結婚生活
誠君は、朝早くから夜遅くまで一生懸命働いた。
私は、家事とイラストの仕事を両立させるために奮闘していた。
「家のことなんて俺でもできるから、ヒロは仕事としてじゃなく、好きなイラストだけを描いてていいんだよ」
誠君はそう言ってくれるけど、誠君だけに2人の生活の基盤を背負わせるのは気が引けた。
「少しくらい私も働きたいよ。これからもっとお金も必要になるんだから」
「そんなに贅沢しなければ、2人で十分暮らしていけるよ」
「ふたり…ならね!」
「え!!もしかして?」
「うん、まだ確かめてないけど、多分…」
先月から生理が止まっていた。
仕事で精神的に病んでいた時も止まったことはあったけど、今回は違う。
「やった!ホントに?」
「うん、近いうちに病院に行ってくるから」
「そんな、呑気なこと言ってないで明日にでも行ってきてよ。それに、そんなとこに立ってないであったかくして座って…」
「大丈夫だよ、心配しすぎ!」
「だって、大事な体なんだから。うれしいなぁ、新しい家族か…」
身内での結婚式を挙げて、半年。
季節は春。
2人の生活にも慣れてきたころだった。
産婦人科の病院へ行き、2ヶ月に入ったところだと言われた。
“家族の縁が薄いんだ”と言っていた誠君にとって、新しい家族ができるということがどんなにうれしいことだったんだろう。
「ヒロ!ありがとう!俺、もっと頑張って子どもの生活費も稼がないとな」
「そんなに無理しないで。今でも目一杯働いてるんだし」
「無理じゃないよ、俺のために働くんだよ。子どもに立派な父親だって思われたいんだから」
「わかりました、お父さん」
「ん?お父さんかぁ…あー、早く生まれてこないかなぁ?男かな?女かな?どっちでもいいから元気で生まれてこいよー」
私の、見た目には何も変わらないお腹をさすりながら話しかけている誠君。
その目に、キラリと光る涙が見えた。
「ヒロ、幸せになろうな。子どもと3人、いや、4人とか5人になっても…。この家庭を俺は守るよ」
「うん、幸せになろうね」
誠君と私は、妊娠したことをお父さんとお母さんに話した。
「これからは、もっといろんなことがあると思うけど、家族みんなで頑張るんだよ。お父さんたちも応援してるからね」
「はい、おじいちゃん」
「おじいちゃん…か。なんだかくすぐったいな」
「体を大切にするのよ、浩美。安定期に入るまでは決して無理しないこと。そのうち
「はい、おばあちゃん」
「もうっ、浩美ったら」
◇◇◇◇◇
誠君は早速、私の妊娠の話を溝口君にしたらしい。
「明日、お祝いに寄るって言ってるから」
「え?お祝いって、まだそんな早すぎるでしょ?」
「いいんだよ、うれしいことはみんなでお祝いしないとね」
_____みんながアナタのことをお祝いして待ってるからね
私はそっとお腹を撫でた。
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