誠君の家まで行って、溝口君に会ってから10日が過ぎた。


「浩美、溝口さんて方からお電話よ」

「えっ、はーい」


急いで下へ降りて受話器を取る。


「もしもし?」

『よっ、神谷かみや。話があるんだけど、ちょっと出てこれないか?電話よりも会って話すから』


家からすぐの喫茶店まで来てくれると言う。


「わかった」


_____会って話さないといけないことなんだろうか?


誠君は今どこにいて何をしているのか、わかったのだろうか?

きっといい話ではない、そんな予感しかないのに必死で否定する私がいる。

知っても大丈夫だろうか?不安になるけど、それでも、なにもわからないままより確かめたほうが何倍もいい。


神谷かみや!、こっちこっち」


奥の席から手招きをする溝口みぞぐち君。


「悪いな、出てきてもらって」

「ううん、知りたいと言ったのは私だし。それで何かわかったの?」

「あぁ。まだ、俺も確かめたわけじゃないけど噂は聞いてきた」

「どんな?」

「ショックを受けると思うけど…それでも?」

「うん、知らないままよりは、ずっと気持ちが落ち着くから」

「じゃあ、まず一つ。誠は日本にいるよ」

「どこ?どこにいるの?」

「それはあとで。日本にいるけど、1人じゃないらしい、奥さんらしいブラジル人とその人の間に生まれたまだ小さい赤ちゃんといるとか」


頭が真っ白になった。


_____元気で日本に帰っていた


なのに。


「いるのは少し離れた北の方だ。ここから車で1時間くらいの町。自分のお母さんも一緒に暮らしてるらしいけど、これは噂だ。そっちに暮らしてる俺の友達が誠と偶然会って、それで話したらしいから間違いはないと思うけど…神谷かみや?!どうした、おい!!」


溝口君の声がだんだん遠くなっていった。


_____奥さん?赤ちゃん?え?誰と誰の?


うまく呼吸ができない。

息が苦しい。


神谷かみや、しっかりしろ、ほら、落ち着いて、吐いて。吸って…吐いて…」


溝口君が背中をさすってくれて、呼吸のリズムをとってくれたおかげで落ち着いてきた。

気が遠くなりそうだったけど、踏みとどまった。


「水、飲むか?」


そう言うと、コップをそっと近づけてくれた。


「ごめんな、あまりにもストレートに話し過ぎた。もっとうまく話せばよかったな」

「う、ううん…い…いの…」


溝口君は、しばらくそのままでいてくれた。


「ごめんね、心配させちゃって…」

「いや、俺はいいんだけどさ。やっぱりショックだよな?先に確かめに行こうかと思ったんだけど、行くなら神谷かみやも行ったほうがいいかなと考えたから」

「うん…」

「もしも行って確かめたいなら、住んでるとこは確認してあるから、一緒に行くよ」

「ありがとう、少し考えてみるね」


何が何だかわからない。

思考回路がぐしゃぐしゃだ。


一つ確かなことは、誠君は元気で日本にいる、そのことだけがとてもうれしいということだ。




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