第16話「大鼠討伐Ⅲ」

 ゼインと別れてから一時間。

 遭遇する全ての分岐路で下方向へと続く道を選択した僕は、気付けばかなり深部にまで進行していた。


「流石にここまで来る冒険者は居ないかな」


 広がる景色は変わらずとも、以前にも増して耐え難い悪臭がこもる地下水路。

 既に鼻呼吸を諦め口呼吸に移行していた僕は、現在地点を脳内で確認する。


 複雑に入り組んだ地下水路は、一度迷えば抜け出す事は難しい。

 故にギルドは駆け出しの冒険者に向けて深追いの危険性とマッピングの重要性を度々説いている。


 しかしながら余りにも深くまで潜った結果、地下水路で遭難する冒険者は毎年後を絶たない。


「えーと……」


 僕は地下水路への侵入地点からここに至るまでの道のりを脳内でなぞる。

 現在地点をギルドで確認した地下水路の地図と照らし合わせ、帰還する際の最短経路を思い浮かべた。


「後2時間ってとこかな……」


 現在時刻は15時を少し回った所。

 最短経路通りに進めば、休憩時間を含めても3時間弱でギルドまで辿り着く。

 ならば地下水路で大鼠討伐に費やせる時間は残り2時間。


 ここからは少しペースアップした方が良いかもしれない──僕は大鼠の鳴き声が木霊こだまする方角へ油断なく長剣を構える。


 幸いな事に地下深くへ進めば進むほど、それこそネズミ算式に大鼠はその数を増やしていた。


「──はっ!」

「ギュ……」



【Lv.1→2に上昇しました。《技点:118》を獲得しました。現在の《保有技点》は218です】



 都合10匹目の大鼠を討伐した僕は、本日2度目のLv.upを果たす。



=================


《プレイヤー:アレン・フォージャー》を初期化しますか? ▷はい いいえ


=================



【《プレイヤー:アレン・フォージャー》の初期化に成功しました】

 ・

 ・

 ・

 ・

【現在の《保有技点》は218です。敏捷に《技点》を割り振りますか? ▷はい いいえ】

【敏捷:B→B+に上昇しました。現在の《保有技点》は10です】


 最早機械的な作業で初期化──《敏捷》に《技点》を割り振った僕の耳が、再び大鼠の鳴き声を拾う。


「キュー」

「キュキュキュ」

「キュキュー」


 かなり大きな大鼠の群れ。

 恐らく普通に討伐しようにも数匹討ち漏らしが出るだろう。

 僕は地下水路の地図を思い浮かべ、一計を案じる。



「キュキュキュ!」


 地下水路深部行き止まり──敢えて急襲を捨てた僕は、袋小路の方向へと大鼠を追い立てる。

 大鼠の群れを一網打尽にする為と咄嗟とっさに立てた作戦だったが、それにしては


「ははは……」


 前方を遁走する大鼠の大群に、僕の口から笑いが溢れる。

 大鼠の群れは、逃げていく先々にいた別の群れを巻き込んで逃走──既に20匹以上の大群となっていた。


「キュー!」

「ギュッ」

「キュギュ……」


 冒険者から必死に逃げる先──袋小路に気付いた先頭の大鼠が急停止するも、既に手遅れだった。

 次々と玉突き衝突を繰り返す大鼠の群れに対して、僕は無慈悲に長剣を振るう。


「ギュ……」



【Lv.1→2に上昇しました。《技点:121》を獲得しました。現在の《保有技点》は131です】


【Lv.2→3に上昇しました。《技点:114》を獲得しました。現在の《保有技点》は245です】


【Lv.3→4に上昇しました。《技点:118》を獲得しました。現在の《保有技点》は336です】



 流石に20匹以上となると袋小路に追い詰めても討ち漏らしが出てしまう。

 いかに大鼠といえど窮鼠猫を噛むで一斉に反撃されればひとたまりもない。

 深追いする事はせず、僕は淡々と逃げ遅れた大鼠の息の根を止める。


「こういう時に魔法スキルが使えればなぁ……」


 全体攻撃が可能な魔法【スキル】を持つ冒険者をうらやみながら、僕は辺りに散らばる魔石を拾い集める。



スキル】取得には、大きく分けて二つのパターンが存在する。


 一つ目は【自然発現】──9〜12歳の間、全ての少年少女を対象に約5割の確率で【スキル】が発現する。

 ここで戦闘向きの【スキル】を発現した者の一部は、一攫千金を夢見て冒険者をこころざす。


 二つ目は【技書スクロール】──迷宮深部でごくごく稀に発見される、【スキル】を取得する事が可能な巻物。

 その価値は凄まじく、数世代に渡って家族を養えるだけの大金でもって国や貴族に買い取られる。

 現状発見された【技書スクロール】はまだ両手で数える程と言われている。


 将来的に【技書スクロール】を獲得した暁には、その効果次第で売る事はせず自分に使おう。

 《伝説の剣》を収納したあの日から、僕はそう決心していた。



=================


《プレイヤー:アレン・フォージャー》を初期化しますか? ▷はい いいえ


=================



【《プレイヤー:アレン・フォージャー》の初期化に成功しました】

 ・

 ・

 ・

 ・

【現在の《保有技点》は336です。敏捷に《技点》を割り振りますか? ▷はい いいえ】

【敏捷:B+→A−に上昇しました。現在の《保有技点》は115です】



=================


【名前:アレン・フォージャー】Lv.1


 武術:F+(0/50)

 魔法:F− (0/51)

 防御:G+(0/28)

 敏捷:F (0/52)→A−(0/234)

 器用:G+(0/30)

 反応:F+ (0/60)

 幸運:G+(0/36)

 経験値:0/50

 保有技点:115


=================



「──よし」


 全ての魔石を回収し《技点》を振り終えた僕は、《伝説の剣》を収納するとその場を立ち上がる。

 現状獲得した魔石は27個。

 追加報酬抜きでも既に銅貨81枚──銀貨8枚以上に相当する。


「もう少し頑張るか……!」


 大鼠討伐に費やせる時間は残り1時間強。

 見敵必殺サーチ&デストロイを繰り返した僕は、その後更に26匹の大鼠討伐に成功した。



「……あ」


 大鼠討伐に夢中になり過ぎた僕は、気付けば大幅に予定滞在時間を超過していた。


 現在時刻17時47分──残り時間2時間13分。


「まずい!」


 僕は最終的にAにまで上昇した《敏捷》を遺憾なく発揮し、全力疾走を敢行。

 息も絶え絶えながら、何とか時間内にギルドまで帰還した。

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