第十話 Sランクの2人・上

「初めまして、フレニカさん。私はエルバート・ルベリアと申します。周りからは【純蜃じゅんしんの盾】と呼ばれています。」


ソフィアさんの隣に居た男はそう名乗った。パッと見で受ける印象は好青年としか言えない。彼は左手首に水色の宝石が嵌め込まれた銀の腕輪をしているだけで、その他には至って普通の冒険者の服装をしている。


…何が盾なのだろうか、少し警戒した方が良いかもしれない。

ひとまず挨拶を返さないのも失礼なので挨拶をする。


「ご紹介ありがとうございます。私はフレニカと申します。」

「うん。君が試験を受ける人だね。で、合ってるかな?【豪嵐の銀猫】さん。」

「はい。私は彼女を推薦させていただきます。それと、2人の方がいいかも知れません。」


「…成程ね。君がそう言うってことはそう言う事なんだね?」

「ええ。」


【純蜃の盾】、エルバートさんはソフィアさんに確認を取っていたが、二人の間で何やら不穏な会話がされている。

取り敢えず、試験は何時始まるんだ?


「あの、試験は何時始めるのでしょうか?」

「おっと、失礼。銀猫さん、準備は良いかな?」

「私はいつでも構いません。」


「うん。じゃあ、【麗冥の淑女】さん。合図を頼めるかな?」

「純蜃様、私は現在受付嬢です。」

「…そうだったっけ?でも、魔力は前会った時より成長してない?」


「前会った時も既に受付嬢でしたが…それより、お二方同時に、ということで宜しいですか?」

「そうだね。それでお願い。」

「お願いします。」


「かしこまりました。それではフレニカさん、準備は出来ましたか?」


………え?ちょっと待てよ、話の流れ的に私は2人同時に相手しないといけないの?

しかもレイメイの淑女?受付嬢さん2つ名持ちなの?


「あの、私はSランクのお二方と同時に戦うのでしょうか?それに、レイメイ?というのは…」

「………2つ名に関しては気にしないで下さい。それと2対1か、という質問ならば、はいと答えるしかありません。」

「…あの、拒否権は、」


「試験官はSランクのお二方で、対人の試験内容を決めるのは試験官にきまっておりますので。」

「………分かりました。」

「それでは、準備は出来ましたか?」


「はい…」


そうして訓練場の端へ行く。ソフィア達は既に対面の端に居た。

マジですか…まじか、2対1とは思ってなかった。しかもタンクとアタッカーと予想される2名と戦うのか…ちょっと、キツイかもしれない。ソフィアさん達に声を掛ける。


「準備出来ました。」

「はい。では、純蜃さん。」

「分かりました。試験内容は受験者の戦闘不能か降参、もしくは試験官2名の戦闘不能か降参です。【麗冥の淑女】さん。」


「…受付嬢と言っているのに。それでは、Cランク冒険者フレニカの試験を開始致します。始め!」


試験が始まった。ソフィアさんにしてもエルバートさんにしても大して情報が無いので出方に困る。取り敢えず様子見するか…と思っていると、


「行きます。」


そう言ってソフィアさんが突っ込んで来た。これは、大分早…い!?

慌てて横に身を投げ出す。しっかりと動きは目で追えていた筈なのに急に目の前まで来た。


「外れましたか。」

「【豪嵐の銀猫】さん、私の準備までスキルは待ってね?」


取り敢えずソフィアさんから距離をとる。不味い、挟まれてしまった、さっきのは

一体…?豪嵐というからには風系統の魔法を使ったのだろうとは思うのだが…


私が思考していると突然、訓練場には透明に近い霧が立ち込めてきた。

これは、何が?まさかエルバートさんの仕業か?そう思いエルバートさんの方を向…


「よそ見は禁物ですよ。」


けない、意識をずらした瞬間を的確にソフィアさんが突いてくる。

これはどうするべきか…一旦、回避に集中するか。


「中々、当たらないものですね。やはり、2人でいって正解でしたね!」

「【豪嵐の銀猫】さん。そろそろ、準備出来るよ。」

「分かりました。では指示を。」


回避に集中してるせいでよく分からないが、エルバートさんの方が何かをしている様だ。一体何が来るのか、

………後ろ!?


