第二部 情報屋が、最後に辿り着く場所とは?
「お疲れ!」
と、労をねぎらう言葉が響く。―― Sound good!
出陣する前のこの場所へ。
そして許可は取ってある。昼休みは終了したが、俺たちの昼休みはこれから。入口から左奥のテーブルの片隅には、この食堂で一番の人気を誇るコロッケ弁当。
気絶や眠らせた奴らは、無事に生徒会へと送ることができた。目覚めたらカツ丼とスパルタ級の取り調べ。その後、それに見合った処分が待っている。……と、そうあってほしいものだ、本当に。現実は、きっと違うもの。だから終わりなき戦いだ。
まあ、ともかく腹ごしらえだ。と、その前に確認したいことがあった。
先程の燃えるアクション……まあ、一仕事が終わって思ったことが二点ほどある。
――赤い糸。
音羽さんの武器だが、ミシンなどで使うボビンに巻き付いた糸。ボビンが錘の役割をして相手の足等に絡まり、引っ張ってこかすというもの。他の使い方もあるようだけど、俺が知っているのはそれだけだ。
二点目は俺がターバン付きの黒衣装で、
あの時だよ、ほら、十人相手の……
六人目を追いかけて校舎に入ったあの時、入り口付近の男子用トイレで着替えた。あらかじめ計画し、用意していたのだ。早坂もたぶん同じだろう。渡り廊下で繋がった向かい側の校舎の一階、出入り口付近の男子トイレで着替えたものと思われる。……よく考えたら、中等部の校舎なのに、よく大騒ぎにならなかったものだ。
言い訳じみた中でも、思いついたのはそれだけだが、まだまだツッコミどころ満載だと思う。例えるなら俺たちの武器も同様だけど、それでも俺たちは、この話を続ける。
まずは早坂の武器。……長さ二百ミリ幅十ミリの角柱型の棒。それが二つに割れる。上下逆に組み直すと、シャープペンシルというよりかはノック式のボールペンみたいに勢いよく、五十ミリほど針が飛び出す仕組みだ。
そして俺の武器はサッカーボールだが、もう一つある。今はこっちがメインで鏨。鏨といっても模型用だから、先は針と同様に鋭い。長さは百五十ミリ幅は七ミリと細身。見た目は似たような使い方と思うが、早坂は麻酔針。俺は麻酔針は使わず中国針を用いる。
やがて食は終わる。まるで休日の終わりを惜しむような、そんな感じで、
「また、誘ってくれ」
と、早坂が言った。……俺は、今までになかった不思議な感じを覚えた。
「あ、ああ」
と、そう答えるのが、やっとだった。
振り返らず歩む、そんな早坂の後ろ姿を見送りつつ……
「
と一言、音羽が言った。……その日、それが最後の一言となった。
早坂は、己が情報屋であることを隠したまま、リンちゃんのもとへ帰るだろう。いつまで続くかわからないが……俺には、もうすぐ終盤へと辿り着くような予感がした。
瞬く星を見ながら、
『それはいつ?
もしかしたら明日なのだろうか?』
と気付けば星たちに、問いかけるようになっていた。
まるで、
まるで流れ星に、お願い事をするように。
そんな感じで学園からの、この僅かな距離の範囲内での寄り道を満喫して、住処に辿り着く。階段まで錆びついている古びたアパートのことだ。それでも俺にとっては、外の世界とは違って明るい場所だ。静かに黙って……六万円を、母さんに渡した。
「いつもすまないね……」
「それは言いっこなしだよ、母さん」
この金をどうやって?
いつも六万円、中には十万円もの、高校生にとっては大金だ。
以前はアルバイトもしていたが、年齢差相がバレて大目玉で、
なので、今は情報屋一本。
――無論、そんなことは言えない。いや、それ以前に母さんは訊かない。このお金たちの入手先。……だから
「鴇、危険なことや、無理してないかい?」
と、母さんは訊いた。
俺の目を、見ていた。ドキッとした。
「大丈夫、心配すんなって」
と、すぐに笑顔。
作ったものだと、バレていても……。母さんは、それ以上は訊かなかった。
――少し、泣きそうになった。
『ごめんよ、母さん。これ以上は話せないんだ。……でもな、もうすぐだ。もうすぐ足を洗うよ。それまで待っててくれよな、もう心配かけないから……』
そうは思っても、自分でもわからなかった。
情報屋を辞めるかどうか。正直にいえば見通しもない。
……けれど、近いうちに、
その状況にまで辿り着きそうな、その様な予感がする。
たとえそうなっても俺は、
母さんや、リンちゃんだけは守ってみせる。――と、その決意を嘲笑うかのように動いたものがある。反社会勢力と
それで、またリンちゃんが狙われた。目撃してしまったそうだ、現場を。それだけではなく、学園の日常であってはならないことを知ってしまったそうだ。
本当は、情報屋稼業で手に負える事件ではなかったが、その切なる依頼を音羽は受けてしまった。そして俺たちは、衝撃的なラストを迎えることとなった。
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