初バトルで右腕破裂事件

 クエスト受注後、ステラの家に寄って剣を貰った俺達は、そのままコーヤ広野へ旅立った。

 いや旅立ったって言っても、町から出たらもうそこがコーヤ。ちっとも冒険って感じじゃない。遠足くらいだ。しおりは貰えなかったけど。


 貰った両刃の西洋剣は予想以上に立派な物だった。てっきり使わなくなった錆びついたものとかかと思っていたけど、放っておかれている様子も無く、大事に拭かれているようにピカピカだったから、本当に貰っていいのか?って聞いてみたけど。


「もう使わないから良いんだ」


 と、他の支度をしながら一言で返された為、それ以上は追及しなかった。


「ここのコーヤ広野はオルスメニアで一番広い広野なんだ。国の中でも更に魔物も少なく、強くも無い」


 特に当ても無く、スライムにエンカウントする為にテクテク歩いている。腰では新しく下げた両刃剣がカチャカチャ音を立てている。この前来た時には夕暮れだったからよく見えなかったけど、基本的には何も無い。見渡す限りのクソ緑。遠くには雪の積もっている山脈が見える。人が通る道路が多少整備されているだけだ。朝ということもあり、商隊が少し通っているが、やはり軽装備だ。


「あれ、でも俺魂だけの時に湖でドラゴンを見たぞ?」


「それは多分そこら辺のヌシだな。どこから来ているかは分からないが、湖の近くによく出没している。安心していい、町の近くに来た知らせは無い」


 あの骨は恐らく冒険者。自己責任なのだろう。腕試しに挑んだここら辺の人なのだろうか?【解析】が使えていたらわかったのかな。


「というかステラさん」


「なんだい?」


「スライムぜんっぜんいないんですか」


 町を出てどれくらい経ったかはわからないけど、道路から外れてだいぶ歩いた気はする。全く整備がされておらず、自分の後ろ姿すら見えそうな平野なのに全く魔物がいない。たまに鳥が飛んでいるくらいだ。


「奴らも町の近くにいたら討伐されることはわかりきっている」


 結構歩くぞと前に歩きながら話す。確かに前も町の近くはいなかったけど、時間が原因かと思っていた。魔物も学ぶか。

 自分の足を使ってここまで歩くのは久しぶりな気がするな。前世はトラックを使っていたし。そうそう、死んだ原因のトラック。馬車を使っているんだからここにはもちろんトラックなんか無いんだろう。


「そういえばステラっていくつなんだ?」


 ちょっとした森を抜け、どうでも良い話題が尽きた辺りで思い出す。そういえば聞いていなかった。同い年くらいかと思っていたけど、一人暮らしをしていて、割と凄い技術と結構大きい家を持っていることから年上かもしれない。


「おいおい、レディに歳のことを聞くと嫌われるぞ?」


 少し微笑んで、大仰に手を広げる。


「いやー、俺自分の歳すら言ってなかったなって思って。俺は17だけど」


 居心地が悪く、何となく剣の柄を握ると、ひんやりとした感触が伝わってくる。ゴーレムの体にも感覚はあるんだと改めて感じる。


「それもそうだな。私は……っと、目的の獲物だ」


 ステラが指し示す先には、5体のぷるぷるしたわらび餅。すなわちスライムがいた。年齢は聞きそびれてしまったが、目的の方が先だ。


「スライムは基本的に体内の魔核を破壊すれば倒せる。物理的な攻撃の方が良いかもしれないな」


 体内にあったあれか。スライムはただぷるぷるしているだけで攻撃はしてこない。とりあえず【解析】をしてみようと思ったけれど、どうやら出来ないみたいだ。できるのは無機物のみって訳か?


「【解析】は出来なかったのか?」


「そうだな。そこまで使えるスキルでも無いみたい」


 ゲームは攻略本無しでクリアするのが好きだ。敵のステータスとかはわからなくても困らないと思う。

 俺は剣を両手で持ち、スライムに向けて歩く。無抵抗の奴らに攻撃するのも悪趣味な気がするけどそうも言ってられない。後ろのステラは支援する様子は無い。とりあえず一人でやってみろって事か。


 初めて持つ剣は思っていたより重かった。生き物を殺す道具っていうだけで少し重く感じているのかも知れない。

 それにしても大きくないかこいつら?個体差があるにしても、この前見かけたのよりだいぶデカい。身長ぐらいあるぞ。


「はあっ!!」


 どこを向いているかわからないスライムに剣を振り下ろす。


「くそっ」


 その重さに振り回され、核から離れた個所が削ぎ落される。守備力は見た目通り無いよう。というかこれ実践に行く前に剣振る練習とかさせてくれても良かったんじゃねぇか?

