運命に、逆らいたい

B&M

第1話エピローグ(side 伊織)

 あるわけないんだ、運命なんて。

 僕は必死にその運命から、追いかけてくるあいつから逃げるために全力で足を動かす。

 初めてあいつを見た時から、知っていた。

 だから、会わないように避けていたというのに。

 どうして今日に限って道に迷って、誘われるようにあいつのテリトリーであるバラ園になんて行ってしまったんだろう。

 知らなかったとはいえ、どうしてバラ園に漂う香りが、あいつのものであると気づかなかったんだろう。

 出会ってしまえば、もう逃げることなんてできないのに。

 でも、逃げたかった。

 出会いたくなんてなかった。

 運命のアルファになんて。僕の、運命の番になんて。

 そんなのまやかしだって、信じないようにしていたのに。

 頭の中が混乱していっぱいいっぱいになりながら逃げているうちに、いつのまにか追いついてきたあいつに、僕の腕は掴まれてしまった。

 僕と比べものにならないほどの、筋肉のある逞しい腕。

 日差しより熱を持った体温。

 僕の心も身体も思考も、すべて奪っていく、バラのように甘い香り。

 彼が運命だという証を改めて感じた瞬間、僕は簡単に彼の腕の中に抱きしめられてしまった。

「やっと……、捕まえた。俺の運命」

 そう耳元で囁かれてしまえば、もう逃げられない。

 僕はもう……、彼を、獅子堂司のことを知ってしまったから。

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