ワクワク!!ゴブリンさんがいっぱい!!

 今回のクエストの内容はこうだ。町から西に行ったところにある森、そこの洞窟にゴブリンの群れが住み着いており、近くを通る商隊等がしばしば襲われている。今のところ大きな被害は無いが、大事が起きる前に退治を頼みたい。というもの。


 ゴブリン自体は色々な話で読んできたからよく知ってる。小さいおじさんみたいな、耳が尖った体色が緑色の魔物。棍棒とかそういった類の武器を使ってくる。そこまで強くは無い。


「ここがゴブリンの巣の洞窟みたいだ」


 ステラに案内され、木に隠れた状態で俺たちは巣を見ている。さっきからちょろちょろと出入りを行っているゴブリン達を見るに、規模は結構大きめ。一般的に大体の群れは10匹程度らしいけど、もっといそうだ。大きい群れだと30匹になるという。


「リリカは魔物退治したことあるのか?」


「魔法学校の実習でだったらあるよ。先生も一緒だったけど」


 じゃあ初戦闘じゃないって訳だ。何年制だったかはわからないし、義務教育なんてものがあるかもわからないけど、この歳で卒業している。只者ではないと思う。


「狙い目はゴブリンが入っていった時だろう。見張りを始末し一気に突入だ」


 明かりは持ってきた。魔法道具マジックアイテムの一種、【灯灯スアカリトモスアカリ】。製作者の火の魔力が込められている為、持ち主が魔力を込めると、その属性が何であれ明るくなるというもの。名前そのまますぎねぇ?


「わかっているな。多く倒した方が勝ちだ」


「もちろん!リリカが勝つに決まっているけどね」


 俺は何もしなくていいのかなぁ……完全に2人の世界だけど、審判でもやっていればいいんだろうか。そういえば体育の授業でも役に立たないからって審判やらされたっけな……


「チヒロ君、チャンスだ。行くぞ」


 そんなことを考えていたらチャンスになっていた。ステラの手に土が集まり、矢が形成される。


「おお、凄いな。それも土魔法か?」


「魔法というかゴーレムの創造の一種だな。矢を持ち歩かなくて楽なんだ」


 確かに、弓使いの弱点は弾切れ、それを予防出来るというのはかなり便利だろう。

 ゴブリン目掛けて矢を撃つ。こんな世界だ、弓矢の扱いも独学だろうけど、そのフォームは整っている。まあ俺も経験ないし、素人目に見てだけど。


「ゴブッ!?」


 矢が刺さり、悲鳴を上げて倒れる。ゴブリンの鳴き声がゴブなのって安直な気がするけど、まあそれは今に始まったことじゃない。

 っつーか俺も冷静すぎるな。オークであんなに血塗れになったしそりゃ吹っ切れるか……


「よし、今ので1匹だな」


「えー、今のも含むのー?」


 そう言いつつ洞窟へと走る。入口のサイズはなかなか大きい。ゴブリンが削って作ったわけではなく、元からあった物を利用して住んでいるらしい。中も暗いが、奥には光が見える。どうやら向こうに主な居住スぺースがあるようだ。

 それにしても……凄い臭いだ。糞とか獣の臭いっていうのか?吐き気を催すレベル。


「君今吐けるような身体じゃ無いだろう」


「いやまあそうなんだけどさぁ!気持ち的にってものもあるじゃんよ!」


 ステラに手を広げ、大袈裟に言う。人間たるものそういう気持ちも必要だと思う。


「チヒロ君は手を出さなくていい」

 

