第17話/潮吹いてます
八月三日、俺と詩音は朝から電車に乗って海に向かっている。
「忘れ物ないだろうな」
「完璧です」
「ならよし。でも、バイトって大変そうだなー」
「六時間で八千円ぐらいって話でしたし、高い水着を買ってしまった身としてはありがたいです。交通費も出ますし」
「そうだな。頑張ろう」
「はい。私が輝矢様を全力でサポートします」
「ありがとう」
※
やっと海に着き、駐車場から詩音が海を眺めている時、タンクトップ姿の大河が迎えにきた。
「久しぶり!」
「よっ!」
「って、桜羽さん制服!?」
「はい、ダメですか?」
「ダメじゃないけど、暑くない?」
「暑いです」
「だ、だよね。とりあえず、料理は僕と大学生のアルバイトの人でやるから、二人は注文を取って! お客様が店を出たらテーブルを拭く! できそう?」
「任せろ! でも、まずは店長に挨拶しなきゃな」
「店長が用事で来れないからアルバイトを雇ったんだ。気楽でいいよ!」
「それはいいな! よし、詩音も行くぞ! え? 詩音は?」
「あそこで貝殻拾ってるよ」
「おいおい」
詩音でもワクワクしすぎると、俺に許可を取るとか忘れちゃうんだな。そういうの、可愛くて怒る気にはなれないけど、俺の全力サポートはどうした。
「すぐ呼んでくる」
「いいよいいよ! 一時間ぐらい遊ばせてなよ。店長には内緒で、普通に渡す予定の給料は渡すからさ!」
「いやいや、それは悪い」
「大丈夫! 店長は僕のお父さんだから!」
「そうなのか! 全然大丈夫じゃないけど、大河がそう言うなら一時間だけ」
「うん! 僕達は仕事をしよう!」
「了解!」
制服姿で浜辺で貝殻を拾う詩音は、一見暑苦しくも見えるが、どこか爽やかで綺麗だった。
俺はさっそく海の家に入り、メガネをした男子大学生に挨拶をして、仕事を始めた。
なかなか立派な海の家で、お客さんの数もそれなりで大変だ。
※
「あのー」
仕事をこなして、一時間が経ち、詩音を呼びに行こうと思った時、一人の水着を着た二十代ぐらいの女性が店に入ってきた。
「はい。中で食べますか?」
「そうじゃなくて、海の家に居る桐嶋さんって人を呼んできてって」
「え?」
「ショートカットの子だったよ」
「ありがとうございます。どこに居ました?」
「右にずっと進むと岩山があるんだけど、その辺かな! 制服だから目立つと思うよ」
「分かりました! 大河」
「うん! ちょうど一時間だし、呼んできてよ!」
「了解!」
店を出て小走りで詩音を探していると、詩音は岩山の近くで靴を脱いで、脚だけ海に浸かりながら、遠くを眺めていた。
「バイトサボってなにやってんだ?」
「あっ、輝矢様」
「早く行くぞ」
「このまま歩いたら、足が砂だらけになってしまうので、おんぶしていただけないでしょうか」
「そのために呼んだんかい!」
「それだけではありません。見てください。あそこのサメ型の浮いているやつです」
「ん? あれがどうした?」
「よく見てください」
「えっ‥‥‥」
そこには、水着姿の鳴海と、知らない男が楽しそうに海水浴をしている光景があった。
「自分は束縛しておいて、あれは酷いです」
「あれお兄ちゃんだよ」
「おぉ!! びっくりした!!」
鳴海と一緒に来ているのか、スク水姿にゴーグルを付け、浮き輪を持った美嘉が声をかけてきた。
「美嘉さん」
「やっほ」
「鳴海と一緒に来てるのか?」
「うん、瀬奈ちゃんの家族と」
「あ、あれはお兄ちゃん?」
「うん。でも面白そうだから待ってて」
「え、うん」
美嘉は浮き輪を使ってスイスイ泳いで行き、鳴海となにかを話し始めた。すると、鳴海は凄い速さで沖に向かって泳ぎ、俺の目の前まで走ってきた。
「輝矢くん! 違うの! あれはお兄ちゃんでね、浮気じゃないの!」
「わ、分かってる分かってる!」
「輝矢様、胸見すぎです」
「見てない!!」
「えへっ♡ 水着どうかな♡」
白とピンクの可愛らしい水着、めちゃくちゃ似合ってる!!あと、やっぱりおっぱい大きい!!
「に、似合ってると思う!」
「ありがとう♡ 今日は一人で遊びに来たの?」
「私が見えないのですか? あぁ、無駄に大きな胸が邪魔で周りが見えないんですね」
「やめて桜羽さん! 冗談だから!」
鳴海が怒らないだと!?やっぱり変だな。
「冗談ですか。それは良かったです」
「分かってくれて良かった!」
「見てください輝矢様、潮吹いてます」
「クジラか? って、そんなわけねぇだろ!! 急になんなんだよ!」
「輝矢様、私にゲス顔でよく言うじゃないですか『お前クジラかよ』って」
「言ったことないけど!?」
「輝矢くん」
「ん!?」
「私以外で初めてを経験しちゃったんだね。どうしてかな? 私以外で気持ちよくなっちゃダメだよ? 輝矢くんが呼んでくれたらいつでも駆けつけるんだから。ね? 私以外でそういうことしないで?」
「誤解だって!」
「すぐ本性出ますね。すぐ出す輝矢様みたいです」
「桜羽さんだって、隠してる本性とかあるでしょ?」
いやいや、すぐ出す輝矢様を流さないでくれ。何をすぐ出すのか追求しないと俺が可哀想だろ。
「ありませんよ? 私は堂々と変態です」
「堂々としてたらいいってもんじゃないからな! とにかく、ごめん鳴海、俺達、あの海の家でバイトしてるから行かないと」
「輝矢様♡ 足が汚れるのでおんぶお願いします♡」
「私がおんぶして連れて行くから、輝矢くんは先に行ってて♡」
「お、おう」
睨み合う二人を置いて先に海の家に戻り、十分ほど経った時、制服のままびしょ濡れになった詩音が店に入ってきた。
「なんか、そうなると思ってたわ」
「海に落とされて喧嘩になりましたが、美嘉さんが止めてくれました。やはり美嘉さんはいい人です」
「友達ができてよかったよ。目がそっくりだし、二人で仲良くしてたら、学校で人気出るかもな」
「人気が出ても困ります。私は輝矢様にお仕えする身ですので、誰かにチヤホヤされるために日本にいるわけではございません」
「でも、詩音も恋とかするだろ。好きな人ができたら教えてくれよ!」
「好きな人ですか。はい、分かりました」
詩音に好きな人できたら、一体どんな感じになって、どんなアプローチするのか気になるな。クールなのに、ちょっと甘えん坊みたいなところあるし、顔も良いんだ。モテると思うんだけどな。
それから詩音も仕事を始めて、なにも問題なく時間は過ぎていった。
※
「よし! 仕事はお終い! 二人ともありがとう! 今回のお給料です!」
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
「二人は今から海水浴?」
「うん、せっかく水着買ったからな!」
「私はもう濡れてます。中に水着を着ているので」
もう、普通の会話も下ネタに聞こえてきた。俺は、詩音に脳を侵されてしまったのか。
「バイト終わった?」
「二人ともまだ遊んでたのか!」
鳴海と美嘉が海の家にやってきて、大河を含めた五人で遊ぶことになった。
美嘉は置いておいて、鳴海と詩音の水着姿を同時に見れるということか。
今年の夏は、俺の人生史上最高の夏になる予感!!
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