体力が衰えた中年、今までの経験を活かして支援に回る。

わたかず

第三話

 3体の猩猩しょうじょうが、酒樽の隙間を縫うように、高速移動しながら来る。


「やれやれ、酔っ払いの相手は面倒だが、降り掛かる火の粉は払うまで!」

八雲は、気合を入れ戦闘態勢を取り、続けて口を開く。

「何時でも来い!!」

 大声で叫ぶと、即座に反応できるように身構える。そして数瞬後、酒樽が飛んでくると同時に、八雲に向かって3体が同時に襲いかかった。


 1体目は、低姿勢で瞬時に近づくと、足元に狙いをつけて蹴りを放ち。

 2体目は、ジャンプ一番天井に張り付き、八雲の頭上目がけて襲いかかり。

 3体目は、高速サイドステップで八雲の死角(右後方)に回り込むと、背中を狙って剛拳を繰り出した。


それは、まばたき程の一瞬の出来事だった。

3方向からの容赦ない攻撃と一切動こうとしない八雲。


 ミコは、あまりの絶望的な状況に叫ぶ事しか出来なかった。

「ダメ━━━━!!!」

しかし無情にも、猩猩しょうじょう達の、三位一体となった攻撃が八雲に牙を向く・・・。


 バギっ!ドガッ!!ズドンッ!!!

 鈍く重たい音が響き渡り、攻撃の凄まじさを肌で感じていた。

 ミコは「嘘でしょ・・・。」と、声を震わせ呆然と立ち竦んだ。


 猩猩しょうじょう達が、一方的に殴る蹴るの暴威を振るい、対する八雲は、仁王立ちで手も足も出せない絶望的な状況に見えた。


 猩猩の三位一体の攻撃と、息つく暇もない連携に翻弄される八雲。誰が見ても、八雲が殺される未来しか見えなかっただろう。


 3体の猩猩にボコボコにされる八雲・・・。

 鳴り止まない打撃音・・・。


「・・・・・ん?」


 鳴り止まない打撃音?

 普通なら、もう倒れていても不思議じゃないけど・・・どうなってるの?


 ミコが感じた違和感の正体を探すと、そこには、必死の形相で攻撃をする猩猩達と、全ての攻撃を受け止める八雲の姿が見えた。


 猩猩達が殴る蹴るを繰り返すも、八雲は倒れず平然と立っている・・・。


 猩猩達は、いつもと違う感覚と、言いようの無い恐怖感に襲われていた。その為、攻撃を止めたが最後、己の死に繋がると敏感に察知していた。


 そして、この様子を見ていたミコは、何が起きているのか分からず、ただ傍観しているだけだった。

「八雲さんは・・・どうなってるの?」

 ミコは、目の前で起こってる状況を飲み込めずにいると、不意に鬼刀きとう酒吞童子が目の前に現れた。


「こ・・・これは!?」

 ミコが驚きの表情を浮かべると、八雲の声が聞こえてくる。

「雌雄一対の鬼刀きとう酒吞童子よ・・・。彼の者に、加護を与え蹂躙せよ!鬼夜叉おにやしゃ!!」


 次の瞬間、鬼刀きとう酒吞童子が、眩い光を発し未知なる力がミコの体内を駆け巡った。


 これは・・・八雲さんの力!?

「ミコ!こいつらは俺が引き付けておく!退治の方は任せたぞ!」

 八雲の力強い声が聞こえると、体内を巡る力が、ミコに更なる力を与える。


 この、力が溢れる感じ・・・。

 さっきと同じ感覚が蘇る・・・。

 ミコが、力強くこぶしを握り締めると猩猩目掛けて突撃した。


・・・よし!ミコが突っ込んできたな。と、八雲がほくそ笑むと、直ぐに挑発スキルを発動させ叫ぶ!

「これでお前たちは、俺に釘付けだ!!」

 挑発を受けた猩猩達は、八雲に全集中、目が離せなくなった事で、隙だらけになっていた。その為、ミコの接近も容易に許してしまった。


八雲のお陰で、猩猩の死角にすんなり入った。

「よし!食らえ!!」

勢いそのままのグーパンチ!が、猩猩にクリーンヒット!

 重たい打撃音と共に吹き飛んでいくと、壁に頭から突っ込むと動かなくなった。


「流石だな。その調子で残りも頼むぞ!」

 八雲が褒めると、残り2体の猩猩がミコへと警戒を向けるが、それを見た八雲が再びスキルを発動させた。

「挑発!!」

直ぐに、猩猩達の意識を自分に振り向かせた。


 八雲のその様子を見ると、ミコが納得顔で頷いた。

「何で、僕が襲われないか解ったよ。」

 それにしても、挑発を使って自分を狙わせ、隙だらけになった猩猩を僕に狙わせるなんて、やっぱり熟練冒険者の考える事は分からないな・・・。


 この短時間で、より安全な対策法を見つけ、実践に移す対応力は、流石としか言いようがない。


 ・・・後は、あの打たれ強さの秘密だけだね。さっさと片付けて聞いた方が早いと思うから、ちゃっちゃと殺っちゃいますか!


 ミコは、戦闘態勢に入り狙いを定めると、一点に集中した。

 狙うは、2体が接近する瞬間・・・。

 僕のワンツーパンチで吹っ飛ばす!


意気込み強く、突撃するタイミングを計っていると、八雲が不意に足を出す。

その結果、勢いよく足につまずいた1体が、もう1体の方へ突っ込んでいった。


 ミコは、今がチャンスとばかりに突撃!

「狙いはバッチリ!!覚悟!!!」

 ミコが叫びながら、つまずいた1体のボディーにワンパンチ入れると、白目を向いて動かなくなる。

 次に、2体目へと距離を詰めると、素早くボディーに一発、白目をむくとその場に崩れ落ちた。

「ふう。これで最後ね。」

ミコは、頬を伝う汗を手で拭うと、その場にへたり込み、ホッと一息ついた。


「猩猩の討伐、お見事だったな。後は俺に任せて少し休んでなさい。」

八雲がミコを褒め、労いの言葉を掛けると、猩猩の方へと向かった。










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