ダイナー / 平山夢明

 しばらく読書をしていなかったのですが、本作を原作とした映画「ダイナー」が公開されることを知り、面白そうだったので図書館で借りて読んでみました。


 この作品はとにかく殺し屋感がすごいです。正直暴力的な描写がえぐすぎて少しペースを上げて勢いで読んでいる箇所もありました。(じっくり読んでいたらこっちまで殺されそうになるので)

 しかし、ダイナーの店主であるボンベロや子供や女を殺すことが好きなキッド、普段は温厚で優しいが引き金を引くと恐ろしいスキンなど魅力的なキャラクターがたくさん出てきます。ひたすら暴力的かと言うとそうではなく、とてつもなく美味しいハンバーガーやスフレの描写も美しかったりするのです。


 個人的には197ページと198ページのハンバーガーの描写が好きです。まず

「湯気が鼻を打ち、自分が眠りこけていたと気がつく前に口内に涎が溢れた」

この時点でオオバカナコちゃんがいかに美味しそうに感じているかが伝わります。

 そして「わたしは薄い包み紙を通して伝わってくるバンズの熱を感じながら手に取った。並みのバーガーの三、四倍は、ずしりとした手応えがある。焼きたてのバンズの匂いが良い。若葉を陽に透かしたような瑞々しい色のレタスやトマトが六枚のバティの間に挟まっており、またそれぞれにタルタルやブラウンなど別のソースが塗ってあるようだった。」とあります。

 天才シェフであるボンベロが、いかに美味しそうなハンバーガーを作り上げるかが伺えますよね……最高です…………。

 特に『若葉を陽にすかしたような瑞々しいレタス』なんて表現すごく素敵じゃないですか? 私はとっても美しいな、と思いました。他の小説にもこういう美しいご飯の描写があったら読んでみたいな、と思います。まるでそこにバーガーがあるかのように香りや見た目が伝わってくるのです。小説とは思えないほどの描写力だなとうっとりします。


 殺しが無ければキャンティーンに行きたい、と思いますが殺しが無ければキャンティーンには入れない(殺し屋専用の会員制レストランの為)のが残念ですね。


 最初、ちょっと拷問シーンの刺激が強くて読むのを諦めようかなと思いました。「また大人になってから読もうかな…」とか思ったんですが、映画の予告を見ると非常に面白そうに描かれているんですよね。やっぱり気になるな、と思って最後まで読んだのですが、結果的には読んでよかったなと思っています。

なんだか読後は大抵のことは怖くなくなる気がしますし、ボンベロの過去についても知ることが出来ます。


 私はキャラクターに暗い過去があるお話が大好きなので、とても魅力的に感じて読み切ることが出来ました。暗い過去というのは、その後の人生に大きく影響していると思いますし、キャラクター自身に深みを与えてくれる気がします。(別に暗ければ良いという訳ではないですが……。)特にキッドの過去なんかは壮絶極まりないので人格形成にとても関わっているなと思いました。


 しかし、並みの生き方をしてきた人にはこんな小説自体書けないと思うので、どんな人生を送られたのかとても興味があります。すごく。


 激しい暴力的描写はありつつも、恐怖と狂気に恐れながらも引き込まれていくダイナーの世界をぜひ皆さんも楽しんでみてください。

 そしていつか〈Chimp piss〉に行けたらいいなと思います。


2019.7.12.

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