「お姉ちゃんとリリカの勝負だからね!」


 あ、やっぱり手出さなくていいんだ。【解析】の機能でカウントとか出来ないかな?そうそう、昨日の夜色々機能も試してみたんだ。チャンスがあったら使ってみよう。


 50mくらい走り、奥のスペースにたどり着いた。まあいても30匹くらいだろうと思っていた、けど……


「おいおい……何匹いるんだよこれ……」


 ゆうに50は超えるであろう数がそこにはいた。横には段にし、住居のようになった横穴が見られ、多くのゴブリンがいる。そして、その大勢のゴブリンが一斉にこちらを見た。


「ゴブ!!ゴブブー!!」


 合図と同時に俺達へ向かってくる。想像と違ってはいたけれど、今はやるしかない。


「おい、俺も戦うぞ!さすがに数が多すぎる!!」


「ウインド」


 リリカの声がしたと思った習慣、圧縮された空気の玉が10匹程度のゴブリンを蹴散らしながら一直線に飛んでいく。


「そう?これくらいだったら、リリカ1人でも勝てる気がするけどなー」


 リリカの属性は風、防御にも使えるらしい。応用力は高いけど、扱うのは難しいとか。

 短い杖、というか魔法少女のステッキのようなものを持っている。本人も『リリカの職業は魔法少女だよ』とか言っていた。ステラはそんな職業は無いとか言っていたけど。


「やっぱり君の力は必要無いみたいだ」


 ステラも弓矢を多数作成し、一度に弓に番える。


「そんなに多くて引けるのか?」


「弓の重力を弱くしてある。どんなに多くても引くことは可能だ。それで撃った矢は、こうだ!」


 軽くなった弓から自由になった矢達は、吸い込まれるようにゴブリンに命中する。


「能力で作った矢は定めた目標に自動で当たるようにしてある。どうだ?私もなかなか戦えるだろう?」


 うーん……俺もこんな感じの派手な能力欲しいなぁ……チートっぽいスキルはあるけど、内容は地味だし、今のところただ剣士なだけだし。【放出】は魔力が足りなくて大した威力じゃなかったし。火力出る技はめちゃくちゃ痛いし……

 そういえばリリカ、一応パーティに加入したけど、レベルが低いだろうにまだ上がらないな。これもしかしたら俺が倒さないとレベルが上がらなくなる?


「ゴブゴーブ、ゴーブブ!!」


 だいぶ数が減ってきた頃、1匹が奥に叫ぶと、オークよりは小さいが、他のゴブリンよかひと際大きいサイズが出てくる。それも何体も。


「マズイな……ホブゴブリンだ」


「ホブゴブリンって...あのなんか強いやつ?」


「そうだ、何かしらの原因で強化された個体だ。ここまで数が多いともっと上のレベルかもしれない……おい!リリカ!競っている場合では無い!ここは逃げ……」


 言い切る間もなく、ボブゴブリンがタックルをしてきた。その速度にステラは吹き飛ばされる。


「ステラ!!」


 俺はそばに駆け寄る。


「すまない、油断した。致命傷では無いようだ」


 と言って立ち上がろうとするが、倒れ込んでしまう。

 やりたくねえが、出力最大でぶん殴るしかねえのか……?


 覚悟をして前を向いた時、上にいたリリカが風と共に降りてくる。


「ハイウインド」


 先ほどより出力の上がった風が、ボブゴブリンだけでは無く、残ったゴブリン諸共を撒き散らす。


「中級魔法……だと……?」


「はあ……言ったでしょ。あたしは天才だって」


 呆れるような口調でこちらを振り向く。その口調。雰囲気、何もかも先ほどとは違う。もっと何か、冷たいものを感じる。


「あんた達そんなものだったのね。ハズレだわ」


「リリカ、お前……」


「あたしの固有スキル【誘惑】は、耐性の無い異性を思い通りにすることが出来るの。口調とかもその為の一環だったって訳」


 騙されたでしょ。お兄ちゃん!と、先ほどの口調で話す。雰囲気もさっきの通りだ。

 だからか、本来嫌いなタイプのリリカを信じてみようと不思議に思えたのは。まんまと騙されちまった。くそ、女子と話した事もほぼ無かったからそんなもんかと思っちまった。


「ステラは戦闘不能でしょ?どっちが使えるかわからないけど、回復魔法使いなさいよ」


「いや、俺達は2人とも……」


「もしかして使えないの?ほんとハズレを最初に引いたわ……」


 何も言い返せない。圧倒的な実力差と、パーティの弱点を改めて見せつけられた。それも年下の少女に。でも悔しいだけでは無くて、もう1個理由はある。


「あたしは強くならないといけないの。先に町に帰って解散って言っておくわ」


 じゃあね、お2人さん。と洞窟から出ていくリリカ。


「初めから私は怪しいと思っていたぞ」


 なんとか立ち上がってポーションを飲みながら訴えてくるステラ。

 

「いやまあそうなんだけど……」


「こういう事も無いようにちゃんと選んでパーティには入れた方が良い。絶対にそうだ」


 うんうんと1人で頷くステラ。うーん、確かに正論なんだけど。


「俺は絶対にあいつを入れたい」


「はぁ!?なんでだよ!あんな態度最悪なのをパーティに入れる価値無いだろう!?」


 うん、まあそうなんだけど、俺は知っている。あれは絶対押せば仲間になるタイプだ。数々のフィクションを読んできた俺の脳みそは言ってんだよ。ツンデレの仲間になるってな。ツンデレはパーティに必要だ。絶対に。

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