第3話 半分の蒸かし芋と塩スープ

「こんちはー門番さん、入ってもいいですか?」


 俺は元気よくパンいち、いや布いち真っ裸で門番さん達に声をかける。


 街の門番さんは二人いて片方が声をかけてくる。


「なんだお前そんな裸で……街の子供じゃないよな?」


「はい、子供税が払えないので捨てられました、なので教会の孤児院を頼ろうかと、裸なのは親が何も持たせてくれなかったからです!」


 俺はまたしても元気よく、そういう設定のお話をしていく。


 俺の話を聞いた途端に、門番さん達が苦い物を噛んだような表情を見せる。


 2人の門番さんのうち年嵩の方が口を開く。


「そうか……通常なら入街税を貰う所なんだが裸の孤児じゃなぁ……一応教会に連れていってやるが入れるか分からんからな? 無理なら……申し訳ないが街の外へ放逐する事になる」


「あ、了解です、無理なら人生を諦めますので、案内よろしくお願いします」


 苦い表情をするって事は、この門番さん達も本意では無いって事なのかね。


「あ、じゃぁ俺が案内してくるっす先輩」


 若い方の門番さんが俺の案内役を買って出たので、そのまま俺は街中を案内される事に、残念だがおっちゃんの時みたく服やら布は貰えないか。


「よろしく門番さん」

「ああ、こっちだ」



 ……。



 ん? こっちって確か……ああやっぱり二ヶ所ある教会のうち貧乏な方じゃん……。



 ……。



「ここが教会なんですか」


「ああ、もう一つあるんだが、そっちは商人やらを相手にしてる教会でな、寄付金が無いと孤児は受け入れてくれない、こっちは……まぁ俺の出身地でもあるんだが、貧乏に我慢すりゃぁギリギリ生きていけるくらいはなんとかなるだろ」


 そのまま教会の中に入っていく俺達。


 そのボロボロの教会の建物の中では子供達が一生懸命作業をしている……。

 あれってリバーシのコマじゃねぇ? というか神像があって拝礼するような場所なのにまるで工場だなここは。


「子供達でお仕事をしているんですねぇ…‥」


「チッ、ありゃ代官から命じられた物で、賃金なんてほとんど出やしねーから仕事とは言えねぇんだよ」


 門番さんの口が悪くなる。

 自分の出身地に来て仕事モードから素に戻っているんだろうか。


「そんな事を言う物ではありませんよ、これをしているからこの教会の存続を許して頂けているのですから」


 子供達の監督をしていたであろう、お婆ちゃんシスターがそんな事を言いながら俺達の前に進み出て来る。


「でもさシスター! これのせいで自分達で稼ぎに行く時間がねーんだろ? 最近街の外に薪やら食える物やらを収穫しに行くガキ共を見かけないんだけど、この孤児院は大丈夫なのか?」


 門番さんが子供っぽい言動になってシスターに抗議しているから、育ての親って所かね?


「こちらは大丈夫ですから、貴方は折角掴んだ門番というお仕事を大事にしなさい、それでその子はやはり?」


 シスターさんが優しく諭すと門番さんは。


「ああ、また捨て子だってよ、どうせあっちの教会は受け入れてくれないだろうし……もうここも一杯なんだろうけど……すんません!」


 門番さんが頭を下げてシスターに謝っている。


 元々こっちは小さな教会で孤児院も小規模だったはずなんだけども、無理やりに受け入れているんだろうね……礼拝堂が子供達に占拠されてるとかよっぽどだわ。


「ではこの子はこちらで受け入れますね、貴方お名前は? 自分の年齢は判る?」

「名前はレオンです、年齢はちょっと判りません」


 さっき生まれた可能性もあるんだし、さっぱり判らない。


「そう……うちの孤児院に受け入れる代わりのお約束が二つあるの、それは……他者に善良たれ、創造神に生の感謝を捧げよ、この二つを受け入れてくれるなら大丈夫よ、出来るかしら?」


 貧乏で食うに困り死を前にすれば、生きる為に善だの悪だの言えなくなるとは思うが……。


 俺は神像に向けて、昔孤児院に居た頃に教わった礼拝の簡易文句を唱える事で、シスターの質問に答える事とした。


「今日も生を得る事が出来る事を創造神に感謝をし祈りを捧げます」


 俺がシスターに創造神に対する感謝の祈りを見せた時に、光の玉が3つ現れて俺の中に吸収されていく……。


 え?


