殺し屋だった彼女、暗殺実行・Ⅰ

 吸血魔族の暗殺と魔物討伐作戦の前夜。


「こんばんは、フウさん」


 いつものように受付にはクーリさんの姿があった。


 クーリさんいつでも受付にいるな……


「どうも、ちょっとまたギルドマスターに話があるんだけれど」


「すみません。ギルドマスターは外出してまして」


 え、明日作戦開始日だよね?細かい話の最後の擦り合わせとかしないといけないのに、何してるんだあの人。


「代わりにギルドマスターからは、フウさんが来たら渡して欲しいと手紙とこれを預かっています」


 クーリさんが声を潜めて続ける。


「明日からの作戦については、手紙に必要な話が全て書いてあるそうです。どうぞご武運を」


 そう言って、1枚の手紙との入った袋を渡された。


 あ、クーリさんは作戦について知ってるんだ。つまりギルドマスターが信頼してる人物の1人なのかな。

 もしかしてこの人が、普段から決まった冒険者数人に話しかけてるの…有力な冒険者や期待の新人に唾付けるように見せ掛けて、こういう時に誰にも違和感を感じさせないためだったりして。だとしたらけっこうな策士だね。

 でも確かに、ギルド内の誰が吸血魔族と繋がっているのか分からない以上、少しでも誰かに怪しまれるような言動は避けるべきかもしれないね。


「そっか留守なら仕方ない。ありがとねクーリさん、また来るよ」


 暗殺に成功した後でね。


「いえいえ、優秀な冒険者さんは何人いても困らないですから」




 さて、手紙には何が書いてあるのか。


 宿に戻って早速手紙を開く。


(唐突だが端的に説明すると、作戦と同時に、もう一人この街に潜んでいる吸血魔族の正体を暴くことにした。俺はそのために色々と動いているから、嬢ちゃんがギルドに来た時に話を出来ない可能性がある。この手紙に作戦の細かな話を書いておく。

 作戦参加の依頼を受諾した冒険者達20人は、怪しまれないよう、例の集落から少し離れた場所に潜む手筈になった。日の出までには、全ての冒険者が配置につくだろう。

 これは俺の方の状況によるんだが、暗殺に成功した後、帰って来た時に街が混乱してる可能性がある。その時はクーリに詳細を聞いてくれ。後は全て嬢ちゃん次第だ、よろしく頼むぞ)


 ふーん、なるほどね。吸血魔族は連絡を取り合ってる。片割れが死んでその連絡がつかなくなれば、もう片割れは即座に何らかの動きを見せるだろう、と。


 少し気になるのは、帰って来た時に街が混乱しているかもって点だ。もしかして、情報を掴んだらその時点で仕掛けるつもりとか?…僕だったら情報だけ探って、一旦時間を置き体勢を立て直させ、油断したところに仕掛けるけどなぁ。

 でも焦ったもう片割れの吸血魔族が、暴走する可能性もあるか。だとしたらギルドマスターの意思に関わらず、街は混乱に陥るね。


 どちらにしても、僕は僕の仕事に集中するとしよう。




 明け方の森の中。僕は先日殺したオークの遺体で作った、剥製を着る。


 やっぱり匂いはきついし、動きづらいな。見た目も違和感はあるだろうけど…知能が低いオーク相手なら、気付かれない。何せ1度試したからね。


 事前にこの姿で1度、オークの反応を確認した際。剥製を被った僕は、何の問題もなく仲間だと受け入れられた。


 そろそろオークの見張り達が立っている辺りだね。


 気付いた見張りのオークが1匹、こちらへ近付いてくる。


「グ、ブゥグ」


 なんて言われてるのか分からないけど、何かを確認されてるんだろうな。答えられないけど。まぁ予想はしてたから、問題はない。


 僕は目の前のオークに、剥製を作る時に喉元に偽装しておいた傷痕を指すようにして見せた。


「ブグゥ」


 するとオークは納得したように鳴き声を上げ、塞いでいた道を開ける。


 第一関門は突破だね。とは言っても、知性の低いオークの見張り達は元より大した問題じゃない。さぁ大変なのはここからだ。気張って行こうか。

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