第1話 永遠少女、常識を忘れる

 〜数万年後〜

「これで今日の練習は終わらせようかな」

 辺りに魔獣の屍が転がっているが、大したことではない。日常茶飯事だった。

 私はこの森に来てから何年もの時をかけてあの『導き』を成そうと努力を重ねた。まぁ常人とは違い時間制限はないから焦りなんてものはなかったが。

 ただ私が研究しているときにまさか隕石が降ってくるとは思ってなかった。この森はそもそも空中に漂う高濃度魔素によって胡散霧消してしまっていたが。

 それもまた3000年前くらいの話。多分その時に人類が壊滅的な被害を受けていたとしてもある程度は復興しているだろう。

 私は、私が忘れ去られているであろう森の外へ向かうことにした。

「私の知らない間どれだけ世界が変わってるのかな……?」

 少しワクワクしながら山を降りる支度をしていた。


「さて、出かけますか」

 用意がすぐに終わった私は〈空間収納ストレージボックス〉に申し訳程度に魔獣の武器などに加工できそうな部位を入れておく。多分これでもし働くツテがなくても売ればなんとかなるだろう。

 私は久々に山を降りるからか、全くと言っていいほど道を覚えていなかった。

「あっれ……こっちの方角じゃなかったけ……?」

 全然辿り着かずに右往左往していると、魔獣に囲まれてしまった。

「もう……こっちは今道に迷ってんの!」

とりあえず私の最速で放てる魔法を四方八方に撃ち放つ。囲んでいたオーガであろうものは無惨にもバラバラにされていた。いや、穴の小さな蜂の巣とでもいった方がいいか。

 全く。こんなペースで出てこられたら流石に面倒だけど……。

 そう考えていたが、私は閃いた。

「そっか。宙を浮いてある程度の場所まで行けばいいんだ」

 思いついたが吉日。私は速攻で空に飛び上がる。するとそこには……。

「結構発展してるねぇ。私が最後に見た時より数倍も発展してそうじゃないか」

 街はネオンに包まれていた。空中には魔空挺が飛んでいたり、魔法力が異常に高い。この魔窟とまでは言わないが、前の街よりかは遥に魔法技術が発展している。

「これは少し急足だな……」

 私は近くどころか飛び込みで空からあの街まで飛んでいくことにした。


 私が上空を飛び越えようとした時、

「おい、ちょっと待て!」

 呼び止められてしまった。勢い余って一度入ってしまったが、バックステップの要領で後ろに飛ぶ。そして引き止めた傭兵のような人を見る。

「個人票を出せ」

「……個人票?何それ」

 この世界に変わる時に何かが変わったのだろうか。

「個人票を持ってないのか?もしかしなくとも流浪人か?」

「ま、まぁそんな感じですかね……」

「なら俺がついて行くからどこかしらのギルドに行け。まぁ、お前のことだし、無難に冒険者ギルドか?」

「無難にそこにします」

 私は正直言われるがまま冒険者ギルドに行くことにした。

 冒険者ギルドに着くと、その傭兵は扉の前で待ってくれた。一応仕事らしいし、さっさと済ませて仕事に戻らせてあげないとな、と思って私はとりあえず受付に近づいた。

「あの、すみません」

「はい、どうされましたか……と、貴方は見ない顔ですね。新規登録される方ですか?」

「はい。そのためにきました」

 そういうと受付の人はサイン用紙を渡してきた。ふむふむ。名前と年齢、出身地に得意な闘い方……それらを書けと書かれてあった。

 隠すこともないから私は着々とかいていき、最後に規約を全て読みサインをして渡した。

 ちなみに名前は前の名前とは変えて、オリヴィア・アルセティオという名前にした。年齢は嘘偽りなく32674才。ただ流石に時が経ちすぎてあっているかどうかは定かではない。

