第6話 スキューバダイビング殺人事件

 主人公はちょっと頼りないけどとても優しい男子高校生。彼には幼馴染の女の子がいて、2人は相思相愛の仲。そんなある日、親が再婚して連れ子の1歳年下の女の子と1つ屋根の下で過ごすことになってしまった。血の繋がりの無い妹は徐々に彼に惹かれていき・・・ 


 さて、そんな主人公の青春ラブコメ作品。

 もし週刊少年ジャンプだったら、ちょっとエッチなハプニングが起こるかも。

 週刊少年マガジンだったら、ヒロインと一線を越えるかも。

 週刊少年チャンピオンだったら、男と男が拳を交えるかも。


 週刊少年サンデーだったら?

 妹がヒロインを殺したくなります。




 そんな妹系ヒロインが私、犯崎なつみ。義兄ちゃんに絶賛片思い中。義兄ちゃんの婚約者で幼馴染、わたしとは同じ大学で同級生の恋敵を殺す予定よ。

 この込み入った感じ、まさにハーレム系ラブコメの人間関係ね。


 そんな恋敵から今、「結婚前に彼の愛を試したいから、溺れたフリ作戦に協力して」って頼まれているところ。

 何これ? 私の気持ち知っておきながら、私を嘲笑うような提案。

 殺してぇと思っています。それか集英社に移籍できたらいいなと思っています。

 ということで恋敵が溺れたフリをしている最中に殺すことに決めたわ。殺害方法はズバリ「ウミヘビに咬ませて毒殺」よ。この方法なら海の中での不幸な事故として処理される。完璧。


 さて、ウミヘビを扱うわけだけど『さすがに危険』って思うでしょ?

 でも意外とウミヘビって大人しいの。多くが温厚な性格で人に噛みつくことは少ないわ。

 ただし大人しいウミヘビには夜行性が多い。これが結構な問題。だって溺れたフリ作戦を昼に実行するわけだもの。

 じゃあ昼にも活動するウミヘビならどうか? って言われるとね。そういう種類は気性が荒いの。まぁこれは扱う私が気を付ければいい話だけどね。

 でも別の大きな問題があるわ。それは、昼行性の多くが亜熱帯に生息するってこと。犯行予定場所は伊豆。さすがにこの地域に出没しないウミヘビを誰かに見られたら怪しまれちゃうでしょ? しかも昼行性で亜熱帯以外にも生息するウミヘビとなると、今度は毒性が無いの。

 万事休す。

 そんなアナタにオススメのウミヘビがコチラ。『エラブウミヘビ』なんとこの種類は伊豆にも出没して、しかも性格は温厚。そして昼夜行性なのよ! 基本、昼は眠っているけど、たまに起きているタイプ。何とかなるわけよ!


 まぁ1つ問題があるとすれば準絶滅危惧種ってことね。食用の乱獲や生息域の減少で生息数が減少傾向にあるらしいわ。でも私は犯行後に素早くリリースするから問題なし!


 じゃあ実行しようかしら。

 サークルの皆でスキューバダイビングをして、あとは恋敵が作戦開始を言い出すまで待つだけ。合図は「新しいバスタオル取ってきて」。

 1つ不満があると言えば、この作戦は恋敵がタイミングを見て発動させるから、私にはいつどこで言い出されるか分からないっていう点ね。

 緊張と殺意のキープを強いられるってことよ。しかもこれ考えてみれば私に殺意が無かった場合でも苦痛じゃない? だっていつドッキリ開始になるか恋敵任せなのに、私にはスタンバイだけさせて放置とか。まったく人を振り回すのもいい加減にしてほしいわ。


 そんな私がタイミングにドキドキしている間に恋敵が有名人を発見したみたい。ミーハーだなぁ。そのお相手は名探偵の明智小次郎さん。

 このアマぁ!

 よりにもよって探偵とは。しかも名探偵とは! こんな時に限って。こんな時に限って!


