第2話 テレビ局殺人事件

 僕はタレントの丸見罪太郎。番組を降板させられる前にプロデューサーを殺すよ。

番組の生放送中、VTRの間に殺す。トリックも思いついた。

 だけど問題がある。来月早々に記者会見で僕の降板が発表されるから、その頃に殺したら動機のある僕が一番に疑われてしまう。だから実行の機会は次回の放送日しかない。

 なのにその日に限ってゲストが言わずと知れた名探偵の明智小次郎さん。殺人事件の天敵を避けられない状況。負けられない戦いがここにはある。


 そして決戦の日。4階のミーティングルームにいるプロデューサーをVTR中の4分間に殺しに行く。スタジオのスタッフもお客さんも、全員がモニターに釘付けになるこの4分間が勝負。

 まずはこっそりスタジオを抜け出してプロデューサーに電話。4階のミーティングルームから見えるように飛び降り自殺をしてやると伝える。

 こうやって迫れば僕を止めるために窓から身を乗り出してくれるはず。無視されたら詰み。

 だけど僕はタレントの端くれ。その程度の誘導は迫真の演技で引き出してみせるさ。たとえ走りながらでも!

 そして防犯カメラに映らないでスタジオから移動できる範囲内にある第7倉庫に到着。ここまで走って約2分。その窓から覗けば僕の自殺を止めようとプロデューサーが身を乗り出した窓がまる見えになるって算段。

 さぁ、今からが一番の勝負どころ。とにかく時間が無い。4分のリミットの中で移動時間が2分。2分でスタジオに帰らないとVTRが終わってしまう。

 さらに言えば僕が銃を向けている姿をプロデューサーに見られてしまうと、さすがに驚いて部屋の中に逃げられてしまう。

 だから狙いを定めている暇は1秒すらない。勝負は一瞬。

 えっ? 真下にいる相手を狙い撃ちするだけ? そんなに難しい事じゃないって? これが楽なら、『二階から目薬』ってことわざが『ほとんど無理』な事の意味で使われないさ。まして僕がやるのは7階から4階。できるものならやってみろ!

 だが僕は出来る! 投げ捨てた写真の標的の顔だけ撃ちぬくことすらできる銃の腕前なのさ。しかもモデルガンで! つまり腕前ほぼ野比のび太!


 そんな僕の野比のび太的腕前で楽々撃ちぬいたプロデューサーの眉間。

 あとは拳銃を落として窓から部屋の中に入れて、プロデューサーの死体がズルズルと崩れればその窓が閉まる。

 あらかじめ部屋の壁に銃弾を撃ち込んで、薬莢も転がしておいたから、プロデューサーは『ドアから入ってきた犯人に窓際に追い詰められて殺された』ように見える。

 あとは急いでスタジオに戻って、何食わぬ顔で『では、みなさんまた来週』すれば、ほらこの通り。すごく忙しい完全犯罪達成。

 仕上げにミーティングルームにスタッフを向かわせれば、僕も一緒に現場に駆けつけて死体確認できる。


「なに! プロデューサーが血まみれ!?」

 スタッフからの電話で勝利確信♪ 急いで現場にダッシュ!

 と、ここで想定外が1つ。エレベーターが来ない。

 そりゃそうだ。局内で死体が見つかったって騒ぎがあればエレベーターで現場に向かう局員が一杯。僕らがどんなに急いでいたってエレベーターはやってこない。

 でもこれが意外と想定外。今の僕の立場上、急いで現場に行かないわけにはいかない。そう。走らないわけにはいかない。9階から4階まで。

 心臓が止まるぞコレ。

 全力疾走坂の企画するテレビ番組。あれって非人道的な企画なんだな。今思った。

 

 その後、警察が到着して実況見分開始。

 そこで話を聞かれた僕は涙を流して、知人を殺された悔しさをアピール。普通の犯人が悩む演技力もタレントの僕には朝飯前。

 直後に来た報道陣の前でも楽々「犯人(僕)に対する挑戦状宣言」を叫んで、目の肥えた報道陣すら欺いた。


 かつてここまで出来る犯人はいたでしょうか? トリックだけじゃなく、友人を殺された可哀想な人の演技まで完璧に。

 こんな完璧な犯人、捕まるわけがない。

 えっ? メガネの子供がいるか、って?

 いるよ。

 僕のアリバイの4分間の空白を指摘してきたよ。賢い子だよね、将来が楽しみ。

 えっ? 呑気な事言って大丈夫か、って? 大丈夫さ。

 だってスタジオからこのミーティングルームまで往復に最低でも6分かかるって、明智小次郎が身をもって証明してくれたからね。安全圏確定なのさ。

 ただ1つ惜しいことが起きた。

 “あの明智小次郎”の全力疾走なんて、絶対に数字取れるじゃないか。なのにうちの局員、誰1人カメラ持ってそれを追いかけないんだもの。

 みなさ~ん、ここテレビ局ですよ! お仕事しようね!

 まぁ警察も明智小次郎さんも僕を容疑者から外す方向に進んでくれたからいいんだけど。

 これでもう一安心。


「待ってください丸見さん」

 その時突然現場のテレビが付いたかと思うと、そこに明智小次郎さんが映し出された。

 ん? こんな映像を撮った記憶は無いぞ?

「困るんですよ。これから私の推理ショーをおっぱじめようというのに、あなたに抜けられては。犯人役の丸見さん、あなたにはね!」

 な、なんだって!?

 私の驚く横から入ってきた音声と証明スタッフ。どうやらこれは明智小次郎さんからの中継らしい。

 スタジオにいた僕に犯行は不可能だと警察が擁護してくれたけど、明智小次郎さんは不敵に笑うとトリックを説明し始めた。


 これは大変だ。

 もちろん僕が心配しているのはトリックがバレることだけじゃない。トリックがバレたからといって、それはあくまでアリバイが崩れるだけで証拠になるわけではない。

 そうじゃなくて。ちょうど今テレビに映っている映像がヤバイ。

 明智小次郎さんの代わりに拳銃を持って窓から身を乗り出したアーサーくんが「うわっ、落ちるぅ助けて!」と落ちそうになっていたから。

「お、おい明智! 何しとる!早く助けん・・・」

 アーサーくんの落下を受け止めようと必死に窓から身をのり出した警部さん。

 あぁ、プロデューサーもこんな気持ちだったんだぁ。


 パシュ

 数時間前の僕と同じように上の階から撃ち放たれたアーサーくんのペイント弾が警部さんの側頭部に命中した。

 ちょっと待って理解が追い付かない。 ヘッドショット? アーサーくんの射撃能力高すぎない?

 僕のことを棚に上げて言わせてもらうけど。警察よ、この子を早く捕まえるんだ。じゃないと将来きっと死体の山が築かれる。


 

 その後、明智小次郎さんが決定的な証拠となる携帯の発信履歴を僕に突きつけ

 

 こうして、謎は全て解かれた。

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