 私の書いた用紙を見るや否や、

「年齢を増やしすぎですよ。ちゃんと書いてください」

 といってきた。何歳と書いたか気になった周辺の冒険者が覗き込む。そして一様に、

「こんな年齢ありえるかよ!嘘はもっとマシかつ大概にしたほうがいいぞ?」

 私はそんな言葉など耳を貸す気もなく、強く言い張る。

「嘘も偽りも言ってない。ただ流石に完全にその年齢とは言い切れないけれど……まぁ、大体それくらいだね」

 と。

 周りの空気が固まる。笑いさえ起きない。私の声と表情で嘘なんてついてないと理解したのだろうか。だが、まだ信じてもらえなかったようで、

「で、でしたら……この紙を持って『私は男です』と言ってください」

「?私は男dってあがっ!?」

 手に突然痛みが走る。何が起きたかは全く理解できなかった。

「それは嘘を見抜くルーンです。嘘をつけば先ほどのように電流が流れます。これでならなければ信じましょう」

「はぁ……私はその年齢で間違いないです」

 そういうが、手に電流は流れない。またそもそも起動したようには見えなかった。

 受付の人は唖然としていた。どうやら絶対にこの機械が反応すると予想していたようだった。流石に年齢を偽るほど面倒なことはしない。だけれど、

「確かこいつ魔法が得意なんだろ?それで壊したんじゃねぇの?」

 と根も葉もないことを口走る奴が出てきた。

「そうですね……その機械を返してくれますか?」

「あ、はい」

 私はさっと取り外し受付に渡す。

「元々の機構から改変は……されてません」

 何故年齢如きでここまで重要視するのだろうか。

「では、こちらが冒険者証明書です。最初は全員Dクラスからなのでできるだけクラスを上げられるように頑張ってください」

 私は証明書を手に取る。縁は黒く、結構シンプルだった。

 足早にギルドをでる。すると、傭兵の方がまだ待ってくれていた。

「遅かったが何かあったのか?」

「まぁ……ちょっとトラブルが起きただけですよ。あ、はい。これでいいんですか?」

 私は冒険者証明書を見せる。

「ふむ……問題なさそうだな。じゃ、これから頑張れよ」

 そういうとその傭兵の人は戻っていった。

 それをある程度見送ると私は再度ギルドに入った。どうせだから魔獣の毛皮とかでも換金しておこうかと思ったからだった。

「どうされました?」

「換金って受け付けてます?」

「はい。何を換金なさるんですか?」

 そう問われると、私はとりあえずざっとここに来るまでで倒した魔獣の収集品を取り出す。その辺の魔物みたいなものだ。どうせ銀貨数枚程度で収まるだろう。

 だけれど、周りを見るとそうはいかなさそうだった。ざわめいていた。それだけで多分私の考え通りにはならないだろうな、ということは容易に思い付いた。

「これは……最上位魔族の魔結晶やその皮膚などですか!?」

「さ、最上位?道中にいた分だけ出したつもりなのですが……あと、ただの魔獣じゃないんですか?」

 私の言葉に全員が唖然とした。私の常識は今の世界では通用しないのだろうか。

「……まぁ、とりあえず換金ですね。それでは換金分の硬貨を持ってくるので少々待っていてください」

 そう告げて受付の人は離れていく。その脚はどことなく震えていた。そして戸が閉まるなり大慌ての声がここからでも聞こえるくらいだった。

 待つこと数分。受付の方が汗をかきつつ小袋を持ってきた。

「こちら換金分の白金貨47枚です」

「あ、ありがとうございます……」

 流石に受付の疲れようをみて申し訳なくなり、ギルドを立ち去ることにした。どうせだし、当分は宿を借りるか……。

 そう思って目に入った宿屋に足を運び入れる。

「あの、一泊どれくらいですか?」

「入り口に書いてなかったか?一泊銅貨3枚だ」

 私はさっきもらった袋を見てみる。見事に白金貨しかなかった。

「あの、今銅貨を持ってなくて、白金貨しかないんですけど、両替ってできますか?」

「は、白金貨?お嬢さんのような年齢の人が持ってるような硬貨じゃないよ」

 話が通じないようなので。袋から1枚取り出す。

「これが証拠品です。これで信じる気にはなったでしょうか」

 店主は頷いている。白金貨を取ると、金貨499枚と銀貨99枚、そして銅貨が867枚。それらを私に渡してきた。

「とりあえずはここで過ごしてくださいな。悪くはない生活環境だとは思いますよ」

 そう箔をつけられて、この宿に好感を持っていた。

 部屋は古くからの趣を感じるような雰囲気が感じられた。傷がちらほら見えるが私は好きだった。山奥のあの家と似ていて居心地が良かった。

 少し色々ありすぎて私は疲れていた。だからか、ベッドに横たわるとすぐに眠気が襲ってきて——。


 ——扉を少々荒っぽくノックする音で私は目を覚ます。一度窓を開くと昼前のようだった。

(……寝過ぎたかな)

 まぁ2日寝たりするよりはマシか、と割りきってさっきからずっと叩いている音をなんだろうと思って開ける。すると、

「国王から、直々にお前に会いたいとのことだ。来い」

 ……どうやら私が何かしたらしい。私にそんな記憶はないが。

「えっと……私何かしでかしました?」

「知らん。厳罰かもしれぬし、歓迎かもしれない」

 曖昧だな……そのくらいははっきりして欲しかった。

「私ここにきたばかりで綺麗な服とかを持っていないのですが……その辺は大丈夫ですか?」

「流石に国王もその辺りの事情は加味しているはずだ。今回は特別に許されるとのことだ」

 良かった。今から急いで買いに行けとか言われたら流石に行こうとは思えなかったな。

「では、少々お待ちいただけないでしょうか。外出用の衣服に着替えるので」

 私は襲撃に備えて魔鉄鋼を組み込んだ魔術糸で軽くパーカーを作る。

「ではいきましょうか」

 伝達者の人は私に手招きする。その目線の先はこの国の紋章の彫られたいかにも高級そうな馬車だった。

(私これに乗るのか……)

 正直なことを言えば、嫌だった。こういういかにもなものはあまり好みじゃないから。元々私が王家の令嬢だった、と言うのも相まってこう言う明らかに作り込んでるものはそこまで好きではなかった。

