第8話/バレちゃったぁ♡

あれから十三日が経ち、体育祭まであと五日。

 十三日間、特になにもなく、詩音もあの話に触れてこないが、なにもないということは、手がかりがなくてヤバいってことだ。

 今は学校も終わって、詩音と夜食の生姜焼きを食べているところだが、最終手段に出てみるか。


「詩音」

「はい、ご主人様」

「命令だ、犯人を捕まえてくれ」


詩音は命令という言葉に敏感だ。きっと捕まえてくれる。


「そのことですが、十三日間言っていなかったことがあります」

「言ってなかったこと?」

「家に手紙が大量に届いてます」

「なんで言わないの!? 内容は!?」

「全て私への脅迫です。本当のターゲットは輝矢様ではなく私のようです」

「いったい何をしたんだよ」

「私はただ、普通に学校生活を送り、家では性奴隷メイドをしているだけですが」

「俺が一回でも性奴隷扱いしたことがあったか」

「ありませんが、ご主人様が眠っている時、よく胸を揉ませてあげています♡」

「起きてる時にしろよ!! じゃなくて、脅迫って、実際なにかされたのか?」

「体育祭までに犯人を見つけるか、体育祭までに私が輝矢様の家を出るかの二択を迫られているだけですよ」

「じゃあさ、作戦なんだけど、まず俺達のクラスに犯人がいないか特定する方法として、みんながいる時に『やっぱりお前を追い出して正解だった』って言うから、それで手紙が止まったりしたら、そういうことじゃん?」

「天才です!♡ やはりご主人様は素晴らしいです! あんな探偵なんかとは比べ物になりません!♡」

「あの探偵は鳴海を犯人にしている以上、使い物にならない。とにかく明日、忘れるなよ?」

「はい♡」





そして体育祭まで後四日の朝、ホームルームが始まる前の、クラスメイト全員が揃った時間。俺はさっそく作戦を実行した。


「いやー、やっぱりお前を追い出して‥‥‥正解だったわ‥‥‥」


そう言っている途中であることに気づいてしまい、全身に鳥肌が立った。


「やり捨て反対です」

「な、なぁ‥‥‥」

「はい? いつもみたいにツッコまないんですか? いやらしい意味ではなく」

「い、いや、ホームルームが終わったら着いてきてくれ」

「分かりました」


詩音のくだらない返信に反応する余裕も無い。これはヤバいことになった!!