「まぁまぁ! おめでとうレオン君、貴方は今、神様から祝福を賜ったのですよ」


「おーお前さん10歳を過ぎてるんだな! 自分の誕生日とか判るか?」


 色々と考えたい事はあるけども、取り合えず。


「ええと、誕生日は判りませんので今日この日を僕の10歳の誕生日とします」


 年齢はおっちゃんが言っていた10歳としちゃうのがいいだろう……。


「そうね……神様に祝福して貰った時を誕生日にしてしまうのも……良いかもしれませんね」


「それよりレオンの坊主、どんな祝福を得たんだ? 自分の中に入った能力を知りたいと思えば分かるはずだ、教えてくれよ!」


 ああ、それは分かっているさ、昔一度やった事だしな……言うにしても最初に持っていた能力は言わない方がいいよな?


「えっと〈財布〉〈着火〉〈水生成〉だそうです」


 俺がそう答えると、門番さんは少し残念そうにしながら。


「おっとそうか……3個あるから一つくらいはと思ったが、俺みたいに〈槍術〉とか出れば兵士として雇って貰えたのにな……」


「こら! 神の祝福に優劣をつけてはいけませんよ、火打石を使わずに火がつけられるし、お金を持ち歩くのにも便利だし、そしていつでも飲み水には困らない、良かったですねレオン君」


「ありがとうございますシスター」


 シスターも本気でそう思ってる訳じゃないんだろうけど、まぁ大抵の平民なんてこんな物……いや光る玉一つだけとかだって珍しくない。


 そうして新たに能力を得るというサプライズがあったが、孤児院に受け入れられる事が出来た。


 門番さんも帰り、俺は子供達と顔合わせだ。


 この孤児院のルールだと最年長は12歳で、13歳で施設を出なくてはいけないらしい。

 今の所人数は18人で少なく感じるかもだが、元々小規模な孤児院だったしこんなものかもしれない。


 そしてなんと、ボロボロだが半ズボンとシャツとサンダルを貰い、俺は裸族を卒業する事が出来た。


 今は蒸かし芋半分と塩スープの夕飯を頂いた後に、椅子をどかした礼拝堂の床で子供らと雑魚寝をしている所だ。


 まわりは皆眠ってしまっているので少し考え事をしている。


 まずは、さっき痛みを堪えながら洗った足の裏に、右足左足と2回〈回復魔法微〉をかける。

 ずっと靴無しの素足で歩いていたからね……これで擦り傷は治るだろう。


 元々伯爵様の館の下働きの仕事も〈回復魔法微〉を水仕事で手が荒れている人にかける仕事だった。

 朝昼晩と魔力を回復させて満タンの時に2回づつ、日に6回使うのがぎりぎりの魔力だった、勿論空いている時間は雑用をしていたけど。


 そして今魔法を使ったのだが……昔なら2回使えば魔力が枯渇しかけて気持ち悪くなる所なのに今はそうでもない。


 なのでもっかい使ってみたら……気持ち悪くなったので魔力満タンで3回使えるようになっている訳か。


 そして〈財布〉だ、これは能力が重複した子供の話の通り、容量が倍になっている感覚がする……。

 よく分からんが転生だか新生だかして魔力が増えた?

 いや……魔力も〈財布〉のように重複している?


 うーん分からんな……。


 まぁ魔力も多くなっているっぽい事を感謝するか。


 13歳で孤児院を出る子らは能力に良い物が無い限り、ほぼ冒険者になる事が決まっている。

 それなら装備代を稼いだり訓練をしたり体を作ったりしたいが、芋半分と塩スープだけじゃなぁ……。


 ま、どうにかするしかねぇべな。





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