 とはいえちゃんと機能も充実していた。走破性は高く、あまり揺れはなかった。ただそもそも動力として馬を使ってる時点で前時代的。本来なら魔素放射で浮遊と推進をする機械のはず。

(私の発明したあの機械はもう廃れちゃったのか……少し残念)

 私がまた新しく作ればいいのだが、いかんせん在量とそもそもで作業する場所が圧倒的にない。実現は今のところは厳しそうだった。

 王城に到着すると、ドレスがいくつも並んでいる部屋についた。

「えっと……?」

「ここにある服に着替えてください。どうしてもと言うのであれば、一着ほどは今の服のままでよろしいかと」

 まぁ、ならドレスでもいいか。正直動きづらいのはあるが、社交辞令だ。仕方がない。

「とりあえずこの中でシンプルなのはないかな……」

 あまり派手なドレスは好みではなかった。何せ昔は起きてから寝るまでずっとゴスロリ&煌びやかなドレスを着せられていた生活だった。それと比べたらまぁマシだろう。

 とりあえず紺色を基調としたドレスを選ぶ。少々露出度が高いのが玉に瑕だが、デザインは好みだった。

 魔力付与はしたら怪しまれるだろうと思い、最初からかけてあるパーカーを上からはおる。本当のことを言えばドレスの露出度をある程度下げたいがために羽織っているのだが。

「着替え、終わりましたけれど」

「でしたらついてきてください。時間には余裕がありますが、国王は少々気が荒いので」

 なるほど。時間などのルール絶対遵守する人か。私は嫌いじゃないけどな、そういう思想の人。

 国王のいる部屋は、私の目には痛いものだった。

 壁はできるだけ使われた金。地面は大理石と諸々の鉱石を散りばめられていて、鎮座する騎士の像は、白金でできているようだった。

「よくぞ参った。我の名はアルドラ・シンフォディ・ロードだ。この国の国王を賜っている」

「私はオリヴィア・アルセティオです。最近この街に降りてきました」

 軽く自己紹介をする。これが前の時代のマナーだった。今の世界のマナーは知らないが。

 しかし誰も咎めはない。最低限怒らせるようなことはしてないようだ。

「それで、私から一つ尋ねていいでしょうか?」

「なんだ。我の答えられるものなら答えてしんぜよう」

「私は、なぜ呼ばれたのでしょうか。正直何か悪事を働いた覚えはありませんし、もしかしたら私の世間知らずのせいでやらかしをしているかもですが、それでも理由がわかりません」

 ここにきてからの疑問。それは私がなぜ国王たる者に呼ばれたのか、だった。正直怪しさもあったが、それを表に出すのはやめておいた。変に気分を損ねられては困るから。

「それはな……女性相手に失礼だが、汝の齢についてだ」

「あぁ……勿論本当ですよ。あの機械を壊した訳ではありません」

「別にそこは疑っておらん。あれを壊すことは事実上不可能なのだからな」

 そうだったのか。下手に手を出さなくて良かったと心の中で安堵していた。しかし

「……それでは私は結局何故ここに」

「汝は30000年前から生きているとの話だ。つまり『滅却の時代』を知っているのではないのか?」

「?『滅却の時代』、ですか?なんですかそれ」

 私はその単語に聞き覚えはなかった。そういうと国王は少々目を見開く。

「この単語を知らないのか……今では幼児でも知っておるような時代なのだぞ」

「知るも何も……って、もしかしてあの隕石が落ちてくる前の時代のことですか?」

 少し思い当たる節があり、国王に問うてみた。すると、

「そうだな。と言うことは、それをみたことがあるのか?」

「まぁ、はい。私がいたところは被害がありませんでしたが」

「なるほど……汝にとって前の時代は、どんな世界だったのか、教えてくれなんだろうか」

 別に特筆して隠すことがない私はとりあえず知っている情報を話すことにした。私の元々の身分、世界の流れ、私の正体、実力。そして私の本当の名前を国王だけに教えた。別に隠すこともないのだが、下手に公表してしまうと、逆に前の世界の反逆みたいに反感を買う可能性が高いからあまり公表はしないようにすることにした。

「!?そ、その名前は……前世界の皇j」

「それ以上は言わないお約束です」

 私はそう告げて『サイレント』を国王に付与する。そしてすぐに解く。

「全く。変わったやつだな、汝は」

「これでも数万年引きこもりですから。こうやって暗くなるのも当たり前ですよ」

「はは、そうなのかもな」

 私はこれで用事は終わりだろうと思っていた。しかし、現実というものは望んでないものがいらないときに現れるものである。

「そしてここからが本題なんだが」

「え、まだ本題じゃなかったの」

 つい本音が漏れてしまっていた。流石に用事は私の年齢が本当で、前の世界を知っているかの確認だと思っていたが、違うようだった。

「さっきの話で、今からの話をするかを決めていたのだ。若干騙すようになって申し訳ない」

「まぁ、別にいいですよ。それで、その用事とはなんでしょうか」

「できればでいいのだが、我が国の魔法師団に入ってくれないか」

 私はついつい頭を抱えてこう思った。

 あれ、私の強さって人並みだよね?

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