 それから朝のホームルームが始まったが、早く終われと心の中で念じているうちに終わり、俺はすぐに廊下に出た。


「桐嶋さん?」

「よし、来たか」

「廊下に連れ出して、私をどうしようと言うのですか♡」

「ふざけてる場合じゃない。犯人は鳴海で決まりだ。俺達が一緒に暮らしてることを知ってるのは鳴海しかいない。なのに、家を出ろって手紙はもう確定だろ」

「知ってましたけど」

「なんで早く言わなかった!」

「言ってましたよ? 探偵さんも」

「でもいまだに信じられない。どうしたらいい?」

「今日の放課後、探偵さんに相談しに行きましょう」

「そうだな。そうしよう」


犯人が鳴海だと分かったが、あんな清楚で優しい鳴海がやったと考えるだけでゾッとして、鳴海の顔が見れない。





一日中、頭の中が【どうして?】これでいっぱいで、ずっと授業に集中できなかったが、詩音はやっぱり早い段階で本当に鳴海だと思っていたのか、いつもと全然変わらない。

 ただいつもと違うことといえば、今日は特に護衛心が強く、トイレに行くにしても、毎回トイレの外まで着いて来たりと、ずっと近くに居た。


「さて、放課後です。行きましょう」


放課後になり、鳴海より先に教室を出て、技術室の掃除用具入れの前にやって来て、詩音が掃除用具入れを三回ノックした。


「濡れ濡れ」

「パンティー」

「ワイシャツだよ!! でもいいや、声で詩音ちゃんって分かるし」

「良くねーよ!! もっとまともな合言葉にしろ!!」

「ありきたりのやつじゃ意味ないでしょ? すぐバレちゃうじゃん」

「そうか?」

「んじゃ答えて。山」

「川」

「ほら、誰でも分かる」

「桐嶋さん、そこは山でいいのです。山が二つあればおっぱいになりますから」

「ふざけるなら帰って」

「詩音は無視してくれ。それより不味いことになった」

「なに?」

「犯人は鳴海で決まりだ。円満に揉め事が起きないように解決したい」

「私は探偵であって相談屋じゃないんだけど?」

「そこをなんとか!」

「無理」

「世界に一つだけの素敵な石を持ってきました」

「世界に一つ!?」

「はい、探偵さんはそういう世界に一つみたいなものに惹かれるのかと思いまして」

「うん! そういうの好き!」


詩音が握ってる石、その辺に落ちてるただの石なんだけど‥‥‥まぁ、世界に一つ、嘘はついてない。


「作業台の上に置いておきますので、どうすべきかアドバイスお願いします」

「分かった。瀬奈ちゃんと同じ中学だった私だから言えること!」

「っ!?」


急に詩音が何かに反応し、振り返り様にハイキックの体勢に入り、いつの間にか背後にいた鳴海の顔目掛けて脚を振ったが、鳴海はしゃがんでそれを交わした。


「なにしてるんだ!?」

「あはっ♡ バレちゃったぁー♡」


詩音はいつもと様子が違う鳴海の胸ぐらを掴んで、拳を握りしめた。


「し、詩音! 落ち着け!!」


次の瞬間、掃除用具入れが開いて、中から身長が百四十ちょっとぐらいの、背が低くくて、大きなフードで顔を隠した女子生徒が、手をパーにしながら、漫画みたいな走り方でスタスタ逃げていってしまった。


「バレるとは思ってなかったなー♡」

「な、鳴海‥‥‥」

「私は女ですから、女である貴方を殴ることになんの躊躇ためらいもありません。特に、桐嶋さんを傷つけでもしたら、私は貴方に倍返しします」

「傷付けたりなんかしないよ♡ だって、輝矢くんは私のご主人様なんだもん♡」

「ふぇ?」

「私のご主人様です。傷つけないとか言って、前にビンタしましたよね」

「あれは辛かったよ? 振る時もすっごく辛かった。でも、全部桜羽さんのせい」

「はい?」

「桜羽さんが居なければ、輝矢くんは私だけ見てくれたはずなのに、どうして邪魔するの? 私は、桜羽さんが居るから、輝矢くんの気持ちを確かめるために振ったり冷たく接したりしたんだよ?」

「ど、どういうことだ?」

「そうすれば、私のこといっぱい考えてくれるでしょ?♡ でも、輝矢くんの気持ちが離れいるのに気づいて、もう、輝矢くんの元から桜羽さんを突き放すしかないと思ったの♡ でも失敗しちゃった♡」

「別にあの時振らなければ、二人はお付き合いを始めていました」

「そ、そうだぞ?」

「ダメだよ。輝矢くんが暮らす家の空気を吸って、一緒にご飯を食べて、お風呂も共有して、このままじゃ、輝矢くんが汚れちゃうもん。だから私が助けてあげるの♡」

「怖い!! でも愛されてる感じ!!」

「桐嶋さん、バカですか?」

「今は三人しかいないんだから、いつもみたいに呼んだら?」

「ご主人様、バカですか?」

「おい、言い直すな。とにかく手を離してやれ」

「なにをするか分かりません」

「なにもしないよ?」


詩音はゆっくり手を離して、俺を守るように俺の前に立った。


「ねぇ、桜羽さん」

「はい」

「桜羽さんの役割、私に譲ってよ」

「できません」

「私ならもっと輝矢くんを幸せにできる♡ 迷惑もかけないし、輝矢くんの好みの女になってあげられるし、たくさんご奉仕もしてあげられる♡」


鳴海が‥‥‥俺にご奉仕だと!?


「よし詩音、鳴海を家に泊める」

「嬉しい♡ 輝矢くんは私を選んでくれた♡」


急に鳴海に抱きつかれ、緊張で全身がカチコチに固まってしまった。


「な、鳴海」

「抱きつかれて固まってる♡ 輝矢くん可愛い♡ やっぱり私がいいよね? 私のこと大好きだもんね♡」

「輝矢様、こんなヤンデレとメンヘラが混ざったような女相手に、正気ですか?」

「や、やっぱり、本気で好きだったから、こうなると気持ちが難しい‥‥‥」

「難しいことなんてないよ?♡ その口で愛を伝えて、この手で、私を好きにしていいんだよ?♡」


好きにしていいのー!?!?!?!?憧れだった鳴海を、俺の好きに‥‥‥!!


「と、とにかく、あの写真は処分してくれ」

「うん♡ もちろん♡ でも、輝矢くんの指は汚されちゃったから、私の口で綺麗にしてあげるね♡」

「えぇ!?」

「輝矢様‥‥‥私を‥‥‥捨てるのですか?」


さっきまで強気だった詩音が、今にも泣き出しそうな顔をして俯いてしまった。

 そうだ、俺が詩音の居場所を無くしてしまったら、詩音はまた辛い思いをしながら生きていくことになるんだ‥‥‥だったら‥‥‥。


「山」

「‥‥‥山」

「さっさと帰れ。俺は鳴海との時間を選ぶ!!」

「そうですか。さよならです」


よし、あのクールな目、なにか察してくれたな。


「よかった♡ 私を選んでくれて♡ 今日が私達の記念日になるのかな♡」

「そ、その前に、写真が不安でしょうがないんだ。俺の目の前で処分してくれないか?」

「分かった♡ 輝矢くんのためだもんね♡」

「ありがとう!」


詩音は技術室を出て行ったが、多分帰ってはいない。

 俺はこれから、このヤンデレ美少女を罠にハメて、詩音と家まで逃げるという、一か八かの作戦を実行すると決意した。

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