 とか愚痴を考えている間に、他のスライムが飛び掛かってくる。俺は降り下ろした剣を下から返し、一気に切り裂く。


「よっしゃ!」


 必死に振った剣は核に当たり、スライムはそのまま消滅する。


『レベルが2になりました』


 唐突に頭の中に聞こえる謎の声。一体倒してもうレベルが上がったのか?


「油断するなチヒロ君!」


 次は両側から一気に来たスライム、片方は何とか反応し、消滅させる事が出来たが、もう一体に反射的に出した右腕を飲み込まれてしまう。


「……クソっ!」


 そのゲル状の体に飲み込まれた俺の一部はどうもがいても抜け出せない。すぐに溶けるとかも無いみたいだけど、それはこの体のおかげかもしれない……無理矢理右手だけ切り落としても修理出来るのかもしれないけど、やりたくない。


 俺のピンチということで矢を撃つ準備をしているようだが。俺はあえて更に腕を奥に突っ込み、体ごと入る。呼吸は習慣でしているけど、今の俺には本当は必要無いだろう。


(掴んだ!)


 スライムの海の潜水、その狙いはこれ。中央にある核を掴む。レベル1の魂の魔法じゃ対して効かなかったけど、直接当てたらどうだ?


(サンダー!)


 追加された属性、雷の力。思った通りだ。ゲル状の体ならこっちの方が効くだろう。そして俺は土だ。電気は通さない!


「……!」


 スライムの鳴き声が至近距離で聞こえた気がして、俺を取り込んでいたスライムは消滅した。ふうとため息をして一安心……って、もう1体!


 群れは5体だ。あと1体いるはず。そう思い、振り返ると同時に至近距離で破裂音がする。何が起きたかわからない。俺の右手が勝手にもう1体のスライムに打撃を与える。その力は非常に強く、ゲル状の生き物は跡形も無く弾け飛んだ。俺の右腕と共に。


「あああああああああああ!!!」


 なんだこれ!めちゃくちゃ痛い!何が起きたかわからないのにただただ痛い!この体でもこんなに痛覚あるのかよ!血は出てないみたいだけどさぁ!トラックに撥ねられた時よりも感覚がはっきりしているぞ!?

 転げまわって最大限の痛みを耐えていると、ステラがマイペースに近づいてきた。


「えーと、大丈夫か?」


「俺に……何が起きた?」


「危なそうだったから反射的にリミッターを解除して操作させてもらった。まさか腕が壊れるとは思わなかったし痛覚もそのままとも思わなかったけどね」


 そうか、と息も絶え絶えに返事をする。

 ……先に言えよそういう事。ほかの感覚あるんだから痛覚もあるだろ。何この体、フルパワーで力出すとぶっ壊れるの?ポンコツじゃない?しかも操作もされんのかよ。


 「修復リペア


 ステラが呪文を唱える。すると周りの土が空中に上がり、何も無くなった俺の腕の周りで形を作る。


「おお……」


 衣服こそは元には戻らなかったが、そこにあるのはさっきまでの俺の腕だ。さっきまで土だった物に感覚が宿っている。ぐーぱーぐーぱー、パシッ。うん、腕だ。嘘みたいに痛みも無くなった。

 

「どうだ?元通りだろう?」


「あのさ、痛みくらい無くせないの?」


 絶大な攻撃力だったけど余りにも痛すぎる。連続でなんか撃ったらたまったもんじゃない。反動付きの攻撃、すてみタックルとかってこんなに辛かったのか。


「うーん、無理だな。魂がそこに入っているって段階で感覚は無くせない。ま、死ぬことは無いし大丈夫だ」


「俺は大丈夫じゃないんですけどね……」


 しょうがない、と言わんばかりの笑顔で突き放してくる。しょうがないはしょうがないんだろうけど、予告無しで撃たれるのはさすがに止めてもらいたい。笑いかけてきていたステラのことを睨みつける。

 何はともあれクエストは達成。帰ろうか。俺は服に付いた土を払い、ステラの方を向く。


「チヒロ君、マズい」


「何がだ?」


 俺を見ていたステラの顔つきが変わる。まるで迫りくる猛獣を見ている小動物のように。


「はぐれオークだ。初めて見る」


「オーク?」


 あのエロ同人に付き物なファンタジー竿役生物か?ステラが見ている方向を見る。豚の頭、太った体、こん棒。どこからどう見てもオーク。姫騎士が囚われてくっ殺せ!ってなる生き物。それがとてつもない速さで走ってきている。オークってあんな速いんだなぁ。熊もそういえば速いんだっけ。体格も似たようなもんだな。


「チヒロ君!逃げるぞ!」


「お、おう!」


 なんかぼーっとしてしまった。トラックの時もこんなんだった気がする。

 俺はステラと並んで広野をただただ走る。が、オークの方が少し速い。


「これ追い付かれんじゃねえか!?」


「多分な!でもオークはここら辺で一番強い魔物だ!私たちのレベルじゃ太刀打ちできん!」


 戦っても逃げても凌辱されんじゃねえかそれ!誰か他の強い冒険者にエンカウントするしか無いってか!?

