12

 その日はいい結果が残せて、鼻歌が自然と歌ってしまうぐらい上機嫌になり、スキップしそうな足取りで家路に着こうとした時だった。

 家の前に誰かが来ているようだ。

 来客なんて滅多に来ない。来るとしたらいつも一緒に特訓していた友人なものだが、さっきまで一緒にいたのでそれはありえない。

 じゃあ、一体誰なのか。

 近づいていくと、それは大人の男二人であることが分かった。

 しかし、この辺では見かけことがない、見慣れない何か装飾の多い、服を揃って着ていた。

 そんな二人がうちに何の用が、と思っていると、二人の手に縄を持って、何かを引きずっていることに気づいた。

 その縄の先に目を追っていくと、「は?」と声が漏れてしまっていた。

 顔が殴られたらしい、顔半分を覆うぐらい赤く腫れ、誰かは分からなかったものの、あの髪色を見て、すぐに分かった。

 クロサキだと。

 ヒュウガの大きめの声にさすがに気づいたらしい、男二人がほぼ同時にこちらに振り向く。

 背筋が凍った。

 その表情があまりにも無機質で、見ていたくない恐怖に包まれた。

 怯えた表情だが、まだクロサキの方がマシなのかもしれないな。

 そうだとも思ってしまった。


「コレに何の用がある」

「コレってな·····まるで物みてーな、扱いだな」

「この世界に災いをもたらす髪を宿している。双方にとっても不利益な存在だ。ぞんざいな扱いなのは当たり前だ」

「はぁ? ありえなっ。で、クロサキのことをそんな扱いして、どこに連れて行く気だ?」

「クロサキ·····? こんなのに、名前なんてものがあるのか」


 嗤えると言わんばかりの言葉だったが、淡々とした口調であった。

 が、ヒュウガの堪忍袋の緒が切れるのには十分な言葉であった。


「こんな? 名前なんて? テメェがどこの誰だか知らねーが、その物言いはねーだろっ!」


 怒りの勢いで手のひらを地に向かってかざすと、叫ぶ。


「死の恐怖を味わえっ! 出でよ! デス・アイズ!」


 そう言った直後。

 ヒュウガの手のひらから、黒い靄のようなものが溢れ、それが細くなってゆき、片方は、細長く、もう片方は、先が鋭いものが作られていく。

 それが徐々に霧が晴れていくかのように、姿を現した。

 持ち手部分は木の材質のようで、先は鋭利な刃物──死神が持つ大鎌を握りしめた。


「ソレを出すというのは分かっているのか」

「今はどーでもいいだよッ!」


 その男に向かって、大鎌を振り下ろす。

 呆気なく交わされ、舌打ちをしたのも束の間、相手もいつの間にか召喚した大鎌で横に薙ぐ。

 すんでのところでかわし、大きく後方へ飛ぶ。

 その時、ふいにもう一人の男の方を見やると、なんとクロサキを引きずって行こうとしたのだ。


「クソッ! ひきょうだ──くっ!」

「よそ見をしている場合か」


 少し見た隙に視界の端で、大鎌が振り下ろされる気配を感じ、急いで受け止める。

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