 でも考え方によっては逆に良い流れよ。だって溺れたフリ作戦って下手すれば119番案件。それを故意に起こしたことがバレたら大目玉。

 つまり恋敵が作戦開始を決行するのは“少なくとも”探偵と別れた後ってこと。それまでの間、私は休んでいていいって事よ。


 そして私たちは明智探偵一家を交えてシーサイドレストランでお食事。

 お話を聞いていると、どうやら明智探偵も幼馴染の奥さんと結婚しているそう。だけど今はどうも険悪な関係にあるようで

「フン、幼馴染か。この甘い響きに泣いたカップルが何組いたことか」

「気心が知れた仲と、幻想を抱くのは愚の骨頂」

「まー、あんたらには無用の事だと思うが。もし、奥さんの素行に不審を感じたら、この明智探偵事務所を」

「離婚の際、ご主人から多額の慰謝料を請求したい場合は、この杭員法律事務所を」

「「ヨロシク」」

 結婚前のカップルの前で離婚寸前夫婦のさむ~い不穏をバチバチと見せてくれたわ。うん私、その不穏歓迎!


 なんて歓喜も束の間、恋敵は急に席を立って「新しいバスタオル取って来といてくれない?」を発動したの。マジで言ってんの?

 探偵の前で溺れたフリ作戦、私的にもアンタ的にもリスキーなのは言うまでもないけど。アンタ、アルコール摂取後に泳ぐの? リアルに溺れるわよ? まぁそれで死んでくれればいいけど、そうしたらエラブウミヘビの出番が無くなって可哀そう。


 そして案の定、私がタオルを取りに行くって名目で席を外して、ポーチにウミヘビセットして帰ってきたタイミングで「溺れたフリ作戦」がスタート。

 我先に救助に向かった義兄ちゃんについて私も恋敵の側に行って、ノールックでウミヘビを掴んで口を開けさせてガブッ。

 恋敵は無事にウミヘビに咬まれて、私は無事にウミヘビをリリース。

 これにてトリック完了よ。


 その後、海岸まで運ばれた恋敵がグッタリしているのを、私は皆と一緒に心配するフリ開始。もちろん本心から心配なんかしていないわ。心配は無料。私がいくら心配したところで恋敵は間違いなく毒で死んでくれるわ。

 明智探偵のところのアーサーくんが想定外の早さでウミヘビを見つけたせいですぐに応急処置が始まったけど、まぁ大丈夫。

 傷口を洗い流すために水とか海水じゃなくて、アーサーくんが急いで持ってきたアイスティーを使っていたけど、まぁ大丈夫。

 恋敵は救急車で病院に運ばれたけど、まぁ大丈夫。

 明智さんの娘さんがウミヘビの種類を驚異的な観察眼で判明していたせいで、すぐに最善の治療が行われる流れになったけど、まぁ大丈夫。

 娘さんが「わたしが見たのは、頭の後ろに小さな羽が生えてた様な気がしたんだけど」って、おそらく私がウミヘビ固定用に使ったテープの端のことを言っているけど、まぁ大丈夫よね。


 その後、明智探偵に車を出してもらって一路病院へ。

 ちょっとここで、気のせいかしら? 「今回のあれは明らかに殺人事件」とか「そう、あれは殺人だ」とか、まだ恋敵が治療中なのに不謹慎なことを誰かが言っているような気配を感じるけれど。気のせいよね?


 ということで病院に到着。

 ピンポンパンポーン

「御連絡します。クィーンホテルからおこしの杭員理恵様、同じくクィーンホテルからおこしの犯崎なつみ様。至急院長室まで。明智小次郎様がお待ちです」

 明智探偵? あの人、到着してすぐに看護師さんたちからチヤホヤされていたよね? 何か分からないけど急に呼び出されたわ。私と奥さんが一緒に。何? どういうペア? 名探偵が私のトリックを見破った、って可能性も考えたけど、奥さんの事も呼び出す意味は無いよね。ほんとどういうこと?


「あれは事故じゃない。殺人を目的とした犯行だ。彼女はウミヘビを持った犯人に、故意に咬まされたんだ。犯崎なつみさん! あなたにね!」

 やっぱり見破られてた。でも奥さんを呼ぶ意味がますます分からない。

 実際、困惑している私の代わりに奥さんが推理の反論を全部言ってくれているわ。

 だけどさすが名探偵、その反論を全て論破。奥さんを呼んだ理由には一切触れることなく、私のトリックを全て説明し尽くして・・・



 こうして、謎は全て解かれた。



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