 何か思いつかないのか?と横目でステラを見ると、泣きそうな顔で走っている。そりゃそうだ。オークに捕まったらどうなるかなんて有名なのだろう。何か方法は……あるじゃねえか火力を出す方法。


「ステラァ!最大出力だ!」


 俺は振り返り足を止め、ステラにリミッターの解除を頼む。本当はやりたくも無い。ただただ痛いのは嫌だ。だけど助かるにはそれしかねぇ!


「良いのかチヒロ君?」


 泣きそうな声が後方より聞こえる。


「それしかないだろ」


 わかったという声。さっきもそうだったけど、火力が上がっていても自分じゃわからないもんだな。

 オークは変わらず突っ込んでくる。相手の速さも利用できるかもしれない。拳を握り、態勢を作る。覚悟は決めたけど怖いは怖い。でも、やるしかない!


「いっけー!ゴーレムインパクトだ!」


 なんだよその技名。


「ゴーレムゥゥゥ!インパクトォォォ!!!」


 俺もノリが良い。

 俺の腕はオークの頭に当たり、なんて言うんだろう。聞いたことも無い音を立ててお互いが弾け飛ぶ。血しぶきやらそれ以外も凄いことに。


『レベルが15に上がりました。固有スキル、放出を【解析】しました。【成長】します。ステラのレベルが15に上がりました。』


 ほー、15に一気に上がったのか。そりゃ凄い。で、固有スキルはなんだ?解析と成長の効果か?後で効果とかも確かめてみるか。

 

 ん?随分チヒロは冷静だな?いやー、確かにこれだけならそう思うだろうな。まあそれはモノローグでだけだ。実際は違う。

 

「いってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 さっきよりもめちゃくちゃいてぇ!頭も抉れてんじゃねえか!?そうだよな、さっきの速度でこん棒ぶつけられてんだもんそりゃ痛いわクソ!!もちろん腕も弾け飛んでるし覚悟してても痛いわ!!片目も吹き飛んでるなこれ!そりゃさっき以上だわ!!

 普通生き物殺したらうわぁぁぁ殺したんだ!俺の手で!命を!とかなりそうだけどさ!もうそんな状況じゃないよね!!


修復リペア


 後ろから声がして痛みは和らいでいく。ちょっと待て、ここら辺の土ってオークの血付いてんじゃねえの?


「耐久力とか上げられねえの……?」


「鉄とか体積分集めれば形作れるとは思うが……それよりチヒロ君、君の【成長】は予想以上に使えるものかもしれないぞ」


「え?どういう事?」


 確かにさっきレベルも一気に上がったけど、それは相手のレベルが高かったからじゃないのか?


「私のレベルもチヒロ君と同じに上がったメッセージが聞こえただろう?元々私の方がレベルは高かったんだ。同じになるというのは通常あり得ない。これは相手のレベルと同等にパーティメンバーのレベルを無理矢理上げるという効果なのではないか?」


 手を大げさに動かしながら早口でまくし立てるように言うステラ。隠し切れない興奮が溢れ出ている。


「つまり?」


「ゴーレムインパクトでジャイアントキリングをすればするほど強くなれるって訳だ」


「痛い思いをしなくちゃならないってことかよ……」


 すっごい嫌なんだけど。


「君の材料をアップグレードすればそこまで破壊されやすくは無いと思うぞ」


 よし。俺の異世界での最優先事項確定。いつまでも必殺技で悲鳴上げてるのはダサすぎるって。絵面的にもきつ過ぎる。ワンクール打ち切りだそんなもん。あれだな、ゆくゆくはファンタジーだしオリハルコンとか探し出したい。それで無敵の体になってやる。


「それに、さっきのスキルの獲得。あれもオークの固有スキルだろう。固有スキル持ちのユニークモンスターを倒すと獲得出来るって訳だ」


「それなかなかチートじゃね?」


 めっちゃ厨二じゃんそれ!敵のスキルのスティールって訳だろ?めちゃくちゃ主人公っぽい!ツークールいけそうじゃん!

 手に入れた【放出】の効果を見てみようと。どれどれ?『魔力の放出』……


「曖昧だな」


「スキルの効果って大体こんなものだぞ」


 パーティを組んだことにより、見られるようになった俺のステータスを見るステラ。曖昧だからこそ成長の余地があるってことか?つーかオークの放出ってそれってつまり……


「チヒロ君はパーティメンバーを増やした方が良さそうだな。最大4人まで組めるし、あと2人を見つけよう」


 コミュ障に2人にそんなこと出来んのかよ。と思った言葉はそのまま飲み込んだ。

 なんにせよクエストはクリアした。ギルドカードにもスライム討伐数は5となっている。戻ったらパーティメンバーを探すのと、体の材料の調達かな……?

 はぁ……先が思いやられるぜ。

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