がああなってしまうかもしれない。そう思うだけで確かに戦意を削がれる。

 当事者の私がなんだが、私も戦いたいとは思わない。

「はぁ……まぁ試験官である貴方からの了解であれば多分問題はないでしょう。私を入れてください。この魔法師団に」

 私は晴れてこの国が運営する魔法師団へ入団することとなった。


 試験が終わり私が王宮からどうせだから徒歩で帰ろうかな、と思って正門から出た時だった。

 ガシャン。

 そんな音が私の耳に入っていた。私は即座にその音に嫌な予感をしていた。私の様子を見てクラテルは何用かと焦っていたが今はそんなことを考えてる暇はない。

 私はもはや自分の実力を隠さず使うことにした。

(誓約解放、鎖符位階)

 私がこの町に降りてから決めた魔法の取り扱いの『誓約』。それは魔法の危険度。私の領域はこの世界ではただの恐怖の権化なのだ。

 だから私は自分を自分自身で封印した。だが今日はそれを1段階外す。まだ次の段階へ進む必要はない。

「〈司極の五星 昇り給う竜の息吹〉『五星乃恩恵《エクリプス・ザイン》』」

 私の五感を脳のキャパシティの限界まで底上げして私はその音の聞こえた先へ進める。やはり私の予想通り

 ……それは私にとって因縁の匂いで、なおかつ慣れてしまった、慣れ親しんだ匂いだった。

 そして私はその裏路地に飛び込む。

「グボァアッ」

 綺麗に飛び膝蹴りがクリーンヒット。一人の男が綺麗に吹き飛んでいった。

「やっぱりな……この時代もやはり碌でもない男はいるようで」

 正直前時代同様殺してやりたかったのだが私の予測が正しければ襲われていた被害者は血を嫌っている。自分の血が周りに飛び散っているように見えるから。

(流石に、場所も悪いしな……)

 とりあえず私はそこから離れることにした。勿論被害者を抱えて。

 屋敷にテレポートするとクラテルは驚いた様子で

「おかえりなさ……って誰ですかそれ!?」

「答えてあげたいけど今は治療が先。私がいいっていうまで部屋に入らないで。下手したらショッキングな光景を目の当たりにするかもしれないから」

 嘘だった。

 自分の秘技はあまり世間に公表すべきではないから、誰も見ていない、そんな部屋で私は誰かを助ける。

 それが私の医療秘術だった。

 私の部屋に着くとマットの上に置き、致し方なく私は固有スキルを使う。

「《治癒の神 天上の癒し 慈愛の象徴 涙聖の加護》『Healing Astral』」

 不死身の固有スキルである『治癒乃加護アスクレピオス』の一つの能力。それは相手の傷を自由に癒すことができる。

 だから私は前時代では『聖女の慈妃』と呼ばれていたくらいには治癒活動に勤しんでいた。あの世界には医療技術なんて言うものはいうほどなく、私がやらなければ国民が徐々に徐々に朽ちていってしまうのが、嫌だったから。

