5




side. Tamotsu






「くそっ…暑ぃな…。」



夏休みの電車内は、無駄に混んでいて。

クーラーが殆ど効かない中、ギュウギュウの寿司詰め状態。



そして僕は…


上原君とこれまでにない大接近を、強いられていた。







それでも下心ありありな僕は、触れてしまう事に理性で以て抗い。必死になって踏ん張りながら、なんとか上原君にぶつからないようにはしていた。


その距離も10㎝を軽く切って。

既に干上がりそうです、僕…。









高校生の交通手段は、必然的に電車かバス。

何気に上原君は原付免許を持ってるみたいだけど、二人乗りは出来ないから今回は電車。


目的地の海は、電車で30分以上は掛かるから…






(ああっ、足つりそう…)


かれこれ20分くらい。

そろそろ足も限界だよ…。







「……………」


上なんて絶対に向けない。

だって上原君の呼吸音が聞こえるぐらい、近いのが判るから…。


俯いたまま、

後少し後少しって、なんとか耐えてたんだけど───…








「うあっ…!!」


急カーブに差し掛かった所で車体がぐらりと揺れ、

背後の人が僕へとぶつかってしまい。



…と同時に、前へと倒れる僕の身体────…






「危ねっ…」


トスンと行き着いたのは逞しい胸板で。

支えるように、自然と僕の頭に手が添えられた。



おでこには熱い吐息。


ホントに、熱い…







「わわっ、ごごっゴメンナサイっ…」


慌てて後ろに身を引いたら、今度は背中からぐらり。





「バカ、離れんじゃねぇよ。」


危ねぇだろと強く肩を掴まれ、また縮まった距離。





「でっ、でもっ…」


涙目で真っ赤になる僕。

どうしても、顔や態度にすぐ出しちゃうから。



ホント嫌になる…。









「………チッ……」


暫く無言で見つめられ、つい視線を泳がせたら。






(…わわわっ…!?)


更に身体を引かれ、

強制的に抱き締められる形にされてしまった。








「あっ…えっ…?」


くしゃりと乱雑に頭を胸に押さえつけられ、

抵抗出来なくなったら。






「いーから、くっついてろ。」



ぶっきらぼうに耳元で囁かれた。






「…うん……。」



ドクン、ドクン…

僕の異常な心音に混じって聞こえたのは、


上原君の音。


照れ屋さんだから、

もしかしたら彼も緊張しているのかもしれない。







(こんなコトされたら、困るよ…。)


そう思いながら、こっそり上原君の服を握り締める。



彼の吐息、匂い、熱。

この距離が苦しくて、堪らなく愛おしい。







(あと、10分…)


出来ればずっとこのまま…とか、

そうしたら本当に心臓が壊れてしまいそうだけど。



今はそれでもいいから。

少しでもこうしていたいなって、思った。

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