第17話/潮吹いてます

八月三日、俺と詩音は朝から電車に乗って海に向かっている。


「忘れ物ないだろうな」

「完璧です」

「ならよし。でも、バイトって大変そうだなー」

「六時間で八千円ぐらいって話でしたし、高い水着を買ってしまった身としてはありがたいです。交通費も出ますし」

「そうだな。頑張ろう」

「はい。私が輝矢様を全力でサポートします」

「ありがとう」





やっと海に着き、駐車場から詩音が海を眺めている時、タンクトップ姿の大河が迎えにきた。


「久しぶり!」

「よっ!」

「って、桜羽さん制服!?」

「はい、ダメですか?」

「ダメじゃないけど、暑くない?」

「暑いです」

「だ、だよね。とりあえず、料理は僕と大学生のアルバイトの人でやるから、二人は注文を取って! お客様が店を出たらテーブルを拭く! できそう?」

「任せろ! でも、まずは店長に挨拶しなきゃな」

「店長が用事で来れないからアルバイトを雇ったんだ。気楽でいいよ!」

「それはいいな! よし、詩音も行くぞ! え? 詩音は?」

「あそこで貝殻拾ってるよ」

「おいおい」


詩音でもワクワクしすぎると、俺に許可を取るとか忘れちゃうんだな。そういうの、可愛くて怒る気にはなれないけど、俺の全力サポートはどうした。


「すぐ呼んでくる」

「いいよいいよ! 一時間ぐらい遊ばせてなよ。店長には内緒で、普通に渡す予定の給料は渡すからさ!」

「いやいや、それは悪い」

「大丈夫! 店長は僕のお父さんだから!」

「そうなのか! 全然大丈夫じゃないけど、大河がそう言うなら一時間だけ」

「うん! 僕達は仕事をしよう!」

「了解!」


制服姿で浜辺で貝殻を拾う詩音は、一見暑苦しくも見えるが、どこか爽やかで綺麗だった。

 俺はさっそく海の家に入り、メガネをした男子大学生に挨拶をして、仕事を始めた。

 なかなか立派な海の家で、お客さんの数もそれなりで大変だ。





「あのー」


仕事をこなして、一時間が経ち、詩音を呼びに行こうと思った時、一人の水着を着た二十代ぐらいの女性が店に入ってきた。


「はい。中で食べますか?」

「そうじゃなくて、海の家に居る桐嶋さんって人を呼んできてって」

「え?」

「ショートカットの子だったよ」

「ありがとうございます。どこに居ました?」

「右にずっと進むと岩山があるんだけど、その辺かな! 制服だから目立つと思うよ」

「分かりました! 大河」

「うん! ちょうど一時間だし、呼んできてよ!」

「了解!」


店を出て小走りで詩音を探していると、詩音は岩山の近くで靴を脱いで、脚だけ海に浸かりながら、遠くを眺めていた。


「バイトサボってなにやってんだ?」

「あっ、輝矢様」

「早く行くぞ」

「このまま歩いたら、足が砂だらけになってしまうので、おんぶしていただけないでしょうか」

「そのために呼んだんかい!」

「それだけではありません。見てください。あそこのサメ型の浮いているやつです」

「ん? あれがどうした?」

「よく見てください」

「えっ‥‥‥」


そこには、水着姿の鳴海と、知らない男が楽しそうに海水浴をしている光景があった。


「自分は束縛しておいて、あれは酷いです」

「あれお兄ちゃんだよ」

「おぉ!! びっくりした!!」


鳴海と一緒に来ているのか、スク水姿にゴーグルを付け、浮き輪を持った美嘉が声をかけてきた。


「美嘉さん」

「やっほ」

「鳴海と一緒に来てるのか?」

「うん、瀬奈ちゃんの家族と」

「あ、あれはお兄ちゃん?」

「うん。でも面白そうだから待ってて」

「え、うん」


美嘉は浮き輪を使ってスイスイ泳いで行き、鳴海となにかを話し始めた。すると、鳴海は凄い速さで沖に向かって泳ぎ、俺の目の前まで走ってきた。


「輝矢くん! 違うの! あれはお兄ちゃんでね、浮気じゃないの!」

「わ、分かってる分かってる!」

「輝矢様、胸見すぎです」

「見てない!!」

「えへっ♡ 水着どうかな♡」


白とピンクの可愛らしい水着、めちゃくちゃ似合ってる!!あと、やっぱりおっぱい大きい!!


「に、似合ってると思う!」

「ありがとう♡ 今日は一人で遊びに来たの?」

「私が見えないのですか? あぁ、無駄に大きな胸が邪魔で周りが見えないんですね」

「やめて桜羽さん! 冗談だから!」


鳴海が怒らないだと!?やっぱり変だな。


「冗談ですか。それは良かったです」

「分かってくれて良かった!」

「見てください輝矢様、潮吹いてます」

「クジラか? って、そんなわけねぇだろ!! 急になんなんだよ!」

「輝矢様、私にゲス顔でよく言うじゃないですか『お前クジラかよ』って」

「言ったことないけど!?」

「輝矢くん」

「ん!?」

「私以外で初めてを経験しちゃったんだね。どうしてかな? 私以外で気持ちよくなっちゃダメだよ? 輝矢くんが呼んでくれたらいつでも駆けつけるんだから。ね? 私以外でそういうことしないで?」

「誤解だって!」

「すぐ本性出ますね。すぐ出す輝矢様みたいです」

「桜羽さんだって、隠してる本性とかあるでしょ?」


いやいや、すぐ出す輝矢様を流さないでくれ。何をすぐ出すのか追求しないと俺が可哀想だろ。


「ありませんよ? 私は堂々と変態です」

「堂々としてたらいいってもんじゃないからな! とにかく、ごめん鳴海、俺達、あの海の家でバイトしてるから行かないと」

「輝矢様♡ 足が汚れるのでおんぶお願いします♡」

「私がおんぶして連れて行くから、輝矢くんは先に行ってて♡」

「お、おう」


睨み合う二人を置いて先に海の家に戻り、十分ほど経った時、制服のままびしょ濡れになった詩音が店に入ってきた。


「なんか、そうなると思ってたわ」

「海に落とされて喧嘩になりましたが、美嘉さんが止めてくれました。やはり美嘉さんはいい人です」

「友達ができてよかったよ。目がそっくりだし、二人で仲良くしてたら、学校で人気出るかもな」

「人気が出ても困ります。私は輝矢様にお仕えする身ですので、誰かにチヤホヤされるために日本にいるわけではございません」

「でも、詩音も恋とかするだろ。好きな人ができたら教えてくれよ!」

「好きな人ですか。はい、分かりました」


詩音に好きな人できたら、一体どんな感じになって、どんなアプローチするのか気になるな。クールなのに、ちょっと甘えん坊みたいなところあるし、顔も良いんだ。モテると思うんだけどな。

 それから詩音も仕事を始めて、なにも問題なく時間は過ぎていった。





「よし! 仕事はお終い! 二人ともありがとう! 今回のお給料です!」

「ありがとう!」

「ありがとうございます」

「二人は今から海水浴?」

「うん、せっかく水着買ったからな!」

「私はもう濡れてます。中に水着を着ているので」


もう、普通の会話も下ネタに聞こえてきた。俺は、詩音に脳を侵されてしまったのか。


「バイト終わった?」

「二人ともまだ遊んでたのか!」


鳴海と美嘉が海の家にやってきて、大河を含めた五人で遊ぶことになった。

 美嘉は置いておいて、鳴海と詩音の水着姿を同時に見れるということか。

 今年の夏は、俺の人生史上最高の夏になる予感!!

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