「おや?これを良けれるのか。じゃあ、十の四。」

「分かりました。」


後ろから気配も無くエルバートさんが現れて盾を振るってきた、いや、盾?後ろから?盾なんて持ってなかったしソフィアさんの後ろに居るし…え?ソフィアさんの後ろに居る?何が起きたんだ?


「迷っていてはいけませんよ。」


突然のことに混乱している暇も無く、ソフィアさんが攻め立ててくる。一体、それにこれは、一定の感覚で攻撃を仕掛けてく…今度は横からか!


ソフィアさんの攻撃の合間に合わせてエルバートさんの攻撃が来る…さっきの十の四というのは恐らくこの攻撃だが、どう分けているのかが分からない…それに、エルバートさんは転移でもしているのか?


不味いな、一旦強引に距離を取って魔法を使用する事にしよう。次の攻撃のタイミングで…今だ!一気に距離を離す。


「ふぅっ、『空間系統魔法・空間把握』」

「…おや?聞いた事無い魔法ですね。」

「うん。そうだね、警戒した方が良いかな?」


一旦魔法を使うことが出来た、というか、「空間系統」の魔法は使い手が少ないんだっけ?まぁ良いか。取り敢えず、魔法によって空間を全て把握出来る。この状態でソフィアさんを捌きつつエルバートさんに視線を送ろう。


「私を見てないのに捌けるとは、さっきの魔法ですかね。」

「多分そうだね。うーん、じゃあ二の六で。スキルも解放で。」

「了解。」


エルバートさんが指示を出すと攻撃の速度が変わった。ソフィアさんの攻撃は先程よりも熾烈になり、エルバートさんの攻撃多く来る。成程、エルバートさんの攻撃は実体の無い蜃気楼の幻影か。なら、当たっても問題は無い。


これは恐らく、水と風以外にも魔法を使っているな?ここまでハッキリと幻影を写すには霧の濃さが足りない…攻撃してくる時に、霧は幻影に実体があると思わせる為に幻影に固まっている、気配がないが音が少しだけ出るのはこれが原因か…


「………スキル発動『豪嵐』」


攻撃の最中にソフィアさんがそう呟いた。そして、ソフィアさんを中心に風が巻き上がり始めた…この風の中でも霧が満遍なく広がっている、準備とはこれの事か…


「行くよ。一の六で…スキル発動『遍在する浮遊盾』」

「了解です。スキル発動『白嵐爪』」


エルバートさんが次の指示を出した次の瞬間、2人が同時にスキルを発動し、訓練場には二十を超える盾が現れ、ソフィアさんの手には白い風が纏われていた。


「んなっ!?」


思わず声を上げてしまった。それは、ソフィアさんの攻撃の速度が尋常じゃなく早くなり、手を振るう度鋭い風切り音が鳴り、更に盾が飛んできて攻撃してくるからだ。しかもこれは、盾にもハッキリと実体が出ている?当たってはいけなくなってしまった…


「貰った!」

「くっ…!」


速度の変化に対応出来ず、遂に一発貰ってしまった…貰う瞬間当たった場所に「時空系統」の「状態保存魔法」を使ったので服が切れたり、傷はないのだが、大分吹き飛ばされてしまった。切り裂くのに特化している訳では無く威力も相当な様だ…


「フレニカさん。避けてばかりでは勝てませんよ?それに、今やっと一発当たりましたし。」

「そうだよフレニカさん。本当は盾にも当たって欲しいのだけれどね。」


ソフィアさん達が話しかけて来る。恐らくこれは挑発だろう…だが、言ってることは正しく、このままでは私のジリ貧である。

そろそろ、仕掛けに行くべきか…


「それでは、仕掛けさせて頂きます。」

「ええ。来なさい。」


「『土系統魔法・物質生成』『生活系統魔法・形成』。では、参ります…!」


「土系統」の魔法で鋼を作り、それを加工して剣を作り手に握る。

私には、やっぱり剣が馴染むようだ。

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