 ——私は、人を『人知れず』助けていった——。


「皇女様!急病人です、向かわれますか?」

「問わなくても私は行くわ。報告だけして頂戴」

「了解しました」

 私はあまりこの国の治安がいいとは言えないと思っていた。

 仕方ない。技術がないのだ。

 疫病が発生すれば国の数割の国民が死んでいく。それで国王が死んで行くような世界だった。

 私はあまり人を助けるところを大っぴらに人前ではやりたくない。

 それをすればそれで人気を取ろうと思っていると考えられてしまえば。誤解されて仕舞えばそれだけで私の信用は落ちてしまう。

 それを、危惧してのものだった。

 国民には国が重要として厳重に守られた屋敷の中で病人を治してくれていると説明しているがそれが王様の娘である私が直々にやっていることを知ったらどう感じるのだろうか。

 喜んでくれるだろうか。

 それとも、疑われてしまうのだろうか。

 またそれでもなく……反感を、買われてしまうのだろうか。

 そんな思いで私はひっそりと人を助け続けた。

 ——いつ、バレてしまうかという不安の中で。


「本当に怖かったな……」

 そんなことを思っていると、

「んうぅ」

「あ、起きた?」

「はい……って、ひゃあっ!」

 怪我をした子が起きた瞬間私から逃げようとしたのか後ろに飛び退き、そして落っこちた。

「いたた……」

「大丈夫……?勢いよく落ちてったけど」

「だ、大丈夫だもんっ」

 強がりな男子だこと。とりあえずクラテルに来てもらって処遇はその後決めるか。

「おーい、クラテルもう入っていいよ」

「わかりました……って直ったんですね、その少年」

「あまり治りそうな状況じゃなかった?」

「まぁ……こんな短時間では本来不可能であるというわけではありますが」

「それは詮索しないでくれると助かる」

「わかりました」

 クラテルを早速口止めしてとりあえず私とクラテルで少年の処遇を決めることにした。のだが……。

「そういえば私帰るところない」

 この言葉で全ての案が一気に崩れるとは全くもって予想していなかった。

「え……君家ないの?」

「はい。というかありましたけど追い出されました」

 これはまた面倒ごとを持ってきたかも知れないな、と私のちょっとした不幸体質に嫌気をさしつつ私はこう尋ねた。

「だったらだけどさ。ここに住む?」

「え、いいの?」

「まぁ部屋は余分にあるし、私とクラテル達以外の部屋だったらどこでもいいよ」

 一応クラテルに部屋決めしてもらい、その間に私は商店街に向かっていた。

 ……勿論変装をしてだが。

「そういえば、貴方の名前ってなに?」

「言いませんでしたっけ?私はアウリカ・F・アズリスタです。気軽にアウリカと呼んでください」

「わかった。私はオリヴィア。何かと有名になってしまった不遇な少女だよ……」

 私がため息をつきつつ話すと微笑みを浮かべてくれるようになった。

(普通に過ごしていればかわいんだけどな……)

 そう思いつつまず私は仕立て屋に足を運んだ。

「いらっしゃいませ」

「あー、この子に合う服を見繕ってくれませんか?私あまり服のセンスとかがよくないので……」

「承知いたしました。それではお嬢さんはこちらへ」

 そう言われて店の人にアウリカは連れられる。その間どうせだしと私も一着ほど服を買おうかな……、と思っていたが。

(うん。さすが貴族御用達の仕立て屋)

 パーティ=用のドレスだったり、普段着用のものであっても良くも悪くも派手だった。宝石を散りばめられて少々目に悪い。もっといえば私とはあまりマッチしていなかった。

 そうこうしている間にカーテンが開く音がした。アウリカの服選びが終わったようだった。

「気に入った服はどれでも買っていいんだよね?」

「うん。流石に全部とかは無理だけどね」

「私、あの二着が着たい」

 アウリカが指を差したのは淡い水色のワンピースと、藍色のドレスだった。

「了解。すみません、あの2着買っていいですか?」

「え、あ、いいですよ」

「どうしたんです?ちょっと驚いたような顔して」

「いえ……こういう暗めな色合いのものってあまり売れないので」

「まぁ人それぞれなんでしょうね」

 私は適当にあしらった。そしていよいよ支払いをしようと思ったのだが、

「代金は要りませんよ」

「……え?」

 商売としていいのだろうか。そう思ってしまい流石に戸惑った。

「大丈夫なんですか?」

「えぇ。だって、あなたオリヴィア様でしょう?」

 今度は私が驚く番だった。私がオリヴィアであるとバレてしまっていた。

「あはは……そんな変装下手ですか?」

「いえ。私がそういう着飾ることを専門としているのでどうしても人の骨格とかで誰かどうかを判別してしまうんです」

「今度はそれも配慮しなきゃか……はぁ……」

 私は仕立て屋の人にお礼を言いつつアウリカと共に仕立て屋を出るのだった。

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