これから
どれくらいそうしていたのだろう?
時間の感覚がない。
冬の日差しはあっという間に翳ってきていて、泣き腫らした瞼だけが熱を持っている。
頬も手のひらも氷のように冷たい。
誠君はすぐ前にいるのに、手を伸ばせば触れることができるのに、とても遠いところにいる気がする。
手紙を通して、気持ちを伝えあっていた頃の方が、ずっと身近に感じられた…。
3年の月日と、誠君が遭遇していた環境が、2人の間にとてつもない大きな溝を作ってしまったようだ。
「ね…誠君…」
「ん?」
「もう私のことは諦めるって言ったけど、それは、もう私のことを好きじゃないってこと?」
かすれた声で問いかける。
「…俺は、ヒロのことを好きでいる資格を無くしてしまった…だから。ヒロの真っ直ぐな気持ちを受け止められるほど、強くもないし綺麗でもないんだ」
「そんなこと…聞いてない」
「え!?」
「私のことが好きか嫌いかって、ただそれだけのことを確認してるの」
「……き」
「え?」
「好きだよ、好き過ぎてだから画家になれなかった自分にも腹が立って、待たせていたひけめもあって、もう、どうしていいかわからないんだよ」
「でも、エレナさんとは…?」
「……」
誠君は答えない。
なんでもないよと言って欲しかったけど、簡単にそんなことが言えるほど軽薄な人ではない。
「そっか…。わかった、男と女だもんね、仕方ないよ。とにかく無事に日本に帰って来れてよかったね。エレナさんに感謝しないとね」
「それは、そう、だけど」
「それに子どもまでいるんじゃ、もう信じられないから」
「違う!エレナに助けてもらった時にはエレナは妊娠してた。俺の子どもじゃない」
「でも…そういうこと、したんだよね?」
「……」
「ごめん、いくら好きだと言われても、私は誠君のことがわからない、信じられないの」
「そう、だよね、わかった。話を聞いてくれてありがとう。じゃ…」
先に公園を後にしたのは誠君だった。
私はしばらくその背中を見ていた。
3年前にここで見た誠君とは違って見える、背中がとても小さくて。
少し置いて、私も歩き出した。
薄暗がりの中、前方に誠君の影が見える。
私は決して距離を詰めないように、ゆっくり歩いた。
_____これで終わり…なのかなぁ?
好きだと言われて、うれしかった。
けれど待ち続けた時間があまりにも重くて、私はもう誠君を好きじゃないような気がしていた。
それでも、エレナという女性のもとに帰る誠君を見送るのは、やっぱり心がチクリと痛む。
奥さんではないと言った。
でも恋人じゃないとは言ってない。
叶うなら、3年の時間を巻き戻したかった。
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